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秘密基地
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「この橋は……」
ふと昔を思い出してしまう光景――。
そこは小、中学時代の通学路であり秘密基地を作った場所でもあった。
今の今まで忘却の彼方にあったが、懐かしい思い出が不思議と俺を引き寄せる。
「橋の下ってずいぶん狭いな……。いや、俺の体がデカくなっただけか……」
夜ということも手伝ってか、当時の記憶と比べるとまったく別の場所のようにさえ思えたりもしたが、散策してみると土に埋もれたテニスボールやビー玉、俺が図工の時間に作った宝箱を模した箱。そして壁に薄らと残ってるのは当時の俺達がクレヨンで書いた秘密基地を示す暗号。
正真正銘、俺が知る秘密基地に間違いなかった。
どれもこれも懐かし過ぎて知らずうちに俺は当時を思い出すことに躍起になっていた。
「てっきり一目散に逃げ帰ったのかと思ったけど私から逃げるのは諦めたの?」
「ん……ああ、なんか昔を思い出してるうちにどうでもよくなった」
「そうなんだ」
「俺をぶっ飛ばすならお手柔らかに頼む」
「じゃあ、やめとく」
「あんだけ脅しといてやらねぇーのかよ……」
「ぶっ飛ばされたいの?」
「いえ、できればやめて欲しいです……」
どうゆう風の吹き回しか、ハルカは溢れんばかりの闘気を引っ込めた。
気まぐれだとしても俺としてはありがたい話だ。
とりあえずは死なずに済んだ。その事実だけで今は充分。
「……昔は毎日のようにここで遊んだよな」
「そうね」
「カエデが祭りの日に迷子になった時もここにいたっけな」
「うん」
「俺がテストで親に見せられないような点数取ったプリントもここに隠してた」
「小五で足し算を間違えた例のプリントもここに隠してたよね」
「うっせえな。凡ミスだろあれは……」
弘法も筆の誤りという言葉があるように誰にだってミスはある。
それなのに当時のハルカは喧嘩する度に足し算ができないと俺を馬鹿にしてきやがったのだ。
なんだかそれを思い出したら無性に腹が立ってきた。ちくしょう。
「あれ……? こんな所に木箱なんてあったっけ?」
「アンタが男友達と遊びまくるようになってここには一切こなくなったから知らないだろうけど、それは私とカエデが勉強机代わりに使ってた木箱よ」
「あっ、そうでしたか……」
露骨に不機嫌そうな顔をするハルカさん。声色からしてもそれは明らかだ。
地雷を踏んだと理解した俺は早々に話題を変更することにした。
「なあ、それより一つ教えてくれ。どうして俺がここにいるってわかったんだ? 橋の上からだとここは死角のはずだろう」
「女の勘」
「なるほど。実にお前らしい答えだな」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
「はは……」
苦し紛れの話題が長く続くわけがない。早くも頭打ちとなった。
現状を打破しうる魔法の言葉なんて俺の頭の引き出しには入っていない。
――気まずい空気。
このままではハルカの気が変わってぶっ飛ばされる予感……。
「それよりどうするの?」
「ん……?」
「私の彼氏の件」
それは高林がヘマをしたので水に流れました――とは口が裂けても言えない。
だからといって俺が彼氏になりたいわけでもない。
新しい企画を考えるにしてもハルカの誕生日まで残すところあと一週間。
ハルカの条件に一致した相手を見つけることは困難を極めた。
「んー……それは……」
「それは何?」
「すまん、今日で見つかるはずだったんだが……」
「そうなの?」
「俺達三人はともかく、イケメン揃いだったろ?」
「ああ、そう言えばそうね」
俺の言葉でようやく気付いたとばかりのハルカさん。
察するにイケメンはイケメンでも興味のないイケメンだった可能性が高い。
おかげで改めてこのミッションの難易度の高さが浮き彫りとなったわけだ。
「いずれにしても、あと一週間よ? そこんとこわかってる?」
「はい……」
俺の努力に対しての情状酌量はなし。
分かりきったことだがハルカにとって重要なのは過程ではなく結果だ。
「一つ聞いていい?」
「ん?」
「アンタは……その、トーマは私のこと好き? それとも嫌い?」
あまりにも突拍子もないその質問。
おかげで俺の頭の中はパニックのあまり真っ白になった。
「どうして急にそんなこと聞くんだよ……?」
「別に。答えたくないなら答えなくてもいい」
はっきりしない相手が嫌いなハルカにしてはずいぶんと歯切れが悪いその言葉。
妙にそわそわとしていたが、俺は正直に答えることにした。
「別に嫌いではないぞ」
「……ホント?」
「でも、好きかどうかまでは自分でも分からん。考えたことがないからな」
「そっか」
俺が正直にそう答えるとハルカは少し切なそうな顔をした。
どうやら俺の答えはハルカにとってイマイチだったらしい。
「あと一週間だからね」
「おう……」
こうやって正面からお互いを見るのはいつ以来だろうか。
俺の目に映るハルカは小学校の頃のハルカと重なって見えた。
「そういえば見たいテレビがあるんじゃなかったの?」
「あっ、いけね」
「面白かったら録画しといてね」
「了解っす!」
それはハルカから逃げる為の方便だったわけだが嘘がバレたと認めたくない心理が働いた所為か、俺は無条件にその場から走り去った。
「好きかどうか……ねぇ……」
距離が近過ぎることもあるのだろう。
本心のままに答えたが、果たしてそれは正解といえるものだったのだろうか?
