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14話
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「ユヅル! 決戦の時が来ました。さあ、共に『ギンザ』という名の聖域へ向かいましょう!」
ある日曜日の午前中、アルヴィスはモデルの謝礼で潤った封筒を握りしめ、鼻息荒く宣言した。
結弦(ゆづる)は、新しくなった勇者の髪を眺めながら首を傾げる。
「銀座? アルヴィス、あそこは物価が高いよ。納豆なら近くのスーパーで十分だし、ファミチキならコンビニで……」
「いいえ。私は、この地における『最強の守護具』を手に入れたいのです。レオという術師から聞きました。想い合う者たちが同じ輪を身につけることで、離れていても心が繋がるという、伝説の装飾品……『ぺありんぐ』の存在を!」
「……美容師のレオさん、余計なこと教えないでよ」
結弦は顔を赤くしたが、アルヴィスの目はいつになく真剣だった。
彼にとって「お揃い」という概念は、異世界の騎士団における紋章や、誓いの証のような神聖なものとして変換されているらしい。
結局、二人は電車を乗り継ぎ、高級ブランド店が立ち並ぶ銀座の街に降り立った。
アルヴィスのモデル然としたルックスは、銀座の洗練された街並みに恐ろしいほど馴染んでいる。すれ違う人々が「モデルの撮影?」「海外の俳優?」と囁き合う中、当の本人はブティックの自動ドアが開くたびに「むっ、この店も不可視の風の壁(エアカーテン)で守られているのか」と分析に余念がない。
「……アルヴィス、ペアリングはこっち。そんな高い宝石店じゃなくて、もっと手頃な……」
「いいえ、ユヅル。私は妥協しません。あなたが毎日、あの『ざんぎょう』という怪物と戦う際、少しでも力が湧いてくるような……そんな加護の宿った銀の輪を選びたいのです!」
結局、二人は比較的入りやすいジュエリーショップのカウンターに座ることになった。
店員が恭しく差し出したトレイには、シンプルながらも美しいプラチナやシルバーのリングが並んでいる。
「……ほう。この細工、我が国の王室御用達の銀細工師も驚くほど精巧だ。ユヅル、これなどはいかがでしょう? あなたの指のように、細身でしなやかです」
アルヴィスが選んだのは、表面に緩やかなウェーブが刻まれたシンプルなリングだった。
結弦が恐る恐る指にはめてみると、サイズはぴったりで、控えめな輝きが意外なほど自分の手に馴染んだ。
「……うん。綺麗だね、これ」
「決まりです! 店員さん、これと同じものを私の指にも。……ぬっ、私の指は少し太すぎましたか。鍛錬のしすぎでしょうか」
「勇者様ですからね……。あ、お姉さん、一番大きいサイズありますか?」
なんとかお揃いのリングを購入し、店を出た。
アルヴィスは、自分の左手の薬指……ではなく、彼が「剣を握る際、邪魔にならないように」と選んだ右手の指で輝くリングを、何度も愛おしそうに眺めている。
「……ユヅル。これで、私たちが離れていても、私の魔力が……じゃなくて、想いがあなたを支えるはずです。もし辛いことがあったら、その輪を見てください。私が常にあなたの後ろに控えていることを思い出して」
「……ありがとう。お守り、大切にするよ」
結弦は、自分の指に宿った小さな重みを感じながら、少しだけ胸が熱くなった。
アルヴィスはこれを「お守り」だと言い張っているが、端から見ればどう見てもペアリングをはめたカップルだ。だが、不思議と嫌な気はしなかった。
「ところでユヅル! 予算が少し余りました。レオさんに聞いた、もう一つの聖なる儀式……『あふたぬーんてぃー』というものに挑戦してみませんか!」
「えっ、あれは高いし、予約とか……」
「大丈夫です! 私は既にこの『すまほ』で、一番評価の高い『ぎんざのてぃー・さろん』という拠点を特定しております! さあ、参りましょう!」
結局、結弦はそのまま高級サロンへと連行された。
三段重ねのティースタンドに乗った繊細なケーキやスコーンを見て、アルヴィスは「これは……階層ごとに異なる属性の加護が宿った、究極の供物ですね!」と大喜び。
慣れない手つきでティーカップを持ち、「この紅茶、昨日スーパーで買ったティーバッグとは香りの貫通力が違いますぞ!」と熱弁する勇者。
結弦は、そんなアルヴィスを眺めながら、自分もスコーンを一口齧った。
「……美味しいね」
「はい! ユヅルと食べるものは、コンビニのパンでも、この豪華なお菓子でも、世界で一番価値がある味がします!」
満面の笑みで言い切るアルヴィス。
その真っ直ぐな言葉に、結弦は「やっぱりこの人には敵わないな」と苦笑いした。
指に光る銀の輪と、異世界の勇者。
お人好しで始まった居候生活は、今や結弦にとって、銀座のどんな宝石よりも眩しく、かけがえのない日常に変わっていた。
「さあ、ユヅル。次はあの『デパ地下』という名の、地底の食糧庫を視察しましょう!」
