年齢のない世界

赤たまねぎ

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年齢のない世界

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「A子って、何歳?」

隣の席のY実が意味不明なことを言う。

「死語じゃん」
「死語じゃないわ」

いや、死語だろうとA子は思った。

年齢、年。そのような概念はこの世界にはない。

「どこかの芸能人が昔使っていた言葉だってひいひいおばあちゃんが言ってたよ」
「何歳だよ?」

だから死語だって。

私はそう言うとY実は頭を抱える。

「あのね、あんただから言うけど。私、転生者なの」
「で?」
「もうちょっと驚いてよ」
「スケールが微妙なのよ。せめてゾンビにしてよ」

A子はスプラッタなゲームにはまっていた。

「え、友達がゾンビて気色悪くない?」
「私、見た目が大丈夫なら、かなり寛容だから。グー」
「いけてる、じゃないから。ゾンビじゃないよ」
「転生者だっけ? なにそれ?」

どことは言わないが、需要がなさそうだなとA子は思った。

「話を聞いて」
「聞くよ?」
「うん、説明するわね。私は転生者で、いわゆる前世の記憶を持ったまま産まれたのよ」

どうだ、と手を広げて言う。

前世の穢を神様が綺麗にして次の世界へと魂を転生させると言うけど、Y実は例外だったようだ。

神様でもその穢をを落としきれなかったのだろうか?

ゾンビよりも汚い。

「私の前世にはね、歳・年齢という概念があったのよ」
「創造できない世界ね」

まだ魔法がある世界の方が理解出来る。

「だから、教えて欲しいの!」
「何を?」
「年齢の代わりに何がつかわれているのかを!」
「お母さんに教えてもらえ。じゃあ、私は帰るから」

学生カバンを持って立ち去ろうとするA子をY実はしがみつく。

「待ってよ、お母さんにそんなこと聞けないよー! 前世の記憶が戻ったのは最近なんだよー!」
「今世の記憶は?」
「ほとんど忘れてしまいました!」

Y実いわく、生活する分には今世の記憶をしっかりと覚えているが、行事ごとや旅行といった生活するうえで忘れても困りそうにない記憶は虫食い状態とのこと。

だけど、どうしてもY実が言う「年齢」の代わりとなる概念が分からない。

「だから、お母さんに聞きなさいよ」
「お母さんに聞いたらアホな子だと思われちゃうよ!」
「私ならいいのか」
「お母さんよりは良い!」

A子もお母さんよりはクラスメイトに言う方が気持ちが楽なタイプだった。

カバンを置き、Y実の話を聞く。

「Y実の言う年「年齢」が分からないから説明して」
「ありがとう! えーとね、産まれてから一年を何周したかを数えたものだよ」
「一年て、春夏秋冬のこと?」
「そう! それ!」
「数えて、意味あるの?」

A子の疑問にY実は「当然!」と言う。

「不便じゃん!」
「なんで?」
「……とにかく不便なの!!」

思いつかなかったらしい。

「不便なのは分かった。じゃあ、何に使われているの?」
「小学校! 年齢ごとに分けて授業を教えるの!」
「頭のIQごとにまとめた方がいいじゃない。残酷なことに人間、産まれた時点で頭の出来は異なるのよ」

Y実は辛辣だ! と文句を言うが、クラスの中で一人だけ頭が良い人。また、悪い人がいるほうが可笑しいだろう。

その人に合った勉強が一番に決まっている。

「じゃあ、結婚!」
「それこそ、年齢で判断するなんて可笑しいだろう。一生涯を伴にするパートナーなんだから、重要なのは年齢じゃなく、その人の人間性だろう」

そもそも、見た目でどれぐらいその人が生きてたのか、だいたい分かる。

若作りしていたとしても、それほど自分自身を磨いている訳だから、そこは短所ではなく長所として褒めるべきだろう。

「でもでも~、必要なの!」

しつこいY実に、A子はいかに「年齢」という概念が必要性のなさを説明する。

「あのね。どれだけ年を取ったかじゃなく、どれだけ頑張ってきたのか。それが重要なのよ。そのとめに『レベル』があるのよ」
「……『レベル』って?」
「……冗談で言っているわけじゃなさそうね」

