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1章 長い長いプロローグ(後編)
私の願い事②
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どのくらいの時間が流れたんだろう。体感的に一日だと言いたいけど、まだ数時間程しか経っていないと思う。
何度も何度も深呼吸をした。体の震えは止まらないけど、涙と鼻水は止まってくれた。
よーく耳をすますと、しんと静かだ。
「……もう、……いいのかな」
あれだけ騒がしかったんだもの、お客さんは帰ったと思う。そう思った私は隠し部屋の扉を開けた。オレンジ色の光が今は夕方なのだと教えてくれた。
「……ジョージ」
すぐに部屋から出て書斎へ向かう。やはり誰も居ない。書斎に入るとジョージが机に突っ伏していた。
「お客さん帰ったのなら教えてくれてもいいの……に……」
ジョージに近づいてまず最初に目に入った違和感は、机の上がどす黒い赤に染まっていたこと、その中に生肉のようなものがあること。
「ジョージ?」
肩を揺すってみたら、抵抗もなく床に倒れた。その衝撃で頭から何か生肉のようなものが飛び出した。
「……へ?」
ジョージの頭に穴があいている。駆け寄って思わず肉を詰めたけど、ジョージは目を開けたまま動かない。
動かない。
ウゴイテイナイ。
「あ、……あ、ああ!ジョージ!」
落ちてる肉も血も詰めても、まぶたすら動かなくなってる。胸に耳を当てて音を聞こうとして、ようやく気づいた。書斎の扉の横に三人の男性が立っている。
右から黒髪の短髪の男性。金髪の綺麗な顔をした男性。そして今日会った怖そうな男の人。
「あ、なたは……」
怖そうな男の人に声を掛けると、金髪の綺麗な顔をした男性が微笑みを浮かべながら近づいてきた。
「ようやく思い出したんだね。お前が脱走してからずーーーっと探していたんだよ」
「え?」
いやお前誰だよって言う前に、金髪の男性は私の前にしゃがんで、大きく振り上げた手を下ろした。その瞬間、激痛が走り体が倒れた。何をされたのか理解が追いつかない。
「できの悪い猫にはお仕置きだね」
でも金髪の男性は倒れた私に馬乗りになって、何度も何度も顔を叩いてきた。鼻が痛い。目も痛い。口の中も痛い。抵抗したいのに、怖くて何も出来ない。
「ふぅ、……さて、反省してくれたかな」
まるで人柄が変わったように、金髪の男性は血まみれの私の顔をハンカチで拭き始めた。まるで自分は悪くないと言わんばかりのことを言いながら。
「俺だってこんなことをしたくないんだよ。何度言ってもお前が学ばないから、こうするしかない。お前が学んでさえくれたらこんな目に遇わずに済むのに。ああ、お前のせいで、俺の心はとても苦しい」
優しいを絵に描いたような微笑みに、歯がガチガチと鳴り、自然と涙と鼻水が流れてきた。
「さぁ、一緒に帰ろう」
それは本能なんだと思う。無意識に首を横に振った。
「……もしかして、……また、……忘れてるのかな」
また殴られると思った。そのくらい今の声は恐ろしかった。すぐに腕を上げて頭を隠したけど、今度はお腹を殴られた。
「ぐっ」
「あーあ、今回もハズレ。もう何百回目だよ、いい加減にしてくれないか。俺は暇じゃないんだぞ」
「がっ」
殴られて胃が変形したのが分かる。お腹を押さえて我慢したけど無理だった。内容物を吐き出したら、ジョージの靴にかかってしまった。
「こらこら、汚したらだめだろう。……さて、次のお前に会う前に……あの男が言ったことが本当か確認しないと」
金髪の男性がワンピースの裾をたくしあげた。履いてる下着を無理矢理脱がすと、足を開いて……
「やだ!やだ!」
今からやられることが分かって急いで抵抗すると、金髪の男性は所持していたナイフを太ももに突き刺した。
「ああああ!」
