異世界の勇者様が俺のワンルームに逆転生(居候)してきました。

たら昆布

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27話

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「……ユヅル。この拠点の『防衛機能』には、致命的な欠陥があると言わざるを得ない」

翌朝、まだ結弦が眠い目をこすりながらキッチンへ向かうと、そこには既にトレンチコートを脱ぎ捨て、黒いシャツの袖をまくったエルリックが立っていた。
彼はゴミ袋が置かれたスペースを厳しい目で見下ろしており、その横ではアルヴィスが、朝食のトーストを片手に怪訝な顔をしている。

「……おはよう、エルリックさん。朝からどうしたの? 防衛機能って……ゴミ箱のこと?」

「そうだ。ユヅル、貴様はこの『もえるごみ』という分類を過信しすぎだ。中身を見ろ。生ゴミ、紙類、プラスチック……これらが無秩序に混在している。これはもはや、敵にこちらの生活水準と健康状態を一方的に開示しているようなものだ」

「エルリック、貴様は朝から何を言っているのですか。ゴミはゴミです。決まった日に外へ出せば、この地の清掃魔導師(収集車)が回収してくれる。それだけの話でしょう」

アルヴィスが呆れたように肩をすくめたが、エルリックは鼻で笑った。

「甘いな、アルヴィス。俺が軍を率いていた頃、敵の廃棄物から兵の士気や食糧難を読み解くのは常識だった。……ユヅル、今日からこの拠点の排棄物はすべて俺が管理する。貴様は二度と、無造作に袋を縛るな」

エルリックはそう言うと、手際よくゴミ袋の中身を再確認し始めた。

「まず、このプラスチック容器。汚れが付着したままでは、回収拠点での評価が下がるだけでなく、悪臭という名の広域探知魔法をバラまくことになる。洗浄し、乾燥させ、容積を最小化しろ。……馬、貴様もだ。抜け毛は専用の袋にまとめろ。床に散らすのは軍紀違反だ」

「ヒヒーン!(俺は軍人じゃないし、犬のフリをしてるだけだぞ!)」

スレイプニルが不満げに鼻を鳴らすが、エルリックはそれを無視して、今度はゴミ出しカレンダーを指差した。

「ユヅル。この『火・金』という周期、あまりに隙が多い。中間日に蓄積される廃棄物の質量が、この拠点の居住空間を圧迫している。……よって、俺は今日から『圧縮魔法(という名の物理的な踏みつけ)』を導入し、袋一あたりの密度を極限まで高めることにした」

「……あ、ありがとうエルリックさん。でも、あんまりパンパンにすると収集の人が困るから、ほどほどにしてね」

結弦が苦笑しながらコーヒーを淹れると、アルヴィスが誇らしげに身を乗り出してきた。

「主、エルリックが重箱の隅を突くような作業に没頭している間に、私は既にあなたの出陣準備(お弁当)を整えました。今日は野菜を十字の形に配置し、勝利の加護を宿しておきましたよ!」

「十字の形って……ただのブロッコリーだよね。ありがとう、アルヴィス」

「……ふん。見た目だけの加護など腹の足しにもならん。俺は貴様の弁当の隙間に、高密度なタンパク質(余ったちくわ)を効率的に詰め込んでおいた。これで午後の戦いも万全だ」

朝の慌ただしい空気の中、勇者と四天王が、一人のサラリーマンのゴミと弁当を巡って火花を散らす。
結弦にとって、以前の静かな朝は遠い昔のことのようだった。

「……よし、そろそろ行かなきゃ。二人とも、留守番よろしくね。エルリックさんはあまりゴミ捨て場で目立たないように」

「案ずるな。俺は周囲の民に溶け込み、迅速に任務を遂行する」

エルリックはそう言って、完璧な形に縛り上げられたゴミ袋を手に取った。
それはもはや、中身がゴミであるとは思えないほど美しく、幾何学的な立方体を形成している。

「行ってらっしゃい、ユヅル! あなたが戻る頃には、この地を一点の塵もない聖域にしてみせましょう!」

アルヴィスの明るい声と、エルリックの「足元に気をつけろ、人間」というぶっきらぼうな見送りを受け、結弦は家を出た。

ふとゴミ捨て場を通りかかると、そこにはトレンチコートを翻し、誰よりも几帳面な動作で袋を置くエルリックの姿があった。
カラスが近寄ろうとした瞬間、彼が放った殺気だけで鳥たちが一斉に逃げ去っていくのを見て、結弦は「……まあ、防衛機能としては最強かもな」と独り言をこぼし、駅へと急ぐのだった。
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