後悔先に立たずと言うが、俺がぼんやりと考えたのはそんなことばかりだった。
ふと昔を思い出してしまう光景――。
そこは小、中学時代の通学路であり秘密基地を作った場所でもあった。
今の今まで忘却の彼方にあったが、懐かしい思い出が不思議と俺を引き寄せる。
「橋の下ってずいぶん狭いな……。いや、俺の体がデカくなっただけか……」
夜ということも手伝ってか、当時の記憶と比べるとまったく別の場所のようにさえ思えたりもしたが、散策してみると土に埋もれたテニスボールやビー玉、俺が図工の時間に作った宝箱を模した箱。そして壁に薄らと残ってるのは当時の俺達がクレヨンで書いた秘密基地を示す暗号。
正真正銘、俺が知る秘密基地に間違いなかった。
どれもこれも懐かし過ぎて知らずうちに俺は当時を思い出すことに躍起になっていた。
「てっきり一目散に逃げ帰ったのかと思ったけど私から逃げるのは諦めたの?」
「ん……ああ、なんか昔を思い出してるうちにどうでもよくなった」
「そうなんだ」
「俺をぶっ飛ばすならお手柔らかに頼む」
「じゃあ、やめとく」
「あんだけ脅しといてやらねぇーのかよ……」
「ぶっ飛ばされたいの?」
「いえ、できればやめて欲しいです……」
どうゆう風の吹き回しか、ハルカは溢れんばかりの闘気を引っ込めた。
気まぐれだとしても俺としてはありがたい話だ。
とりあえずは死なずに済んだ。その事実だけで今は充分。
「……昔は毎日のようにここで遊んだよな」
「そうね」
「カエデが祭りの日に迷子になった時もここにいたっけな」
「うん」
「俺がテストで親に見せられないような点数取ったプリントもここに隠してた」
「小五で足し算を間違えた例のプリントもここに隠してたよね」
「うっせえな。凡ミスだろあれは……」
弘法も筆の誤りという言葉があるように誰にだってミスはある。
それなのに当時のハルカは喧嘩する度に足し算ができないと俺を馬鹿にしてきやがったのだ。
なんだかそれを思い出したら無性に腹が立ってきた。ちくしょう。
「あれ……? こんな所に木箱なんてあったっけ?」
「アンタが男友達と遊びまくるようになってここには一切こなくなったから知らないだろうけど、それは私とカエデが勉強机代わりに使ってた木箱よ」
「あっ、そうでしたか……」
露骨に不機嫌そうな顔をするハルカさん。声色からしてもそれは明らかだ。
地雷を踏んだと理解した俺は早々に話題を変更することにした。
「なあ、それより一つ教えてくれ。どうして俺がここにいるってわかったんだ? 橋の上からだとここは死角のはずだろう」
「女の勘」
「なるほど。実にお前らしい答えだな」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
「はは……」
苦し紛れの話題が長く続くわけがない。早くも頭打ちとなった。
現状を打破しうる魔法の言葉なんて俺の頭の引き出しには入っていない。
――気まずい空気。
このままではハルカの気が変わってぶっ飛ばされる予感……。
「それよりどうするの?」
「ん……?」
「私の彼氏の件」
それは高林がヘマをしたので水に流れました――とは口が裂けても言えない。
だからといって俺が彼氏になりたいわけでもない。
新しい企画を考えるにしてもハルカの誕生日まで残すところあと一週間。
ハルカの条件に一致した相手を見つけることは困難を極めた。
「んー……それは……」
「それは何?」
「すまん、今日で見つかるはずだったんだが……」
「そうなの?」
「俺達三人はともかく、イケメン揃いだったろ?」
「ああ、そう言えばそうね」
俺の言葉でようやく気付いたとばかりのハルカさん。
察するにイケメンはイケメンでも興味のないイケメンだった可能性が高い。
おかげで改めてこのミッションの難易度の高さが浮き彫りとなったわけだ。
「いずれにしても、あと一週間よ? そこんとこわかってる?」
「はい……」
俺の努力に対しての情状酌量はなし。
分かりきったことだがハルカにとって重要なのは過程ではなく結果だ。
「一つ聞いていい?」
「ん?」
「アンタは……その、トーマは私のこと好き? それとも嫌い?」
あまりにも突拍子もないその質問。
おかげで俺の頭の中はパニックのあまり真っ白になった。
「どうして急にそんなこと聞くんだよ……?」
「別に。答えたくないなら答えなくてもいい」
はっきりしない相手が嫌いなハルカにしてはずいぶんと歯切れが悪いその言葉。
妙にそわそわとしていたが、俺は正直に答えることにした。
「別に嫌いではないぞ」
「……ホント?」
「でも、好きかどうかまでは自分でも分からん。考えたことがないからな」
「そっか」
俺が正直にそう答えるとハルカは少し切なそうな顔をした。
どうやら俺の答えはハルカにとってイマイチだったらしい。
「あと一週間だからね」
「おう……」
こうやって正面からお互いを見るのはいつ以来だろうか。
俺の目に映るハルカは小学校の頃のハルカと重なって見えた。
「そういえば見たいテレビがあるんじゃなかったの?」
「あっ、いけね」
「面白かったら録画しといてね」
「了解っす!」
それはハルカから逃げる為の方便だったわけだが嘘がバレたと認めたくない心理が働いた所為か、俺は無条件にその場から走り去った。
「好きかどうか……ねぇ……」
距離が近過ぎることもあるのだろう。
本心のままに答えたが、果たしてそれは正解といえるものだったのだろうか?
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