突き刺したナイフをゆっくりと動かして肉を割いていく。そのすきに、股に太いものを突き刺した。どっちが痛いのか熱いのか、何でこんな目に遇うのか、理解不能過ぎて……
「……これは……」
「もう、やだぁ!ジョージ、ランディ、たすけてっ!たすけてっ!」
いくら助けを呼んだって、ジョージは動かないしランディは居ない。それでも助けてほしくてジョージに手を伸ばす。虚しくもその手は金髪の男性に取られてしまった。
「いつか浮気をするだろうと覚悟はしていたけど、まさか本当に……」
金髪の男性が手と股を離してくれた。すぐにジョージに近づいて、お腹に顔を埋めた。涙も鼻水も止まらなかった。
「ジョージっ、ジョージっ!」
鼓膜が破れそうな音がした。何回も、何回も。その音がジョージに当たると肉が飛び散った。
ジョージの顔がなくなった。
「や、だぁ」
声を上げて泣いても動いてくれない。
それだけは、認めたくない。
「黙れ」
「ぐっ」
金髪の男性は私を殴ったあと、また股に太いものを入れてきた。擦られるほど痛くて痛くて、耐えることが出来ない。
そんなとき、部屋のすみに立っている怖そうな男性と目が合った。ジョージが味方だと言ってたこの人なら……と、必死に手を伸ばした。
「た、すけ、て!ジョージをたすけて!」
怖そうな男の人は目をそらした。その口から血が出ていた。
「な、んで……なんで……」
必死に伸ばした手に、金髪の男性の手が絡み付く。ぞぞぞと毛が逆立つ。それに構わずに金髪の男性がキスをしてくる。
ぬるぬるした唾液と舌の感触、あまりの気持ち悪さに耐えきれず、嗚咽を洩らした。
もう、心も、頭も……限界だ。
「浮気者にお仕置きをしてあげないと」
股の中のものがなくなったから、すぐに逃げる。ふらふらと揺れる体を支配するのは、金髪の男性。逃げる私の体を無理矢理動かした。まるで操られた人形だ。
「ほら、お前のだーいすきな男に見せてあげようね」
「ひっ」
ジョージの顔に股がって四つん這いをさせられたあと、後ろから股の中に突き刺した。
「だめだよ、気持ちいいからって顔に垂らしたら。まっ、肝心の顔はもう無いんだけどね」
悔しくて許せなくて殺したくて、ぎぃっと歯を食い縛ったら、奥歯からバキンと音が鳴った。
「ははっ、怒ってるの?膨らんでるけど」
「いだぁっ!」
尻尾を掴むと引っ張ってきた。千切れそうな痛みに床に爪を立てる。一枚爪がめくれた。
「……ん、いいね、これ。淫乱のガバガバな穴がシマッて、……っ」
中に何かを出されてる。気持ち悪くてまた吐き出した。でも何も出てこない。ヨダレしか出てこない。
「ほらほら、ちゃんと力を入れて。じゃないと俺の精子がお前のだいすきな男の顔に落ちてしまうよ」
「っ!」
言わんことが分かって股間に力を入れると何かがぬぅと抜けていく。でも中から出た液体がジョージの顔に垂れた。
「……ふぇ、……あああ!あああ!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
ごめんなさいと謝るしかなかった。謝ったって許されるわけないのに。
「ああ、かわいそうに。でも、これもお前が悪いんだよ。お前が浮気するから、……俺から離れていくから」
金髪の男性が髪の毛を引っ張る。痛みでしかめる私の耳元でささやいた。
「こいつの一人息子はランディだったかな」
「っ」
「そいつも殺してあげたよ」
「……え?」
「最期まで抵抗してたから教えてあげたんだ。父親を殺したあと、死体の前で犯してあげるって。ひどく怒ってうるさかったから首をハネたんだ。ほら、持ってこい」
そう言うと黒髪の短髪の男性が目の前で袋から何かを取り出した。それを金髪の男性に渡すと、金髪の男性はそれをジョージに向かって放り投げた。
ランディの、頭を。
「全部お前が悪いんだよ。俺から逃げようとするから、お前が関わった全ての人がこうなるんだ」
「わたしの、せい」
「そうだよ。お前が俺のそばにいれば、この二人もこうはならなかった。ほら、見てごらん。どれもこれもお前のせいだ」
