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25話
「……ナギ、これは私個人ではなく、エルドリア王家からの正式な勅命だ」
執務室に呼び出された僕の前に、ガイスト様が重厚な羊皮紙を広げた。そこには王家の紋章が刻まれている。
隣に立つレオも、いつになく真剣な表情だ。
「来月、我が国は建国記念の晩餐会を迎える。そのメインディッシュとして、初代国王が愛したという伝説の料理『琥珀の昇龍』を再現してほしいというのだ」
「琥珀の昇龍……? 名前だけ聞くと、なんだか凄そうですけど……レシピはないんですか?」
「それが問題なんだ。数百年前の大火でレシピは焼失し、今では『黄金に輝き、食べた者が天に昇るような心地になる』という曖昧な伝承しか残っていない」
ガイスト様が苦渋の表情を浮かべる。
どうやら、最近のナギの活躍(と、隣国での唐揚げ旋風)を知った国王陛下が、「ナギならできるはずだ」と無茶振りを決定したらしい。
「もし失敗すれば、ナギの料理人としての名声に傷がつく。……私はこの依頼を断るつもりだった。だが……」
「……僕に、やらせてください」
僕はガイスト様の言葉を遮って、真っ直ぐに彼を見つめた。
伝説の料理。再現不可能な味。料理人として、これほど血が騒ぐ挑戦はない。
それに、ガイスト様の婚約者として「ただの飯炊き係」ではないことを、王宮の連中に見せつけてやりたいという小さな意地もあった。
「……ナギ。貴様がそう言うなら、私は全力でサポートしよう。世界中の食材を、私の権限でかき集めてやる」
それから、僕の「伝説再現」への日々が始まった。
古文書を読み漁り、当時の食材を研究する。
「黄金」「昇龍」……。僕は前世で見た、ある『中華の技法』にたどり着いた。
「……これだ。これなら、琥珀色の輝きと、龍が昇るような躍動感を再現できる!」
晩餐会当日。
王宮の大広間には、着飾った貴族たちが顔を揃え、僕を疑いの目で見つめていた。
「平民の小僧に、建国の味などわかるはずがない」という陰口が聞こえてくる。
だが、僕は動じなかった。
厨房から運ばれてきたのは、巨大なドーム状の蓋をされた皿。
僕がガイスト様と目配せをし、一気に蓋を開ける。
「……っ!! なんだ、この光は!!」
広間が騒然となった。
そこにあったのは、透き通った琥珀色の餡に包まれた、巨大な『エビのチリソース炒め・金糸卵添え』だった。
ただのチリソースではない。
サフランと蜂蜜で黄金色に仕上げた餡の下には、揚げた春雨を龍の鱗に見立てて敷き詰め、その上で大ぶりの魔獣エビが、今まさに天に昇らんとする姿勢で盛り付けられている。
「……いただこう」
国王陛下が震える手で一口運んだ。
パリッとした春雨の食感、プリプリのエビ、そしてピリッとした辛みの後に押し寄せる圧倒的な「黄金の甘み」。
「…………素晴らしい。これだ……。かつて建国英雄が、荒野で食べたという情熱の味。そして、民を導くための希望の輝き。これこそが『琥珀の昇龍』だ!!」
国王の絶叫と共に、広間中が割れんばかりの拍手に包まれた。
僕を嘲笑っていた貴族たちも、その香りに理性を失い、我先にと皿に群がっていく。
「……ナギ。貴様という男は、どこまで私を驚かせるのだ」
人混みの向こうで、ガイスト様が誇らしげに、そして熱い眼差しで僕を見つめていた。
彼は歩み寄ると、衆人環視の中、僕の腰を抱き寄せて宣言した。
「見たか。これが私の婚約者、ナギの力だ。……陛下、これで文句はあるまい。ナギは、我がローゼンブルク家の、そしてこの国の至宝だ!」
「団長、恥ずかしいですって……!」
伝説を再現し、王宮をも胃袋に収めた僕。
しかし、ガイスト様の「自慢の嫁」への執着は、この日を境に、ついに制御不能な領域へと突入してしまうのだった。
