無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布

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4話

翌朝、遥は湊からの短いメッセージで目を覚ました。


『熱が出た。動けない』


普段、鉄人かと思うほど健康な湊からの弱音に、遥は飛び起きた。昨夜、雨に濡れたまま自分の家へ来たせいだと、罪悪感が胸を突く。


急いで支度を整え、遥は湊が住む高級タワーマンションへと向かった。


オートロックを抜け、湊の部屋の前に立つと、扉は施錠されていなかった。昨夜の彼とのやり取りを思い出し、少しだけ胸が騒ぐ。


「湊? 入るよ……」


寝室のカーテンは閉め切られ、部屋の中は薄暗い。


ベッドに横たわっている湊は、いつも崩さない前髪を乱し、苦しそうに呼吸を繰り返していた。


「湊、大丈夫? ごめんね、昨日のせいで……」


遥がそっと湊の額に手をかざすと、ひやりとした冷たさと、裏腹な熱気が指先に伝わった。


「……遅い」


湊が重い瞼を開け、遥の細い手首を掴んだ。その力は、病人とは思えないほど確かで、逃げ場を封じるような執着に満ちている。


「ごめん、すぐにお粥とか作るから。手を離して?」


「……嫌だ。どこにも行くな」


湊の声は低く、掠れていた。普段の理知的な「氷の貴公子」の面影はなく、まるで幼子が縋るような切実さが混じっている。


「……お前が俺の目の届かない場所にいると思うだけで、頭がどうかなりそうなんだ。心臓が焼けるように熱い」


湊は遥の手を引き寄せ、自分の胸元に押し当てた。


ドク、ドク、と。


規則正しく、けれど力強い鼓動が手のひらを通じて伝わってくる。


「湊、熱のせいだよ。少し落ち着いて……」


「……熱のせいじゃない。十年前から、俺はずっとこうだ」


独白のようなその言葉に、遥の心臓が跳ね上がる。十年前、それは二人がまだ高校生だった頃のことだ。


湊は遥の手を離さないまま、もう片方の手で遥の腰を引き寄せ、ベッドの上に倒し込んだ。


「わっ、湊!?」


「……昨日、鍵を開けていたのは、お前を捕まえるためだ」


湊の瞳が、暗闇の中で妖しく光った。熱に浮かされたフリをしているのか、それとも本気なのか。


「お前が俺以外の誰かに触れられるくらいなら、このままここに閉じ込めてしまいたい」


耳元で囁かれる熱い吐息に、遥の体は硬直する。


それは、長年夢見てきた告白のようであり、同時に、底の見えない暗い穴に引きずり込まれるような予感でもあった。


湊の顔がゆっくりと近づき、鼻先が触れ合う。


「遥……。お前も、俺を拒まないだろう?」


その問いかけに、遥は何も答えられなかった。


ただ、湊の瞳に映る自分自身が、ひどく熱っぽく、期待に震えていることだけを自覚していた。


「……ずっと、湊のことが好きだったんだ」


消え入りそうな声で、遥が本音を漏らす。


すると、湊の表情が一変した。それまでの強気な独占欲が、一瞬だけ脆い均衡を失ったように揺らぐ。


「……なら、二度と俺の側から離れるな」


湊は遥の首筋に深く顔を埋め、まるで自分の所有物であることを確認するように、何度もその熱い肌を吸い上げた。


それは、甘い看病の時間を超えた、終わりのない拘束の始まりだった。

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