首だけのランディと目が合った。
ジョージは顔がなかった。
なんかもうこれ以上のことを考えられなくて、考えたくもなくて、考えることを放棄したら、おしっこが勝手に出てきた。
「あ、そうだった。浮気者のお前にプレゼントだよ」
金髪の男性が下着を履かせてきたけど抵抗する気すらない。もう、いい。ここで終わりたい。終わらせてほしい。これ以上は、生きたくない。
「あ、あ、ああ……」
床に落ちているナイフを見つけた。すぐに拾い、お腹に突き刺す。1ヶ所じゃ死にきれないと思って、何度も刺した。
迷いも恐怖もない。
痛みもない。
地獄は、ここだ。
今が、地獄だ。
「まーた自殺か。それはそれでいいんだけど。また目覚めたら遊んであげるよ」
私は死を選んだはずなのに、金髪の男性はさも私が生きるようなことを言っている。
「もう、お、わり……だよ」
「終わるわけないだろう。お前は不老不死だよ。ずっとぼくだけのーー」
意識が朦朧とする中、誰かの手が私を抱き上げ走り出した。遠くで金髪の男性の怒声がする。それでも止まることなく走っている。
「すんませんっ、すんませんっ!」
誰に謝ってるのかわからないけど、私を助けてくれたのは確かだ。うっすら目を開けると黒髪が見えた。
「あ、りが、とう」
「ほんとうに、すんませんっ!」
そういえば家から出るのはこれで二度目だと、霞む視界で空を見上げる。
真っ青な空に、ふわふわの雲。
金木犀の香りが鼻を刺激する。
そよ風が頬を撫でる。
今日も白く薄い月がある。
今なら掴めるかなと手を伸ばしてみたら、真っ赤に染まった手が見えた。
真っ赤になった、ジョージとランディと同じ。
それが嬉しくて、一人で笑った。
「あは、あはは」
帰りたい、おうちに。
帰ろう、二人の元に。
ようやく、これで……
「死ねないあなただけどもっ、おれが、まもってみせます!かならずっ、おれが!」
ほらね、やっぱり私の想いは、金木犀の香る風に乗って消えていくんだ。
殺してほしいと、もう何度も、願っているのに。
私の願いは、叶わない。
何度も何度も深呼吸をした。体の震えは止まらないけど、涙と鼻水は止まってくれた。
よーく耳をすますと、しんと静かだ。
「……もう、……いいのかな」
あれだけ騒がしかったんだもの、お客さんは帰ったと思う。そう思った私は隠し部屋の扉を開けた。オレンジ色の光が今は夕方なのだと教えてくれた。
「……ジョージ」
すぐに部屋から出て書斎へ向かう。やはり誰も居ない。書斎に入るとジョージが机に突っ伏していた。
「お客さん帰ったのなら教えてくれてもいいの……に……」
ジョージに近づいてまず最初に目に入った違和感は、机の上がどす黒い赤に染まっていたこと、その中に生肉のようなものがあること。
「ジョージ?」
肩を揺すってみたら、抵抗もなく床に倒れた。その衝撃で頭から何か生肉のようなものが飛び出した。
「……へ?」
ジョージの頭に穴があいている。駆け寄って思わず肉を詰めたけど、ジョージは目を開けたまま動かない。
動かない。
ウゴイテイナイ。
「あ、……あ、ああ!ジョージ!」
落ちてる肉も血も詰めても、まぶたすら動かなくなってる。胸に耳を当てて音を聞こうとして、ようやく気づいた。書斎の扉の横に三人の男性が立っている。
右から黒髪の短髪の男性。金髪の綺麗な顔をした男性。そして今日会った怖そうな男の人。
「あ、なたは……」
怖そうな男の人に声を掛けると、金髪の綺麗な顔をした男性が微笑みを浮かべながら近づいてきた。
「ようやく思い出したんだね。お前が脱走してからずーーーっと探していたんだよ」
「え?」
いやお前誰だよって言う前に、金髪の男性は私の前にしゃがんで、大きく振り上げた手を下ろした。その瞬間、激痛が走り体が倒れた。何をされたのか理解が追いつかない。
「できの悪い猫にはお仕置きだね」
