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黄昏列車
しおりを挟むガタンガタンと言う規則的な音と揺れでふと目が覚めた。
目を開ければ日の光が差し込んでおり、あまりの眩しさに目を細める。
電車の中…?
目の前には壁が有り、通路を挟んで2列ずつの特急列車の指定席の様に、全ての座席が進行方向を向いている。
どうやら私は1番前の座席に座っているようだ。
状況を確認するため、周りを見渡してみる。
通路を挟んだ隣の席に座っている人も、その後ろの席に座っている人も皆、スーツを着た男女がウトウトと、うたた寝をしている。
私は…いつの間に電車に乗ったのだろうか…?と、疑問に思う。
程なくして、ゴゴンゴゴンと言う音に変わり日の光と影が交互に顔を過ぎる。
外を見れば綺麗な夕焼けが目に入り、オレンジ色に染まった大きな川が眼下を流れている。
電車は高架橋を渡っていたのだ。
私はいつの間に電車に?と、再び首をひねる。
これは夢だろうか?
そんなことを思っていると、後ろから人が歩いてくる音がする。
通路側を見れば、車掌であろう出立の男が帽子を目深に被り、私の横でピタリと立ち止まる。
「切符を拝見します」
感情がまるでこもっていない声に少したじろぐ
「切符…えっと…」
手元やポケットを確認するが切符らしき物はない。
「すみません…買い忘れた様で、財布も見当たらなくて…」
「なるほど…この電車に私服で乗る方の多くはそう言われます。
今日は特に多い…では、代わりにこの黒い切符をお使い下さい。
生前の貴方が信仰心の深い方、善行を行い徳を積まれた方であれば、六文は免除されますので、では…」
「えっ…」
生前?
六文…六文って三途の川を渡る六文銭の事…
それって…いや、それじゃまるで…
私…いつの間にか電車に乗ってて…川を渡っている…
まさか…まさか…まさか…
ジワリ、ジワリと涙が出始めた。
渡された切符を握りしめると、急に押し寄せる記憶
横転した大型バスが火花を上げて人々を薙ぎ倒してこちらに滑ってくる。
オフィス街に響く悲鳴と断末…ただ目の前に迫るトラックを、動けぬまま見つめることしかできない私…
そんなっ…私は…わたしは…
ゴゴンゴゴンという音から、ガタンゴトンという音に変わり列車が徐々に速度を落とし始める。
「間もなくー、彼岸、彼岸」
無感情な声が車内に響く、黄昏時の赤い日差しが車内を残酷に照らし出す。
窓を見ればガラスに映る私の顔、その頬を伝う涙が…まるで血の涙のようだった。
※※※※ ※※※※ ※※※※ ※※※※ ※※※※
後書き
私の妄想作品ですので、細かいあの世のしきたりの指摘は受け付けらません。
ホラーか?日常か?ファンタジーか?悩みましたすみません…。
ネット調べではありますが、三途の川まで7日かかり、実際は船で渡る説が有力とのこと、そして川を渡る日数は49日と言われているが諸説ある。との事です。
因みに、六文銭を持っていないと本来は代わりに奪衣婆に衣服を剥ぎ取られます。
ご興味のある方は、初七日、四十九日等を調べて頂けたらと思います。
アニメ、鬼灯の冷徹もあの世の勉強になります。
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