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私の求めるアイドルを作るまで
after2 影響① 黒部フネの不満
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ユダ――それは裏切り者の名前だ。
私が――黒部フネが、もう一人の不和ミドリに名付けた代名詞。
知らないのか、惚けているのか。不和ミドリは『ユダ……なんだかメッセージ性があって、カッコいい』とバカなことを言って、その名前を受諾した。
蔑称だと気づけよ。
「……って。完全にやつあたりね」
愚痴を溢す。何が裏切り者だというのかしら。
勝手に期待して、勝手になって欲しいキャラに当てて、それが合わないと勝手に失望している。
私は神様じゃないのに。
「……世界を創るんだから、ある意味で神様なんだけど」
プランでは、不和ミドリをアイドルから挫折させるはずだった。
ゲームの中で人の死を直面させることで、不破ミドリに人の醜さと残酷さを教えようと思った。ショック療法ではないが、アイドルを辞めさせようと思っていた。
私にとってアイドル『不和ミドリ』は邪魔だった。
私が目指す、理想とする世界に必要なのは、一方的に民衆から求められる偶像ではない。己に与えられた役割を理解し、且つ自らの感情・記憶に共感させ、思いを発露する役者だ。
欲しいのは熱を体現する役者だ。求められるまま灯になるアイドルではない。だから、アイドルを辞めてもらう。それも、不破ミドリ自ら。
元『エンジェリング』の『不和ミドリ』は私のゲームで生まれ変わる。
そのための、あのゲームだった。
次回作に予定したキャラクターの布石だった。
――だけど、失敗した。
不和ミドリは――ミドリちゃんは乗り越えた。私のキャラクターよりも、より魅力的なキャラとなって。
私の残酷を、黒部フネの策略を本当の意味でクリアした。
本当に、凄い。
◇ ◇ ◇
「言っただろう? 人は物差しで測るものじゃないって」
私と同席するゼブラスーツの男は言葉を吐く。
こいつの名は、空木貞二。私のビジネスパートナーだ。
「とはいえ、僕も不和ミドリは挫折すると思っていた。君のことを強くは言えない」
詰まらなさそうにブラックコーヒーに角砂糖を入れる。
彼も不和ミドリの挫折を期待していた一人だ。私のエゴとは違い、空木は趣味だ。
「どうやら私が思っていたよりも楽しみしていたようね。趣味が悪い」
「君も似たようなものだろう? 期待値は僕と同じと思っていたが」
「それは違う。私には救いがあった」
可哀そうな少女のね。
「報われないアイドルへの執着を辞めさせる、その節目を与えたこと。私の私利私欲が前提とはいえ、『不破ミドリ』にはアイドルとして未来がなかった」
「だから、見切りを付けさせることにした」
「そうよ」
「だけど、乗り越えられてしまった」
「……そうよ」
「反骨精神、高いね」
…………そうね。
「ともかく! あのときは、アイドル『不和ミドリ』が金原優子という人物を映えさせる証明程度の価値だけにしか見えなかったのよ」
「ああ。彼女は強い」
呆れたような表情で空木は私の言葉に同意する。
スターという存在は、どの世界でも一定層存在し――金原優子がその一人だった。
だが、空木の瞳は表情とは違い光っていた。
「それで? 僕が嫌いなアイドルを絶望させる計画に修正はあるかい?」
金原優子のことだ。こいつには、それが至上の愉悦だと言う。
空木の気持ちは正直理解出来ないが――天井で殿様気分の奴は気に入らない。いい気になっている奴は、大嫌いだ。
「変更はないわ――ああ、あった。ミドリちゃんの成長がスポンサーを刺激したのよ。彼らとは、より良好な協力関係を築けると思うわ」
「それは良かった。不和ミドリが救済だったのなら、次のプランも救済かな」
「そんなの、救済に決まってるじゃない」
断定してやった。それが面白いのか、空木は小さく笑う。
「社会に絶望している未成年者たちに、希望の作り方を教える。立派な人助けよ」
「言っていることは聖人なのだろうけど、君のエゴを知っているからな。魔女にしか見えないよ」
空木がふざけたことを言う。
「魔女で結構。聖女は嫌い」
私の率直な思いと評価だ。
聖女も今となっては一種の偶像だ。RPG系ゲームでもレギュラー的存在。
ゲームの中では、人の死を嘆き、悲しむことが出来る救済の乙女らしい。条件は『純潔』で『純粋』で『健気』で、その他色々。カルチャーに染まり過ぎだろう。
おかしな話だ、清濁の快楽に委ねてこその人間だろう。
「彼らも同じことを言いそうだ」
「あら。それは嬉しい意見」
微笑ましそうに私を見る空木。
かなりムカつく。早く目の前から消えてくれないかなという私の重いは通じたそうで、奴は残りの珈琲に砂糖を追加して飲み干した。
「じゃあ。僕は行くよ。次の配信も期待しているから」
「配信するのは後三つだけよ」
「それは残念」
席を立つ空木に、私は別れ際の質問をする。
「ミドリちゃん、貴方的にはどう?」
「アイドルは嫌いだよ。何度も言ったじゃないか」