でも金髪の男性は倒れた私に馬乗りになって、何度も何度も顔を叩いてきた。鼻が痛い。目も痛い。口の中も痛い。抵抗したいのに、怖くて何も出来ない。
「ふぅ、……さて、反省してくれたかな」
まるで人柄が変わったように、金髪の男性は血まみれの私の顔をハンカチで拭き始めた。まるで自分は悪くないと言わんばかりのことを言いながら。
「俺だってこんなことをしたくないんだよ。何度言ってもお前が学ばないから、こうするしかない。お前が学んでさえくれたらこんな目に遇わずに済むのに。ああ、お前のせいで、俺の心はとても苦しい」
優しいを絵に描いたような微笑みに、歯がガチガチと鳴り、自然と涙と鼻水が流れてきた。
「さぁ、一緒に帰ろう」
それは本能なんだと思う。無意識に首を横に振った。
「……もしかして、……また、……忘れてるのかな」
また殴られると思った。そのくらい今の声は恐ろしかった。すぐに腕を上げて頭を隠したけど、今度はお腹を殴られた。
「ぐっ」
「あーあ、今回もハズレ。もう何百回目だよ、いい加減にしてくれないか。俺は暇じゃないんだぞ」
「がっ」
殴られて胃が変形したのが分かる。お腹を押さえて我慢したけど無理だった。内容物を吐き出したら、ジョージの靴にかかってしまった。
「こらこら、汚したらだめだろう。……さて、次のお前に会う前に……あの男が言ったことが本当か確認しないと」
金髪の男性がワンピースの裾をたくしあげた。履いてる下着を無理矢理脱がすと、足を開いて……
「やだ!やだ!」
今からやられることが分かって急いで抵抗すると、金髪の男性は所持していたナイフを太ももに突き刺した。
「ああああ!」
突き刺したナイフをゆっくりと動かして肉を割いていく。そのすきに、股に太いものを突き刺した。どっちが痛いのか熱いのか、何でこんな目に遇うのか、理解不能過ぎて……
「……これは……」
「もう、やだぁ!ジョージ、ランディ、たすけてっ!たすけてっ!」
いくら助けを呼んだって、ジョージは動かないしランディは居ない。それでも助けてほしくてジョージに手を伸ばす。虚しくもその手は金髪の男性に取られてしまった。
「いつか浮気をするだろうと覚悟はしていたけど、まさか本当に……」
金髪の男性が手と股を離してくれた。すぐにジョージに近づいて、お腹に顔を埋めた。涙も鼻水も止まらなかった。
「ジョージっ、ジョージっ!」
鼓膜が破れそうな音がした。何回も、何回も。その音がジョージに当たると肉が飛び散った。
ジョージの顔がなくなった。
「や、だぁ」
声を上げて泣いても動いてくれない。
それだけは、認めたくない。
「黙れ」
「ぐっ」
金髪の男性は私を殴ったあと、また股に太いものを入れてきた。擦られるほど痛くて痛くて、耐えることが出来ない。
そんなとき、部屋のすみに立っている怖そうな男性と目が合った。ジョージが味方だと言ってたこの人なら……と、必死に手を伸ばした。
「た、すけ、て!ジョージをたすけて!」
怖そうな男の人は目をそらした。その口から血が出ていた。
「な、んで……なんで……」
必死に伸ばした手に、金髪の男性の手が絡み付く。ぞぞぞと毛が逆立つ。それに構わずに金髪の男性がキスをしてくる。
ぬるぬるした唾液と舌の感触、あまりの気持ち悪さに耐えきれず、嗚咽を洩らした。
もう、心も、頭も……限界だ。
「浮気者にお仕置きをしてあげないと」
股の中のものがなくなったから、すぐに逃げる。ふらふらと揺れる体を支配するのは、金髪の男性。逃げる私の体を無理矢理動かした。まるで操られた人形だ。
「ほら、お前のだーいすきな男に見せてあげようね」
「ひっ」
ジョージの顔に股がって四つん這いをさせられたあと、後ろから股の中に突き刺した。
「だめだよ、気持ちいいからって顔に垂らしたら。まっ、肝心の顔はもう無いんだけどね」
悔しくて許せなくて殺したくて、ぎぃっと歯を食い縛ったら、奥歯からバキンと音が鳴った。
「ははっ、怒ってるの?膨らんでるけど」