「……もう、今日はそれくらいにしときなよ!」
元気いっぱいに歩き出すアルヴィスの後ろ姿を、結弦は幸せな溜息をつきながら追いかけるのだった。
ある日曜日の午前中、アルヴィスはモデルの謝礼で潤った封筒を握りしめ、鼻息荒く宣言した。
結弦(ゆづる)は、新しくなった勇者の髪を眺めながら首を傾げる。
「銀座? アルヴィス、あそこは物価が高いよ。納豆なら近くのスーパーで十分だし、ファミチキならコンビニで……」
「いいえ。私は、この地における『最強の守護具』を手に入れたいのです。レオという術師から聞きました。想い合う者たちが同じ輪を身につけることで、離れていても心が繋がるという、伝説の装飾品……『ぺありんぐ』の存在を!」
「……美容師のレオさん、余計なこと教えないでよ」
結弦は顔を赤くしたが、アルヴィスの目はいつになく真剣だった。
彼にとって「お揃い」という概念は、異世界の騎士団における紋章や、誓いの証のような神聖なものとして変換されているらしい。
結局、二人は電車を乗り継ぎ、高級ブランド店が立ち並ぶ銀座の街に降り立った。
アルヴィスのモデル然としたルックスは、銀座の洗練された街並みに恐ろしいほど馴染んでいる。すれ違う人々が「モデルの撮影?」「海外の俳優?」と囁き合う中、当の本人はブティックの自動ドアが開くたびに「むっ、この店も不可視の風の壁(エアカーテン)で守られているのか」と分析に余念がない。
「……アルヴィス、ペアリングはこっち。そんな高い宝石店じゃなくて、もっと手頃な……」
「いいえ、ユヅル。私は妥協しません。あなたが毎日、あの『ざんぎょう』という怪物と戦う際、少しでも力が湧いてくるような……そんな加護の宿った銀の輪を選びたいのです!」
結局、二人は比較的入りやすいジュエリーショップのカウンターに座ることになった。
店員が恭しく差し出したトレイには、シンプルながらも美しいプラチナやシルバーのリングが並んでいる。
「……ほう。この細工、我が国の王室御用達の銀細工師も驚くほど精巧だ。ユヅル、これなどはいかがでしょう? あなたの指のように、細身でしなやかです」
アルヴィスが選んだのは、表面に緩やかなウェーブが刻まれたシンプルなリングだった。
結弦が恐る恐る指にはめてみると、サイズはぴったりで、控えめな輝きが意外なほど自分の手に馴染んだ。
「……うん。綺麗だね、これ」
「決まりです! 店員さん、これと同じものを私の指にも。……ぬっ、私の指は少し太すぎましたか。鍛錬のしすぎでしょうか」
「勇者様ですからね……。あ、お姉さん、一番大きいサイズありますか?」
なんとかお揃いのリングを購入し、店を出た。
アルヴィスは、自分の左手の薬指……ではなく、彼が「剣を握る際、邪魔にならないように」と選んだ右手の指で輝くリングを、何度も愛おしそうに眺めている。
「……ユヅル。これで、私たちが離れていても、私の魔力が……じゃなくて、想いがあなたを支えるはずです。もし辛いことがあったら、その輪を見てください。私が常にあなたの後ろに控えていることを思い出して」
「……ありがとう。お守り、大切にするよ」
結弦は、自分の指に宿った小さな重みを感じながら、少しだけ胸が熱くなった。
アルヴィスはこれを「お守り」だと言い張っているが、端から見ればどう見てもペアリングをはめたカップルだ。だが、不思議と嫌な気はしなかった。
「ところでユヅル! 予算が少し余りました。レオさんに聞いた、もう一つの聖なる儀式……『あふたぬーんてぃー』というものに挑戦してみませんか!」
「えっ、あれは高いし、予約とか……」
「大丈夫です! 私は既にこの『すまほ』で、一番評価の高い『ぎんざのてぃー・さろん』という拠点を特定しております! さあ、参りましょう!」
結局、結弦はそのまま高級サロンへと連行された。
三段重ねのティースタンドに乗った繊細なケーキやスコーンを見て、アルヴィスは「これは……階層ごとに異なる属性の加護が宿った、究極の供物ですね!」と大喜び。
慣れない手つきでティーカップを持ち、「この紅茶、昨日スーパーで買ったティーバッグとは香りの貫通力が違いますぞ!」と熱弁する勇者。
結弦は、そんなアルヴィスを眺めながら、自分もスコーンを一口齧った。
「……美味しいね」
「はい! ユヅルと食べるものは、コンビニのパンでも、この豪華なお菓子でも、世界で一番価値がある味がします!」
満面の笑みで言い切るアルヴィス。
その真っ直ぐな言葉に、結弦は「やっぱりこの人には敵わないな」と苦笑いした。
指に光る銀の輪と、異世界の勇者。
お人好しで始まった居候生活は、今や結弦にとって、銀座のどんな宝石よりも眩しく、かけがえのない日常に変わっていた。
「さあ、ユヅル。次はあの『デパ地下』という名の、地底の食糧庫を視察しましょう!」
「……もう、今日はそれくらいにしときなよ!」
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