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18 青い花
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俺は仕事と仕事の合間に、トンガラッタさんに青い花について訊いた。
「ああ。エルフの里にはポーションの花っているのがあるんだ」
「ポーションの花?」
回復アイテムの原料みたいな名前だ。
「ポーションっていうのは、魔力を混ざりやすい水のことを言うんだ。魔力を混ぜたポーションを魔法使いが飲むと魔力が回復する」
「おお、凄い!」
MP回復アイテムのことだったのか。
「もちろん、ある程度だけれどね。そうだな、市販のものだったらファイヤーボール一回分かな」
ファイヤーボールという魔法は魔法使いが使用できる炎系魔法の中で初級に位置し、野球ボールぐらいの大きさの火の粉を放つらしい。威力は余りないみたいだが、速度は速く牽制・威嚇によく使われるようだ。
獣系の魔物の多くは火を苦手としているため、ファイヤーボールを一発浴びせれば及び腰になるとトンガラッタさんは説明してくれた。
「俺でもポーションの飲めばファイヤーボール出来る?」
「使えないね。魔力を持っていない人が飲んでも効果ないよ」
ガーン。やっぱり、俺は異世界で魔法を使うことは出来ないらしい。
もしかしてと思ったのだが、そう上手くはいかなかった。
泡沫の夢、二秒で終わった。
「ああ、そんな気を落さないで。果物ジュース、奢ってあげるから」
「……頂きます」
ああ、甘い。
悲しみに暮れる俺に癒しを与えてくれる甘さだ。
「それで、ポーションの花のことなんだけど」
「うん」
「ここら辺には生えていないから、種を買わないといけないね」
「花じゃなダメなの」
「花は流通していないんだ、腐ってしまうからね」
種を買って育てろということか。
「高いの?」
「それなりかな」
この世界の通貨は、銅貨・銀貨・金貨・白金貨の四種類だ。
銅貨が一番価値が低く、銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚に換算される。
トンガラッタさんは流通にも左右されるけれど、ポーションの花の種は銀貨3枚だと言った。黒パン一つで銅貨5枚、タイガー亭食事込みの一泊で銀貨1枚。
7歳児には手が届かない値段設定だ。
「お値段が高い」
「仕方がないよ。使う人も限られているから」
「なんで?」
冒険者が使いそうなアイテムなのに。
「冒険者はポーションを必要とする冒険をしないからだよ。どれだけ自分の実力を把握しているのか、自己把握能力こそが冒険者に一番求められている能力なんだ」
「でも、あった方がいいんじゃないの?」
「消費期限があるんだ。それを過ぎてしまえば効果を発揮しない」
異世界で消費期限という言葉を聞いてしまうとは。ぬいぐるみの中身を見てしまった気分だ。
しかし、よく考えてみれば当たり前の話なのかもしれない。
「ランクの高いポーションなら消費期限も長いのが確かにある。でも、それはポーションの花を主軸とした複数の薬草、魔法を使用したもので、お値段もそれなりする」
「金貨1枚」
「いや。白金貨1枚」
ひえええええええーーー!
黒パンが20万個買えるじゃないか!
