異世界の勇者様が俺のワンルームに逆転生(居候)してきました。

たら昆布

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25話

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「……ユヅル。今日という日は、この地における『決戦の日』であると推測される。俺も同行しよう」

平日の夕暮れ時。結弦がスーパーのチラシを手に「今日は卵が安いんだ……」と独り言を漏らした瞬間、押し入れからエルリックがトレンチコートを翻して現れた。その眼光は、まるで敵軍の本陣を見据えるかのような鋭さを帯びている。

「えっ、エルリックさん? ただの買い物だよ? 別に一人でも大丈夫だけど……」

「甘い。チラシに踊る『限定五十パック』という文字……これは、選び抜かれた精鋭のみが手にできる栄誉だ。アルヴィスのような、顔の良さだけで世渡りしている男には務まらん任務だ」

「なっ……! 貴様、私を愚弄するか! ユヅル、私も行きます! 卵という名の滋養の結晶、私の神速の身のこなしがあれば一瞬です!」

結局、結弦は右に黄金の勇者、左に冷徹な四天王という、あまりにも場違いな護衛を引き連れて近所のスーパーへと向かうことになった。

店内に足を踏み入れた瞬間、エルリックは鼻を鳴らし、店内の「配置」を瞬時にスキャンした。

「……なるほど。入り口に特売の野菜を配置し、客の足を止めさせ、奥にある高単価の肉へと誘導する陣形か。ユヅル、惑わされるな。俺たちの目的は、中央広場に鎮座する『卵』のみだ」

「エルリック、貴様は戦術に凝りすぎです。ユヅル、見てください、あちらに新鮮な林檎が! 昨日のスレイプニルの働きへの褒美に……」

「アルヴィス、そっちは罠だ! 林檎に気を取られている間に、卵の防衛線(レジへの列)が突破されるぞ!」

二人が店内で火花を散らす中、結弦はカゴを抱えて必死に小声で制止した。

「静かにして! ほら、卵のコーナーはあっち。二人とも、走っちゃダメだよ」

卵コーナーに到着すると、そこには既に主婦層による「見えない結界」のような人だかりができていた。残りあと十パック。

「……む。あの集団……ただの民ではないな。一分の隙もない構えだ。アルヴィス、貴様の軟弱な身のこなしでは弾き飛ばされるぞ」

「ふん、私を誰だと思っているのです。……ユヅル、見ていてください。これが、伝説の……『勇者の間通し(間合い管理)』です!」

アルヴィスは、人混みのわずかな隙間を縫うように、まるで風のようにしなやかに、かつ誰にもぶつかることなく卵のパックへと手を伸ばした。その動きはあまりに美しく、周囲の主婦たちが思わず手を止めて見惚れるほどだった。

「確保しました! ユヅル、これが私たちの勝利の証です!」

アルヴィスが黄金の輝きを背負わんばかりの笑顔で卵を掲げた、その時だった。

「……詰めが甘いぞ、アルヴィス」

エルリックが冷たく言い放ち、カゴの中から「納豆」と「豆腐」のパックを取り出した。それらにはすべて、まばゆいばかりの『半額』シールが貼られている。

「何っ!? 貴様、いつの間に……!」

「貴様が卵に色目を使っている間に、俺は賞味期限という名の『時間制限』を見極め、値引きを執行する店員の背後を完璧に取った。……ユヅル、これが真の効率だ。このシール一つで、俺たちの食費は大幅に削減された」

「……。……。……二人とも、本当にすごいね」

結弦は、誇らしげな勇者と、ドヤ顔の四天王を交互に見て、もはや感心を通り越して呆れるしかなかった。
レジに向かう途中、エルリックはカゴの中の納豆の並びを綺麗に整え、アルヴィスは結弦の隣を騎士のように並歩する。

帰り道。夕焼けに染まる道を歩きながら、エルリックは不意に短く呟いた。

「……ユヅル。この『たいむせーる』という戦い……悪くない。限られた資源を奪い合い、勝利を掴む……。魔界の泥沼の戦争よりも、よほど健全な闘争だ」

「そうだね。平和な証拠だよ」

「……ふん。ならば、この平和を維持するためにも、俺がこの地の流通システムをさらに研究してやる。貴様は余計な心配をせず、明日の朝食にその卵を食せばいい」

「私が最高にふわふわな状態に調理してみせます!」

勇者と四天王。
かつての強敵たちが、今や「特売」という名の戦場で背中を預け合う。
結弦の冷蔵庫が豊かになるたびに、この奇妙な共同生活の絆もまた、少しずつ、けれど確実に強固なものへと変わっていくのだった。
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