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翌朝
この日は休日のため、朝食後にのんびりとお茶を飲んでいた。

「サリアティア様、ノアヴェルト殿下より花束が届いております。」
「え?」

侍女の声で、テーブルから侍女の手元に視線を移す。

「それは…」

侍女は私の好きなガーベラの花束を抱えていた。

「きれいね。いろいろな色が入っているわ。」
「生けてまいりましょうか?」
「そうね。お願い。」
「畏まりました。」

侍女は一礼して部屋を出ていった。

「それにしても…」

殿下ったら、急にどうなさったのかしら。
…誰かから言われたのかしらね。きっと、そうに違いないわ。

「とりあえず、お礼の手紙を書かなくてはならないわよね。」

………面倒ね。

「サリアティア様、お花をお持ちいたしました。」

先程、出ていった侍女が戻ってきた。

「ありがとう。そこに置いて。」

そう言い、サリアティアは壁際の台を指す。侍女は指示された場所へ置きながら、にこやかにサリアティアへ声をかけた。

「それにしても、殿下はおしゃれなことをなさいますね。」
「どういうこと?」
「このガーベラ、11本ございました。」
「それが?」
「花には贈る本数で意味を持つものがあります。ガーベラ11本は『貴方は私の最愛の人』でございます。」
「最愛…?」
「はい。」
「…まさか。偶然でしょう。」
「そうでしょうか。サリアティア様の好きなガーベラを11本…偶然ではないと思いますが。」
「そんなの、あるはず無いわ。もしそうでも、困るわよ。私は王族に嫁ぎたくないもの…。」
「サリアティア様は、以前からそう仰っていますが、何故そこまで嫌がられるのですか?」
「王族よ?皆に見られているのよ?国民のために存在するのよ?下手な失敗なんてできないのよ?そうならないための努力は生半可ではないはず!めんど…いえ、私には荷が重いわ。」
「今、『面倒』と…」
「聞き間違いよ。」
「…」
「ね!」
「…そうでございますね。」
「そうそう。殿下も気まぐれが過ぎるわね。もっと良い人はたくさんいるのに。」
「気まぐれで10年は長すぎると思いますが。」
「ん?何か言った?」
「いえ、何も。」
「そう?まぁ、気まぐれでも、冗談でも、お礼の手紙は書かなくてはならないわ。お花は純粋に嬉しいし。」

サリアティアは、侍女にレターセットを用意してもらい、お礼の手紙を書き始めた。






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