本気でバカなことを言っているY実に頭を悩ますA子。

「うん。どうも、忘れてるみたい」
「『レベル』っていうのはね。どれだけ集団的プログラムに参加したのかを示す、その人の総評よ」

学校でいうなら運動会や文化祭が集団的プログラムに当てはまる。参加すれば1ポイントと、ポイント制で入り、その総ポイントが社会的ステータスにつながる。

ポイントが高ければ、就活や婚活も楽になる仕組みだ。

「学校外でもポイントは貰えないの?」
「友達がバンドやっているけど、ライブに出てポイント貰ったて、言ってたわ」

他にもゴミ拾いのボランティアや、お祭りで神輿を担ぐ、部活で大会に出場するなどか当てはまる。

「公的に記録されるものじゃないとポイントとしてカウントされないわ」
「どうして?」
「政府が記録しやすいからよ。あと、第三者による公平性と証明性。これがないとズルし放題。他人が認可出来ないわけ」
「認可? それ、必要なの?」

A子は「必要」と断言する。

「どれだけ努力したかなんてのは、結局のところ他人に分からないものなの。だったら、判断出来る基準を作って判断するしかない。そして、その人が良質かは他人しか判断出来ないの」

牛肉や豚肉のランクと同じ。

A子の言葉にY実は引いていたが、嫌悪と忌避感は別にして、少なくとも理解は出来ていた。

「……あれ? 資格はポイントに含まれないの? 英検とか漢検とか」
「資格? 就活には有利になると思うけど、ポイントには含まれないわね」
「なんで?」
「なんでって。集団的プログラムに含まれないからよ」

あくまでも集団的プログラムのポイントは社会的資質の高さの総評。いわば、どれだけグループ活動をしたかである。

ポイントが高いほど、集団として協力し活動してきた場数と、それによる実績を意味する。

「だから、野球部でレギュラーになって、甲子園に出場すれば、かなりのポイントを貰えるのよ。地区予選の10倍以上のポイントだと聞いたことがあるわ」
「10倍!? 凄い!」

目が点になるほど驚くY実。

「そう? まあ、甲子園で高い成績を残す人なんて、プロ野球選手になるのが、ほとんどだと思うから、余りポイントが高くても意味ないとも思うけど」
「なんで?」
「スポーツは実力が全てだからよ」

ポイントが高くてもヒットが打てないとダメだと話すA子にY実は納得する。

それでもポイントは、その人の協調性を見るための目安にもなるので、無駄だとは言わないが、やはりプロともなると実力を重視するもの。

A子は、そう思っている。

「Y実。あなたの「年齢」がいかに大事か分からないけど。この世界には『レベル』があるから、やっぱり要らないわね」
「うう~ん……」
「どれだけ生きてきたかじゃなく、どれだけ頑張ってきたか。ポイントが多い友達の方が私も好きになれるわ」

A子自身、少し残酷かな、と思うことをY実に言う。

A子の予想通り、Y実はショックを受けて項垂れた。

「A子、酷い」
「そうね。酷いみたいね、私。でも、頑張ってないY実よりも、頑張ってるY実の方が私は好き」
「う、う、う、う、う」

自堕落性を責められているように錯覚するY実。A子は、その苦しむ様子に楽しそうに微笑する。

「……私、頑張るわ」

嫌そうな顔をしながらも、A子の言葉に頷いた。

Y実はA子の言葉を全て受け入れたわけではない。前世との違いによる拒否感もある。

だが、A子が言ったように。頑張っていないY実よりも、何かに頑張っているY実の方が好きになれる。

それは、事実だった。

「そう、良かった。それじゃあ、一緒に頑張ろ」
「うえ~ん」

泣き声を出しながらも、Y実は、この世界でも地道に頑張るのだった。
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