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16話
軟禁状態となって三日。遥は、外界から遮断された湊のマンションで、静かな狂気の中にいた。
朝から晩まで湊が用意した服を着て、湊が指示した食事を摂り、湊が帰宅するのを待つ。それは、恐ろしいほどに甘美な隷属だった。
しかし、その静寂は、インターホンの執拗な連打によって破られた。
「……誰?」
湊は仕事で不在だ。モニターを確認すると、そこには険しい表情をした羽鳥が立っていた。
「瀬戸くん! 開けてくれ、君がここに閉じ込められているのは分かっているんだ!」
羽鳥の叫び声に、遥は戸惑いながらもドア越しに応じる。
「羽鳥さん……帰ってください。僕は自分の意志でここにいるんです」
「嘘だ! 一ノ瀬に脅されているんだろう? 彼のやり方は異常だ。君を助けに来た、さあ、今すぐ……!」
その時、背後のエレベーターが静かに開く音がした。
「……俺の家で、何をしている」
氷を孕んだ低い声。湊が予定よりも早く帰宅したのだ。
「一ノ瀬……! 君のやっていることは監禁だ。瀬戸くんを解放しろ!」
羽鳥が湊に詰め寄る。しかし、湊は羽鳥を一瞥だにせず、ポケットから鍵を取り出し、ドアを開けて中へ入った。そして、怯える遥の腰を強く引き寄せ、羽鳥に見せつけるように抱きしめた。
「……解放? 勘違いするな。遥は、自分から俺を選んだんだ。……なあ、遥?」
湊の冷たい指先が、遥の頬をゆっくりとなぞる。
「瀬戸くん、騙されるな! 彼は君を壊そうとしているんだ!」
羽鳥の叫びが響く中、遥は湊の胸に顔を埋めた。湊の心臓が、見たこともないほど激しく波打っているのが伝わってくる。
「……羽鳥さん、ごめんなさい。僕は、湊くんがいないと駄目なんです」
遥の口から出たのは、紛れもない本音だった。
湊の執着に怯えながらも、その重すぎる愛に包まれている時だけ、自分の存在価値を感じられる。
「……聞こえたか。お前が踏み込んでいい場所ではない」
湊は冷酷に言い放ち、羽鳥の目の前でドアを閉めた。
静まり返った室内。湊は遥を壁に押しつけると、そのまま床に崩れ落ちるようにして、彼の膝に顔を埋めた。
「……遥、行かないでくれ。お前まで俺を捨てたら、俺は……」
「氷の貴公子」の震える声。
支配しているのは湊の方だと思っていた。けれど、本当の意味で囚われているのは、遥なしでは息もできない湊の方だったのだ。
遥は湊の黒髪を優しく撫で、その歪な愛を受け入れる覚悟をさらに深めていく。
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