俺はポーションの花を染料に使うのは無理だと判断し、トンガラッタさんに他に青色っぽい花はないかと訊いた。青じゃなくても水色で代用は出来る。
だが、トンガラッタさんはニヒルな笑みで「待ちたまえ」と言う。
「ポーションの種は確かに高いが、ポーションの花は例外だ」
「いや、それは流通していないんでしょ」
「商品として流通が出来ない。その理由を考えれば判るよ」
「その理由って?」
トンガラッタさんは、俺の頭を撫でて「自分で考えてみるといい」と言う。
あれだ、答えを教えずに自分で考えなさいっていう、塾の先生が使う手だ。
訊くだけで全部答えを教えてくれるわけじゃない――というありがたい意味があるのは俺も理解できる。
トンガラッタさんは優しいだけではなく、児童教育にも熱心な方だった。
「ああ。エルフの里にはポーションの花っているのがあるんだ」
「ポーションの花?」
回復アイテムの原料みたいな名前だ。
「ポーションっていうのは、魔力を混ざりやすい水のことを言うんだ。魔力を混ぜたポーションを魔法使いが飲むと魔力が回復する」
「おお、凄い!」
MP回復アイテムのことだったのか。
「もちろん、ある程度だけれどね。そうだな、市販のものだったらファイヤーボール一回分かな」
ファイヤーボールという魔法は魔法使いが使用できる炎系魔法の中で初級に位置し、野球ボールぐらいの大きさの火の粉を放つらしい。威力は余りないみたいだが、速度は速く牽制・威嚇によく使われるようだ。
獣系の魔物の多くは火を苦手としているため、ファイヤーボールを一発浴びせれば及び腰になるとトンガラッタさんは説明してくれた。
「俺でもポーションの飲めばファイヤーボール出来る?」
「使えないね。魔力を持っていない人が飲んでも効果ないよ」
ガーン。やっぱり、俺は異世界で魔法を使うことは出来ないらしい。
もしかしてと思ったのだが、そう上手くはいかなかった。
泡沫の夢、二秒で終わった。
「ああ、そんな気を落さないで。果物ジュース、奢ってあげるから」
「……頂きます」
ああ、甘い。
悲しみに暮れる俺に癒しを与えてくれる甘さだ。
「それで、ポーションの花のことなんだけど」
「うん」
「ここら辺には生えていないから、種を買わないといけないね」
「花じゃなダメなの」
「花は流通していないんだ、腐ってしまうからね」
種を買って育てろということか。
「高いの?」
「それなりかな」
この世界の通貨は、銅貨・銀貨・金貨・白金貨の四種類だ。
銅貨が一番価値が低く、銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚に換算される。
トンガラッタさんは流通にも左右されるけれど、ポーションの花の種は銀貨3枚だと言った。黒パン一つで銅貨5枚、タイガー亭食事込みの一泊で銀貨1枚。
7歳児には手が届かない値段設定だ。
「お値段が高い」
「仕方がないよ。使う人も限られているから」
「なんで?」
冒険者が使いそうなアイテムなのに。
「冒険者はポーションを必要とする冒険をしないからだよ。どれだけ自分の実力を把握しているのか、自己把握能力こそが冒険者に一番求められている能力なんだ」
「でも、あった方がいいんじゃないの?」
「消費期限があるんだ。それを過ぎてしまえば効果を発揮しない」
異世界で消費期限という言葉を聞いてしまうとは。ぬいぐるみの中身を見てしまった気分だ。
しかし、よく考えてみれば当たり前の話なのかもしれない。
「ランクの高いポーションなら消費期限も長いのが確かにある。でも、それはポーションの花を主軸とした複数の薬草、魔法を使用したもので、お値段もそれなりする」
「金貨1枚」
「いや。白金貨1枚」
ひえええええええーーー!
黒パンが20万個買えるじゃないか!
俺はポーションの花を染料に使うのは無理だと判断し、トンガラッタさんに他に青色っぽい花はないかと訊いた。青じゃなくても水色で代用は出来る。
だが、トンガラッタさんはニヒルな笑みで「待ちたまえ」と言う。
「ポーションの種は確かに高いが、ポーションの花は例外だ」
「いや、それは流通していないんでしょ」
「商品として流通が出来ない。その理由を考えれば判るよ」
「その理由って?」
トンガラッタさんは、俺の頭を撫でて「自分で考えてみるといい」と言う。
あれだ、答えを教えずに自分で考えなさいっていう、塾の先生が使う手だ。
訊くだけで全部答えを教えてくれるわけじゃない――というありがたい意味があるのは俺も理解できる。
トンガラッタさんは優しいだけではなく、児童教育にも熱心な方だった。
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