暴君みたいな女の魔手から俺がこの先生き残るには

水無月14

文字の大きさ
15 / 19

秘密基地

しおりを挟む
 「この橋は……」
 ふと昔を思い出してしまう光景――。
 そこは小、中学時代の通学路であり秘密基地を作った場所でもあった。
 今の今まで忘却の彼方にあったが、懐かしい思い出が不思議と俺を引き寄せる。
 「橋の下ってずいぶん狭いな……。いや、俺の体がデカくなっただけか……」
 夜ということも手伝ってか、当時の記憶と比べるとまったく別の場所のようにさえ思えたりもしたが、散策してみると土に埋もれたテニスボールやビー玉、俺が図工の時間に作った宝箱を模した箱。そして壁に薄らと残ってるのは当時の俺達がクレヨンで書いた秘密基地を示す暗号。
 正真正銘、俺が知る秘密基地に間違いなかった。
 どれもこれも懐かし過ぎて知らずうちに俺は当時を思い出すことに躍起になっていた。
 「てっきり一目散に逃げ帰ったのかと思ったけど私から逃げるのは諦めたの?」
 「ん……ああ、なんか昔を思い出してるうちにどうでもよくなった」
 「そうなんだ」
 「俺をぶっ飛ばすならお手柔らかに頼む」
 「じゃあ、やめとく」
 「あんだけ脅しといてやらねぇーのかよ……」
 「ぶっ飛ばされたいの?」
 「いえ、できればやめて欲しいです……」
 どうゆう風の吹き回しか、ハルカは溢れんばかりの闘気を引っ込めた。
 気まぐれだとしても俺としてはありがたい話だ。
 とりあえずは死なずに済んだ。その事実だけで今は充分。
 「……昔は毎日のようにここで遊んだよな」
 「そうね」
 「カエデが祭りの日に迷子になった時もここにいたっけな」
 「うん」
 「俺がテストで親に見せられないような点数取ったプリントもここに隠してた」
 「小五で足し算を間違えた例のプリントもここに隠してたよね」
 「うっせえな。凡ミスだろあれは……」
 弘法も筆の誤りという言葉があるように誰にだってミスはある。
 それなのに当時のハルカは喧嘩する度に足し算ができないと俺を馬鹿にしてきやがったのだ。
 なんだかそれを思い出したら無性に腹が立ってきた。ちくしょう。
 「あれ……? こんな所に木箱なんてあったっけ?」
 「アンタが男友達と遊びまくるようになってここには一切こなくなったから知らないだろうけど、それは私とカエデが勉強机代わりに使ってた木箱よ」
 「あっ、そうでしたか……」
 露骨に不機嫌そうな顔をするハルカさん。声色からしてもそれは明らかだ。
 地雷を踏んだと理解した俺は早々に話題を変更することにした。
「なあ、それより一つ教えてくれ。どうして俺がここにいるってわかったんだ? 橋の上からだとここは死角のはずだろう」
 「女の勘」
 「なるほど。実にお前らしい答えだな」
 「褒め言葉として受け取っとくわ」
 「はは……」
 苦し紛れの話題が長く続くわけがない。早くも頭打ちとなった。
 現状を打破しうる魔法の言葉なんて俺の頭の引き出しには入っていない。
 ――気まずい空気。
 このままではハルカの気が変わってぶっ飛ばされる予感……。
 「それよりどうするの?」
 「ん……?」
 「私の彼氏の件」
 それは高林がヘマをしたので水に流れました――とは口が裂けても言えない。
 だからといって俺が彼氏になりたいわけでもない。
 新しい企画を考えるにしてもハルカの誕生日まで残すところあと一週間。
 ハルカの条件に一致した相手を見つけることは困難を極めた。
 「んー……それは……」
 「それは何?」
 「すまん、今日で見つかるはずだったんだが……」
 「そうなの?」
 「俺達三人はともかく、イケメン揃いだったろ?」
 「ああ、そう言えばそうね」
 俺の言葉でようやく気付いたとばかりのハルカさん。
 察するにイケメンはイケメンでも興味のないイケメンだった可能性が高い。
 おかげで改めてこのミッションの難易度の高さが浮き彫りとなったわけだ。
 「いずれにしても、あと一週間よ? そこんとこわかってる?」
 「はい……」
 俺の努力に対しての情状酌量はなし。
 分かりきったことだがハルカにとって重要なのは過程ではなく結果だ。
 「一つ聞いていい?」
 「ん?」
 「アンタは……その、トーマは私のこと好き? それとも嫌い?」
 あまりにも突拍子もないその質問。
 おかげで俺の頭の中はパニックのあまり真っ白になった。
 「どうして急にそんなこと聞くんだよ……?」
 「別に。答えたくないなら答えなくてもいい」
 はっきりしない相手が嫌いなハルカにしてはずいぶんと歯切れが悪いその言葉。
 妙にそわそわとしていたが、俺は正直に答えることにした。
 「別に嫌いではないぞ」
 「……ホント?」
 「でも、好きかどうかまでは自分でも分からん。考えたことがないからな」
 「そっか」
 俺が正直にそう答えるとハルカは少し切なそうな顔をした。
 どうやら俺の答えはハルカにとってイマイチだったらしい。
 「あと一週間だからね」
 「おう……」
 こうやって正面からお互いを見るのはいつ以来だろうか。
 俺の目に映るハルカは小学校の頃のハルカと重なって見えた。
 「そういえば見たいテレビがあるんじゃなかったの?」
 「あっ、いけね」
 「面白かったら録画しといてね」
 「了解っす!」
 それはハルカから逃げる為の方便だったわけだが嘘がバレたと認めたくない心理が働いた所為か、俺は無条件にその場から走り去った。
 「好きかどうか……ねぇ……」
 距離が近過ぎることもあるのだろう。
 本心のままに答えたが、果たしてそれは正解といえるものだったのだろうか?
 後悔先に立たずと言うが、俺がぼんやりと考えたのはそんなことばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...