「いだぁっ!」
尻尾を掴むと引っ張ってきた。千切れそうな痛みに床に爪を立てる。一枚爪がめくれた。
「……ん、いいね、これ。淫乱のガバガバな穴がシマッて、……っ」
中に何かを出されてる。気持ち悪くてまた吐き出した。でも何も出てこない。ヨダレしか出てこない。
「ほらほら、ちゃんと力を入れて。じゃないと俺の精子がお前のだいすきな男の顔に落ちてしまうよ」
「っ!」
言わんことが分かって股間に力を入れると何かがぬぅと抜けていく。でも中から出た液体がジョージの顔に垂れた。
「……ふぇ、……あああ!あああ!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
ごめんなさいと謝るしかなかった。謝ったって許されるわけないのに。
「ああ、かわいそうに。でも、これもお前が悪いんだよ。お前が浮気するから、……俺から離れていくから」
金髪の男性が髪の毛を引っ張る。痛みでしかめる私の耳元でささやいた。
「こいつの一人息子はランディだったかな」
「っ」
「そいつも殺してあげたよ」
「……え?」
「最期まで抵抗してたから教えてあげたんだ。父親を殺したあと、死体の前で犯してあげるって。ひどく怒ってうるさかったから首をハネたんだ。ほら、持ってこい」
そう言うと黒髪の短髪の男性が目の前で袋から何かを取り出した。それを金髪の男性に渡すと、金髪の男性はそれをジョージに向かって放り投げた。
ランディの、頭を。
「全部お前が悪いんだよ。俺から逃げようとするから、お前が関わった全ての人がこうなるんだ」
「わたしの、せい」
「そうだよ。お前が俺のそばにいれば、この二人もこうはならなかった。ほら、見てごらん。どれもこれもお前のせいだ」
首だけのランディと目が合った。
ジョージは顔がなかった。
なんかもうこれ以上のことを考えられなくて、考えたくもなくて、考えることを放棄したら、おしっこが勝手に出てきた。
「あ、そうだった。浮気者のお前にプレゼントだよ」
金髪の男性が下着を履かせてきたけど抵抗する気すらない。もう、いい。ここで終わりたい。終わらせてほしい。これ以上は、生きたくない。
「あ、あ、ああ……」
床に落ちているナイフを見つけた。すぐに拾い、お腹に突き刺す。1ヶ所じゃ死にきれないと思って、何度も刺した。
迷いも恐怖もない。
痛みもない。
地獄は、ここだ。
今が、地獄だ。
「まーた自殺か。それはそれでいいんだけど。また目覚めたら遊んであげるよ」
私は死を選んだはずなのに、金髪の男性はさも私が生きるようなことを言っている。
「もう、お、わり……だよ」
「終わるわけないだろう。お前は不老不死だよ。ずっとぼくだけのーー」
意識が朦朧とする中、誰かの手が私を抱き上げ走り出した。遠くで金髪の男性の怒声がする。それでも止まることなく走っている。
「すんませんっ、すんませんっ!」
誰に謝ってるのかわからないけど、私を助けてくれたのは確かだ。うっすら目を開けると黒髪が見えた。
「あ、りが、とう」
「ほんとうに、すんませんっ!」
そういえば家から出るのはこれで二度目だと、霞む視界で空を見上げる。
真っ青な空に、ふわふわの雲。
金木犀の香りが鼻を刺激する。
そよ風が頬を撫でる。
今日も白く薄い月がある。
今なら掴めるかなと手を伸ばしてみたら、真っ赤に染まった手が見えた。
真っ赤になった、ジョージとランディと同じ。
それが嬉しくて、一人で笑った。
「あは、あはは」
帰りたい、おうちに。
帰ろう、二人の元に。
ようやく、これで……
「死ねないあなただけどもっ、おれが、まもってみせます!かならずっ、おれが!」
ほらね、やっぱり私の想いは、金木犀の香る風に乗って消えていくんだ。
殺してほしいと、もう何度も、願っているのに。
私の願いは、叶わない。
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