執務室に呼び出された僕の前に、ガイスト様が重厚な羊皮紙を広げた。そこには王家の紋章が刻まれている。
隣に立つレオも、いつになく真剣な表情だ。
「来月、我が国は建国記念の晩餐会を迎える。そのメインディッシュとして、初代国王が愛したという伝説の料理『琥珀の昇龍』を再現してほしいというのだ」
「琥珀の昇龍……? 名前だけ聞くと、なんだか凄そうですけど……レシピはないんですか?」
「それが問題なんだ。数百年前の大火でレシピは焼失し、今では『黄金に輝き、食べた者が天に昇るような心地になる』という曖昧な伝承しか残っていない」
ガイスト様が苦渋の表情を浮かべる。
どうやら、最近のナギの活躍(と、隣国での唐揚げ旋風)を知った国王陛下が、「ナギならできるはずだ」と無茶振りを決定したらしい。
「もし失敗すれば、ナギの料理人としての名声に傷がつく。……私はこの依頼を断るつもりだった。だが……」
「……僕に、やらせてください」
僕はガイスト様の言葉を遮って、真っ直ぐに彼を見つめた。
伝説の料理。再現不可能な味。料理人として、これほど血が騒ぐ挑戦はない。
それに、ガイスト様の婚約者として「ただの飯炊き係」ではないことを、王宮の連中に見せつけてやりたいという小さな意地もあった。
「……ナギ。貴様がそう言うなら、私は全力でサポートしよう。世界中の食材を、私の権限でかき集めてやる」
それから、僕の「伝説再現」への日々が始まった。
古文書を読み漁り、当時の食材を研究する。
「黄金」「昇龍」……。僕は前世で見た、ある『中華の技法』にたどり着いた。
「……これだ。これなら、琥珀色の輝きと、龍が昇るような躍動感を再現できる!」
晩餐会当日。
王宮の大広間には、着飾った貴族たちが顔を揃え、僕を疑いの目で見つめていた。
「平民の小僧に、建国の味などわかるはずがない」という陰口が聞こえてくる。
だが、僕は動じなかった。
厨房から運ばれてきたのは、巨大なドーム状の蓋をされた皿。
僕がガイスト様と目配せをし、一気に蓋を開ける。
「……っ!! なんだ、この光は!!」
広間が騒然となった。
そこにあったのは、透き通った琥珀色の餡に包まれた、巨大な『エビのチリソース炒め・金糸卵添え』だった。
ただのチリソースではない。
サフランと蜂蜜で黄金色に仕上げた餡の下には、揚げた春雨を龍の鱗に見立てて敷き詰め、その上で大ぶりの魔獣エビが、今まさに天に昇らんとする姿勢で盛り付けられている。
「……いただこう」
国王陛下が震える手で一口運んだ。
パリッとした春雨の食感、プリプリのエビ、そしてピリッとした辛みの後に押し寄せる圧倒的な「黄金の甘み」。
「…………素晴らしい。これだ……。かつて建国英雄が、荒野で食べたという情熱の味。そして、民を導くための希望の輝き。これこそが『琥珀の昇龍』だ!!」
国王の絶叫と共に、広間中が割れんばかりの拍手に包まれた。
僕を嘲笑っていた貴族たちも、その香りに理性を失い、我先にと皿に群がっていく。
「……ナギ。貴様という男は、どこまで私を驚かせるのだ」
人混みの向こうで、ガイスト様が誇らしげに、そして熱い眼差しで僕を見つめていた。
彼は歩み寄ると、衆人環視の中、僕の腰を抱き寄せて宣言した。
「見たか。これが私の婚約者、ナギの力だ。……陛下、これで文句はあるまい。ナギは、我がローゼンブルク家の、そしてこの国の至宝だ!」
「団長、恥ずかしいですって……!」
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しかし、ガイスト様の「自慢の嫁」への執着は、この日を境に、ついに制御不能な領域へと突入してしまうのだった。
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