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32話
「ナギ君! 話は聞いたよ! 君がキノコの精霊……ではなく、子を授かったというのは本当かい!?」
公爵邸の正面玄関を、爆音と共に蹴破って現れたのは、サザランド王国のセドリック王子だった。
相変わらずのキラキラしたオーラを振りまいているが、その目はガチである。
「セドリック殿下!? ですから、あれはただのキノコの食べ過ぎによる魔力酔いで……」
「言い訳はいい! そもそもガイスト、君という男がいながらナギ君にキノコを過剰摂取させるなんて、管理不足にも程がある。いっそ僕がパパ(代理)として、この家で暮らすことに決めたよ!」
「……セドリック。貴様、その口を今すぐ縫い合わせてやろうか」
二人の間に、目に見えるような火花(というか殺気)が散る。
ガイスト様は既に抜剣しており、王子も護身用の魔導杖を構えている。
このままでは公爵邸がまた半壊してしまう。
「二人とも、やめてください! 落ち着かないなら、これでも食べて頭を冷やしてください!」
僕は二人の間に割り込み、お盆に乗せた「黒い塊」を突き出した。
「……ナギ、これはなんだ。泥か?」
「失礼な。これは『餡子(あんこ)』、僕の故郷の究極の癒やし食材です」
僕は、小豆に似た『魔豆』をじっくりと煮込み、キビ砂糖で丁寧に練り上げた。
それを柔らかい求肥(ぎゅうひ)で包み、さらに中心には大きなイチゴ(の代わりの『甘晶イチゴ』)を入れた、特製『いちご大福・ナギスペシャル』だ。
「……何だ、この触感は。赤ん坊の頬のように柔らかいではないか」
ガイスト様とセドリック王子は、不審がりながらも大福を口に運んだ。
パクッ……。
モニュ……。
「…………ッ!!!」
二人の動きが、同時に止まった。
「な、なんだこの優しい甘さは……! モチモチとした皮を突き破った瞬間、甘酸っぱい果汁と、それを優しく包み込む餡のハーモニーが、荒れ狂った私の心を浄化していく……」
「……ああ、僕の中の嫉妬の炎が、清らかな小川に流されていくようだ。ナギ君……君は、和菓子の神様なのかい?」
あんなに殺気立っていた二人が、今は寄り添うようにして、大福を咀嚼しながらうっとりとしている。
和菓子特有の「お茶が欲しくなる魔法」も発動し、僕はすぐさま淹れたての緑茶を差し出した。
「……ふぅ。セドリック、貴様がここに来た理由は不問にしてやる。だが、ナギに指一本触れたら、この大福の代わりに貴様を餡子にして練り上げてやるからな」
「相変わらず怖いね。でも、このお菓子を食べている間だけは、君と停戦してもいいかな」
結局、セドリック王子は「ナギ君の和菓子を食べる会」の会員(自称)として数日間滞在することになった。
ガイスト様は相変わらず嫉妬でギラギラしていたけれど、僕が「あーん」で大福を食べさせてあげると、一瞬で「ただのデレデレな旦那様」に戻るのだった。
「ナギ……。やはり貴様を独り占めするには、全世界を敵に回す覚悟が必要なようだな」
「団長、まずはその物騒な独占欲を餡子と一緒に飲み込んでください」
公爵邸に、束の間の(甘い)平和が訪れたのだった。
公爵邸の正面玄関を、爆音と共に蹴破って現れたのは、サザランド王国のセドリック王子だった。
相変わらずのキラキラしたオーラを振りまいているが、その目はガチである。
「セドリック殿下!? ですから、あれはただのキノコの食べ過ぎによる魔力酔いで……」
「言い訳はいい! そもそもガイスト、君という男がいながらナギ君にキノコを過剰摂取させるなんて、管理不足にも程がある。いっそ僕がパパ(代理)として、この家で暮らすことに決めたよ!」
「……セドリック。貴様、その口を今すぐ縫い合わせてやろうか」
二人の間に、目に見えるような火花(というか殺気)が散る。
ガイスト様は既に抜剣しており、王子も護身用の魔導杖を構えている。
このままでは公爵邸がまた半壊してしまう。
「二人とも、やめてください! 落ち着かないなら、これでも食べて頭を冷やしてください!」
僕は二人の間に割り込み、お盆に乗せた「黒い塊」を突き出した。
「……ナギ、これはなんだ。泥か?」
「失礼な。これは『餡子(あんこ)』、僕の故郷の究極の癒やし食材です」
僕は、小豆に似た『魔豆』をじっくりと煮込み、キビ砂糖で丁寧に練り上げた。
それを柔らかい求肥(ぎゅうひ)で包み、さらに中心には大きなイチゴ(の代わりの『甘晶イチゴ』)を入れた、特製『いちご大福・ナギスペシャル』だ。
「……何だ、この触感は。赤ん坊の頬のように柔らかいではないか」
ガイスト様とセドリック王子は、不審がりながらも大福を口に運んだ。
パクッ……。
モニュ……。
「…………ッ!!!」
二人の動きが、同時に止まった。
「な、なんだこの優しい甘さは……! モチモチとした皮を突き破った瞬間、甘酸っぱい果汁と、それを優しく包み込む餡のハーモニーが、荒れ狂った私の心を浄化していく……」
「……ああ、僕の中の嫉妬の炎が、清らかな小川に流されていくようだ。ナギ君……君は、和菓子の神様なのかい?」
あんなに殺気立っていた二人が、今は寄り添うようにして、大福を咀嚼しながらうっとりとしている。
和菓子特有の「お茶が欲しくなる魔法」も発動し、僕はすぐさま淹れたての緑茶を差し出した。
「……ふぅ。セドリック、貴様がここに来た理由は不問にしてやる。だが、ナギに指一本触れたら、この大福の代わりに貴様を餡子にして練り上げてやるからな」
「相変わらず怖いね。でも、このお菓子を食べている間だけは、君と停戦してもいいかな」
結局、セドリック王子は「ナギ君の和菓子を食べる会」の会員(自称)として数日間滞在することになった。
ガイスト様は相変わらず嫉妬でギラギラしていたけれど、僕が「あーん」で大福を食べさせてあげると、一瞬で「ただのデレデレな旦那様」に戻るのだった。
「ナギ……。やはり貴様を独り占めするには、全世界を敵に回す覚悟が必要なようだな」
「団長、まずはその物騒な独占欲を餡子と一緒に飲み込んでください」
公爵邸に、束の間の(甘い)平和が訪れたのだった。
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