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7話
その日の夜、遥が自宅のマンションに帰ると、玄関に見慣れない大きな段ボール箱が二つ置かれていた。
「……え? これ、何?」
首を傾げながら鍵を開けようとした瞬間、背後からスッと伸びてきた腕が、遥の腰を抱き寄せた。
「……俺だ」
耳元で囁かれた低音に、心臓が跳ね上がる。振り返らなくてもわかる、湊の匂いだ。
「湊、びっくりした……。この荷物、湊の?」
「……ああ。今日からここに置かせてもらう」
湊は当然のように遥の手から鍵を奪い取り、自らドアを開けて中に入った。遥が呆気にとられている間に、彼は荷物をリビングの真ん中へと運び込む。
「置くって……これ、何が入ってるの?」
「……俺の着替えと、仕事用の資料、それから日常的に使う私物だ」
「えっ……。それって、もしかして」
「……今日からここで暮らす。お前を一人にしておくと、佐伯のような男が隙を見て近づくからな」
湊は淡々と語りながら、ジャケットを脱いでソファに掛けた。その動作には、他人の家に入り込んだという遠慮が微塵も感じられない。
「でも、ここは狭いし、湊のマンションの方がずっと綺麗なのに……」
「……場所はどこでもいい。お前を二十四時間、俺の視界に入れておけるなら、それで十分だ」
湊は遥に近づくと、その細い首筋に指を這わせた。昨夜彼がつけた痕が、まだ赤く残っている。
「……嫌か? 遥」
至近距離で覗き込まれる、氷のような、けれど内側に狂気を孕んだ瞳。
拒絶すれば、彼はどんな顔をするだろう。悲しむだろうか、それとも、もっと力ずくで自分を縛り付けるだろうか。
「……嫌じゃないよ。湊と一緒にいられるのは、嬉しいから」
遥の本心だった。どれだけ歪んでいても、十年間憧れ続けた人が自分を求めてくれているという事実は、何物にも代えがたい麻薬のような多幸感を運んでくる。
「……いい子だ」
湊は満足げに目を細め、遥の唇を深く塞いだ。
強引で、けれどどこか縋るようなキス。
湊は荷物の中から、自分の愛用しているディフューザーを取り出し、スイッチを入れた。
瞬く間に、遥の部屋が湊の匂いで上書きされていく。
クローゼットの半分は湊のシャツで埋まり、洗面所にはお揃いの歯ブラシが並ぶ。
遥の生活のすべてが、湊という存在に侵食されていく。
「……遥、今日からお前の寝室に、俺の枕を置いた。夜中に目が覚めても、すぐに俺がいると分かるようにな」
湊は遥を背後から抱きしめ、耳たぶを甘く噛んだ。
「……もう、逃げ場なんてないと思え」
それは愛の告白というよりも、宣戦布告に近い響きを持っていた。
遥は湊の腕の中で、静かに目を閉じる。
自分の部屋が、自分だけの場所ではなくなり、湊という「貴公子」が支配する檻へと変わっていく音を、遥は心地よく聞き続けていた。
「……え? これ、何?」
首を傾げながら鍵を開けようとした瞬間、背後からスッと伸びてきた腕が、遥の腰を抱き寄せた。
「……俺だ」
耳元で囁かれた低音に、心臓が跳ね上がる。振り返らなくてもわかる、湊の匂いだ。
「湊、びっくりした……。この荷物、湊の?」
「……ああ。今日からここに置かせてもらう」
湊は当然のように遥の手から鍵を奪い取り、自らドアを開けて中に入った。遥が呆気にとられている間に、彼は荷物をリビングの真ん中へと運び込む。
「置くって……これ、何が入ってるの?」
「……俺の着替えと、仕事用の資料、それから日常的に使う私物だ」
「えっ……。それって、もしかして」
「……今日からここで暮らす。お前を一人にしておくと、佐伯のような男が隙を見て近づくからな」
湊は淡々と語りながら、ジャケットを脱いでソファに掛けた。その動作には、他人の家に入り込んだという遠慮が微塵も感じられない。
「でも、ここは狭いし、湊のマンションの方がずっと綺麗なのに……」
「……場所はどこでもいい。お前を二十四時間、俺の視界に入れておけるなら、それで十分だ」
湊は遥に近づくと、その細い首筋に指を這わせた。昨夜彼がつけた痕が、まだ赤く残っている。
「……嫌か? 遥」
至近距離で覗き込まれる、氷のような、けれど内側に狂気を孕んだ瞳。
拒絶すれば、彼はどんな顔をするだろう。悲しむだろうか、それとも、もっと力ずくで自分を縛り付けるだろうか。
「……嫌じゃないよ。湊と一緒にいられるのは、嬉しいから」
遥の本心だった。どれだけ歪んでいても、十年間憧れ続けた人が自分を求めてくれているという事実は、何物にも代えがたい麻薬のような多幸感を運んでくる。
「……いい子だ」
湊は満足げに目を細め、遥の唇を深く塞いだ。
強引で、けれどどこか縋るようなキス。
湊は荷物の中から、自分の愛用しているディフューザーを取り出し、スイッチを入れた。
瞬く間に、遥の部屋が湊の匂いで上書きされていく。
クローゼットの半分は湊のシャツで埋まり、洗面所にはお揃いの歯ブラシが並ぶ。
遥の生活のすべてが、湊という存在に侵食されていく。
「……遥、今日からお前の寝室に、俺の枕を置いた。夜中に目が覚めても、すぐに俺がいると分かるようにな」
湊は遥を背後から抱きしめ、耳たぶを甘く噛んだ。
「……もう、逃げ場なんてないと思え」
それは愛の告白というよりも、宣戦布告に近い響きを持っていた。
遥は湊の腕の中で、静かに目を閉じる。
自分の部屋が、自分だけの場所ではなくなり、湊という「貴公子」が支配する檻へと変わっていく音を、遥は心地よく聞き続けていた。
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