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「お前、俺と婚約させてやる。嬉しく思え!」
「お断りさせていただきたく存じます。」
「………は?」

ノアヴェルト王子、サリアティア、共に6歳の時のことであった。



10年後、王都学園にて

「サリアティア、そろそろ覚悟は決まったか?」
「何のことでございましょうか?」

分かってはいるが、知らないフリをする。

「俺との婚約だ。」
「…」
「……まだか。」

ノアヴェルトは肩を落としてサリアティアから離れていく。このやり取りは、あの日から定期的に行われていた。

婚約については、お父様から『サリーに任せるよ。』と言われているが、それにしたって、王族からの話を断るなど問題がありそうなのだが…。

「何のお咎めもないのよね。」
「ちょっと!」

サリアティアが首を傾げていると、数人を引き連れた一人の令嬢に声をかけられる。

ミスティ侯爵令嬢だわ。

「はい、何でございましょう?」
「何、ではないわ!貴方、ノアヴェルト殿下にあのような態度、不敬でしてよ!」
「「「「そうよ、そうよ!」」」」
「ええ。私もそう思いますわ。」
「…は?」
「今も考えていましたの。何のお咎めもないのは何故でしょう?」
「…私を馬鹿にしているの?」
「いいえ。純粋な疑問ですわ。」
「もういいわ!とにかく、殿下へ近づくのはおやめなさい!」
「私が、近づいているわけでは、」
「い·い·わ·ね!」
「…善処いたしますわ。」
「善処?!近づかないと言いなさい!」

面倒くさくなってきましたわね…。同じ侯爵家だし、もう無視してもいいですわよね…。

「…それでは、失礼いたします。」

サリアティアが歩き出しても、後ろの方でまだ何か言っているのが聞こえるが、そのまま進んでいく。

はぁ…殿下には困ったものね。
もう諦めてくれないかしら。
そしたら、こんなことにならないのに…。

「ふぅ…」

サリアティアは、小さく溜息をついた。




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