そう言って空木は去った。
「配信、楽しみな癖に――」
私の声は空木に届かないまま、周りの喧騒の中に消えていった。
私が――黒部フネが、もう一人の不和ミドリに名付けた代名詞。
知らないのか、惚けているのか。不和ミドリは『ユダ……なんだかメッセージ性があって、カッコいい』とバカなことを言って、その名前を受諾した。
蔑称だと気づけよ。
「……って。完全にやつあたりね」
愚痴を溢す。何が裏切り者だというのかしら。
勝手に期待して、勝手になって欲しいキャラに当てて、それが合わないと勝手に失望している。
私は神様じゃないのに。
「……世界を創るんだから、ある意味で神様なんだけど」
プランでは、不和ミドリをアイドルから挫折させるはずだった。
ゲームの中で人の死を直面させることで、不破ミドリに人の醜さと残酷さを教えようと思った。ショック療法ではないが、アイドルを辞めさせようと思っていた。
私にとってアイドル『不和ミドリ』は邪魔だった。
私が目指す、理想とする世界に必要なのは、一方的に民衆から求められる偶像ではない。己に与えられた役割を理解し、且つ自らの感情・記憶に共感させ、思いを発露する役者だ。
欲しいのは熱を体現する役者だ。求められるまま灯になるアイドルではない。だから、アイドルを辞めてもらう。それも、不破ミドリ自ら。
元『エンジェリング』の『不和ミドリ』は私のゲームで生まれ変わる。
そのための、あのゲームだった。
次回作に予定したキャラクターの布石だった。
――だけど、失敗した。
不和ミドリは――ミドリちゃんは乗り越えた。私のキャラクターよりも、より魅力的なキャラとなって。
私の残酷を、黒部フネの策略を本当の意味でクリアした。
本当に、凄い。
◇ ◇ ◇
「言っただろう? 人は物差しで測るものじゃないって」
私と同席するゼブラスーツの男は言葉を吐く。
こいつの名は、空木貞二。私のビジネスパートナーだ。
「とはいえ、僕も不和ミドリは挫折すると思っていた。君のことを強くは言えない」
詰まらなさそうにブラックコーヒーに角砂糖を入れる。
彼も不和ミドリの挫折を期待していた一人だ。私のエゴとは違い、空木は趣味だ。
「どうやら私が思っていたよりも楽しみしていたようね。趣味が悪い」
「君も似たようなものだろう? 期待値は僕と同じと思っていたが」
「それは違う。私には救いがあった」
可哀そうな少女のね。
「報われないアイドルへの執着を辞めさせる、その節目を与えたこと。私の私利私欲が前提とはいえ、『不破ミドリ』にはアイドルとして未来がなかった」
「だから、見切りを付けさせることにした」
「そうよ」
「だけど、乗り越えられてしまった」
「……そうよ」
「反骨精神、高いね」
…………そうね。
「ともかく! あのときは、アイドル『不和ミドリ』が金原優子という人物を映えさせる証明程度の価値だけにしか見えなかったのよ」
「ああ。彼女は強い」
呆れたような表情で空木は私の言葉に同意する。
スターという存在は、どの世界でも一定層存在し――金原優子がその一人だった。
だが、空木の瞳は表情とは違い光っていた。
「それで? 僕が嫌いなアイドルを絶望させる計画に修正はあるかい?」
金原優子のことだ。こいつには、それが至上の愉悦だと言う。
空木の気持ちは正直理解出来ないが――天井で殿様気分の奴は気に入らない。いい気になっている奴は、大嫌いだ。
「変更はないわ――ああ、あった。ミドリちゃんの成長がスポンサーを刺激したのよ。彼らとは、より良好な協力関係を築けると思うわ」
「それは良かった。不和ミドリが救済だったのなら、次のプランも救済かな」
「そんなの、救済に決まってるじゃない」
断定してやった。それが面白いのか、空木は小さく笑う。
「社会に絶望している未成年者たちに、希望の作り方を教える。立派な人助けよ」
「言っていることは聖人なのだろうけど、君のエゴを知っているからな。魔女にしか見えないよ」
空木がふざけたことを言う。
「魔女で結構。聖女は嫌い」
私の率直な思いと評価だ。
聖女も今となっては一種の偶像だ。RPG系ゲームでもレギュラー的存在。
ゲームの中では、人の死を嘆き、悲しむことが出来る救済の乙女らしい。条件は『純潔』で『純粋』で『健気』で、その他色々。カルチャーに染まり過ぎだろう。
おかしな話だ、清濁の快楽に委ねてこその人間だろう。
「彼らも同じことを言いそうだ」
「あら。それは嬉しい意見」
微笑ましそうに私を見る空木。
かなりムカつく。早く目の前から消えてくれないかなという私の重いは通じたそうで、奴は残りの珈琲に砂糖を追加して飲み干した。
「じゃあ。僕は行くよ。次の配信も期待しているから」
「配信するのは後三つだけよ」
「それは残念」
席を立つ空木に、私は別れ際の質問をする。
「ミドリちゃん、貴方的にはどう?」
「アイドルは嫌いだよ。何度も言ったじゃないか」
そう言って空木は去った。
「配信、楽しみな癖に――」
私の声は空木に届かないまま、周りの喧騒の中に消えていった。
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