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23話
厨房のタイルを剥がし、秘伝のタレを消滅させてしまったガイスト様は、よほどショックだったらしい。
深夜、僕が喉の渇きでふと目を覚ますと、隣のベッド(もとい、占領された僕の寝床)で、銀色の髪が月の光に揺れながら小さく丸まっていた。
「……ナギ、起きているか。私は……私は無能だ。貴様を守ると誓いながら、貴様のタレ一つ守れんとは」
「団長、まだ引きずってたんですか。いい加減寝てください」
「眠れん。腹が減っているわけではないが、心が……心がスカスカなのだ……」
冷徹騎士団長の威厳はどこへやら。
僕は溜息をつき、ベッドから這い出した。
「わかりましたよ。今日一日頑張った団長に、とっておきの『魔法』をかけてあげます」
僕はガイスト様の手を引き、こっそりと深夜の厨房へ忍び込んだ。
昼間の大掃除(という名の破壊)を免れた予備のコンロを使い、僕は前世の「不健康の極みにして最高の幸福」を再現することにした。
使うのは、鶏ガラと豚骨から抽出した濃縮スープ。
そこへ、たっぷりの「背脂」に見立てた魔獣のラードを投入。
さらに、ニンニクを一玉分、贅沢に刻んで叩き込む。
「……ナギ、それはなんだ。その暴力的なまでに鼻を突く香りは……」
「これこそが、魂を救う禁断の呪文……『ニンニク増し増し・背徳ラーメン』です」
小麦粉に重曹(の代わりの魔粉)を混ぜて作った、コシの強い太麺。
それを茹で上げ、こってりと濁ったスープの海に沈める。
仕上げに厚切りの煮豚と、山盛りの茹でキャベツ、そしてダメ押しの刻みニンニクをドサッと乗せた。
「はい、団長。理性を捨てて食べてください」
「……あ、熱い。だが、この香りに抗えん……」
ガイスト様は、震える手で箸を取り、麺を啜った。
「…………ッッ!!? な、ななな……何だ、この衝撃は!!」
一瞬で、ガイスト様の瞳に凄まじい「生気」が戻った。
「塩分と脂、そしてニンニクの刺激が、脳を直接殴打してくる……! 下品だ、あまりにも下品だが、美味すぎる!! 体中の細胞が、この不健康な味に狂喜乱舞しているぞ!!」
「ふふ、でしょ? 落ち込んだ時は、こういうのが一番なんです」
「……ナギ。ああ、ナギ……。貴様はやはり、私を堕落させる悪魔か、あるいは救済の天使か……。ズルルッ、うまい、うますぎるぞ!」
ガイスト様は、貴族の作法など宇宙の彼方へ放り投げ、スープまで一滴残らず完食した。
食後、ニンニク臭を漂わせながら、彼は満足げに僕を背後から抱きしめてきた。
「……満たされた。心が……いや、全身が熱い。ナギ、貴様のおかげで、私はまた明日から無敵の騎士団長に戻れる」
「それは良かったですけど、団長。……明日の朝のブレスケア、大変ですよ?」
「構わん。部下たちには『魔物の瘴気を浴びた』とでも言っておく」
深夜の厨房で、ニンニクの香りに包まれながら、僕たちは誰にも言えない「背徳の共犯関係」を深めるのだった。
冷徹騎士様の理性を壊すのは、いつだって僕の作る「茶色くて濃い」料理らしい。
深夜、僕が喉の渇きでふと目を覚ますと、隣のベッド(もとい、占領された僕の寝床)で、銀色の髪が月の光に揺れながら小さく丸まっていた。
「……ナギ、起きているか。私は……私は無能だ。貴様を守ると誓いながら、貴様のタレ一つ守れんとは」
「団長、まだ引きずってたんですか。いい加減寝てください」
「眠れん。腹が減っているわけではないが、心が……心がスカスカなのだ……」
冷徹騎士団長の威厳はどこへやら。
僕は溜息をつき、ベッドから這い出した。
「わかりましたよ。今日一日頑張った団長に、とっておきの『魔法』をかけてあげます」
僕はガイスト様の手を引き、こっそりと深夜の厨房へ忍び込んだ。
昼間の大掃除(という名の破壊)を免れた予備のコンロを使い、僕は前世の「不健康の極みにして最高の幸福」を再現することにした。
使うのは、鶏ガラと豚骨から抽出した濃縮スープ。
そこへ、たっぷりの「背脂」に見立てた魔獣のラードを投入。
さらに、ニンニクを一玉分、贅沢に刻んで叩き込む。
「……ナギ、それはなんだ。その暴力的なまでに鼻を突く香りは……」
「これこそが、魂を救う禁断の呪文……『ニンニク増し増し・背徳ラーメン』です」
小麦粉に重曹(の代わりの魔粉)を混ぜて作った、コシの強い太麺。
それを茹で上げ、こってりと濁ったスープの海に沈める。
仕上げに厚切りの煮豚と、山盛りの茹でキャベツ、そしてダメ押しの刻みニンニクをドサッと乗せた。
「はい、団長。理性を捨てて食べてください」
「……あ、熱い。だが、この香りに抗えん……」
ガイスト様は、震える手で箸を取り、麺を啜った。
「…………ッッ!!? な、ななな……何だ、この衝撃は!!」
一瞬で、ガイスト様の瞳に凄まじい「生気」が戻った。
「塩分と脂、そしてニンニクの刺激が、脳を直接殴打してくる……! 下品だ、あまりにも下品だが、美味すぎる!! 体中の細胞が、この不健康な味に狂喜乱舞しているぞ!!」
「ふふ、でしょ? 落ち込んだ時は、こういうのが一番なんです」
「……ナギ。ああ、ナギ……。貴様はやはり、私を堕落させる悪魔か、あるいは救済の天使か……。ズルルッ、うまい、うますぎるぞ!」
ガイスト様は、貴族の作法など宇宙の彼方へ放り投げ、スープまで一滴残らず完食した。
食後、ニンニク臭を漂わせながら、彼は満足げに僕を背後から抱きしめてきた。
「……満たされた。心が……いや、全身が熱い。ナギ、貴様のおかげで、私はまた明日から無敵の騎士団長に戻れる」
「それは良かったですけど、団長。……明日の朝のブレスケア、大変ですよ?」
「構わん。部下たちには『魔物の瘴気を浴びた』とでも言っておく」
深夜の厨房で、ニンニクの香りに包まれながら、僕たちは誰にも言えない「背徳の共犯関係」を深めるのだった。
冷徹騎士様の理性を壊すのは、いつだって僕の作る「茶色くて濃い」料理らしい。
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