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1章 長い長いプロローグ(後編)
かくれんぼ②
しおりを挟む時間を忘れてそれに夢中になっていた時、部屋の中が明るくなった。
「ランディ、みぃーっけ」
「ヤバっ、痛ッ!?」
「ぷぷぅ」
焦って部屋から出ようとしたらしく頭を打ったランディに笑ってしまった。睨まれたけど、目が合うとお互いすぐにそらした。
ランディを見ていられない。恥ずかしくてやっぱり死にそう。
真っ赤な顔のまま部屋から出れば、ご立腹のジョージが仁王立ちしていた。何で怒ってるんだろ。
「かくれんぼは終わりだ!ランディ、話がある!わたしの部屋まできなさい!」
「父さんの説教は長いからなぁ……」
どうやら怒られるのはランディだけのようだ。良かった、悪いことしたのかと思ってヒヤヒしてしまった。
「ねぇ、ジョージ。優勝は誰?」
「先にランディの名を言ったから、優勝はお猫様だよ。命令は何かな?」
「んー、忘れちゃったからジョージのお説教をウザそうに聞くランディを観察しながら思い出してみるね!」
「おー、よしよし、器用だねぇ、偉いねぇ、可愛いねぇ」
「お猫様贔屓過ぎるよ。親なら親らしくもう少し大人の対応をした方がいいんじゃない」
「ランディは黙ってなさい!」
「(キスの代価が説教か。そのくらい安いもの……キスしちゃったってことは……あれ!?これって両想い!?)」
かくれんぼがキッカケでランディをさらに意識し始めたけど、それはまた別の話ってことで、今は命令を思い出すことが最優先だ。
「いっそのこと、お猫様をランディのお嫁さんにしたらどうだろう」
「気持ちは分かるけど、バレるとマズイんじゃないの?それでもいいなら願ったり叶ったりなんだけど」
「……お猫様の幸せ、か」
「あ、思い出した!ジョージ、あのね、命令なんだけど」
「なんだい、お猫様。欲しいものがあるなら何でも買ってあげるよ」
「誕生日がほしいの」
「……はて?タンジョービ?」
「今度ランディの誕生日パーティーするって言ってたでしょ?でも、私の誕生日パーティーの予定がないの。なんでだろって考えたら誕生日が分かんないって疑問に行き着いたの。私ね、自分の誕生日がほしい」
「うわああああ!!!」
ジョージが絶叫した。
「うわああああ!!!」
ランディも絶叫した。
親子そろってたまにこういうことがあるので落ち着くまで放置してると、今度は「本当にごめんよ、お猫様!」と二人絶叫しながら、床に這いつくばった。
「誕生日を忘れるなんてあるまじきだ!クソッ、父さんのせいで悲劇が起きた!」
「誕生日……誕生日……クソッ、ランディが少しでも気づいてくれてれば悲劇なんて起きなかったのに!」
床をバンバン叩きながらお互いに罪を擦り付けている今この瞬間こそ、ある意味悲劇的だと、お猫様はそう思う。
「しかし誕生日となると、ノリで決める訳にもいかんな。キチンとした占い師に決めてもらった方がいいのかもしれん」
「誕生日ってだけで占いが出来るくらいだもんなぁ。でも、2月22日もいいと思うけど。ほら、ニャンニャンニャンって意味で」
「おお!それは何ともお猫様にピッタリの可愛らしい誕生日だな。では、2月22日のニャンニャンニャン、猫の日がお猫様の誕生日ってことにしよう!」
「っていうか、僕がお猫様の誕生日を決めたってことだよね!うわー、どうしよう!ある意味記念日なんだけど!カレンダーにメモしとかなきゃ」
「せっかく誕生日が決まったんだ、今年の誕生日は気合いを入れてしようと思うのだが」
「賛成!父さんにしては素晴らしい案だよ!」
「……こうしちゃおれんな。どっかのランディに負けないように、お猫様の誕生日プレゼントを用意しなければ」
「そうだね!ぼくも父さんに負けないプレゼントを見繕わなければ!」
「小遣いはやらんぞ」
「ホンット大人ってえげつない」
「一銭もやらんぞ」
「……ちょっと、マジで言ってる?」
台風のような騒がしい親子はまた言い合いをしながら部屋から出て行った。いろいろとツッコミたいことがあるけど、ランディが誕生日を決めてくれたことが嬉しくて、口がニヤニヤしてしまう。
2月22日がお猫様の誕生日。
ニャンニャンニャンの日。
忘れっぽい私でもずっと覚えていられる数字。ランディが誕生日をプレゼントしてくれた。理由はアレだけど、ランディが与えてくれたのだ。嬉しくないはずないじゃないか。
「ニャハハ、照れるにゃ!」
次のランディの誕生日は、このお礼も含めてプレゼントしよう。
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