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……
綾の容態が悪化した。
また入院が決まった。散歩中に倒れてしまい、1日経っても意識が戻らないようで、僕は綾の母親から連絡を貰い、すぐに駆けつけた。
母親曰く、冬以外の入院は初めてらしい。父親が、「もうすぐ“1年”だ。覚悟を決めないとな…」と呟き、母親が泣き崩れた。僕は受け入れられなかった。心のどこかで治ると思っていて、どこかでずっと一緒に居られると信じていて。そんな甘い幻想が全て打ち砕かれたような気持ちだった。綾は次の日になっても目を覚まさなかった。僕はずっと綾の傍を離れなかった。春香と野々宮が来て、少し休むように僕に言ったが、僕には届かなかった。「いい、大丈夫。」と言った僕に、春香は平手打ちをかました。
「な、」
「え!?」野々宮が驚いて声を出す。
「…ずっと寝ないでついてるんでしょ。おば様から聞いた……あのさ、あんたが体調崩したらどうすんの?」
「…だいじょ」「大丈夫じゃない!顔色病人だから!!ほれ!鏡!」
向けられた鏡に映る顔は確かに青白かった。「でも…」 「でもじゃない!!…綾が目覚めた時、あんたが本調子じゃなかったらどう思うと思ってるの。」
「…綾ちゃんの事だから自分のこと責めると思うよ」野々宮が続ける。
「…悪い、ありがとう」
「綾には私たちが着いてるから、ちょっと休みなよ」
「うん。本当にありがとう…」
春香のお陰で少し休んで、落ち着くことが出来た。次の日、綾の手を握りながら情けなく泣いてしまった。このまま目覚めなかったら、このままだったら僕は……… ピク、と手が動き ゆっくりと目が開いた。
「綾!!」 「ん…………みず、き、くん…?ないて、るの、?」
「な、泣いてないよバカ、」
「うそ、ばっかり……」
綾が目を覚ました。心底ほっとした。もう二度と、その声を聴けないかと思った。
それから暫く綾は入院生活が続くことになる。
元々華奢だった身体はもっと細くなり、体調が優れない日が増えていた。綾と話し合った結果“したいことノート”は一旦保留することになった。
病室で過ごす時間が当たり前になるほど、長い時間をそこで過ごした。綾の雑学知識で、「人間は声から忘れていく」というのを聞いたことがあったから、忘れるつもりは無いけれど、なんだか不安になって それからは写真だけでなく動画も使って沢山沢山綾の事を記録した。
……
7月2日。僕と綾にとって大切な日。付き合ってから一年が経っていた。綾の体調は相変わらず良くはなっていなかったが、そこまで悪化もしていなかった。医者曰く、だいぶ良い方らしい。僕からしたら早く治って良くなって欲しいとしか思えないのだが。
この日は少し綾の調子が良かったことと…
大人達は言わなかったが恐らくタイムリミットが近いことから、外出の許可が出た。倒れてしまって頭等をぶつけると大変なので車椅子で出かけることにした。
綾は重いでしょ、ごめんね というけれどいつか抱っこした彼女よりずっとずっと軽くて、僕は少し上を向いた。
この日綾は誕生日に僕がプレゼントしたワンピースを着てくれていた。とても似合っていて、可愛らしかった。誕生日は冬なのに半袖なの?と綾にも聞かれたが、僕は夏にこのワンピースを着ている綾を見たかったのだ。
綾の希望で今日は僕が育ってきた街を回ることになった。引っ越す前の家の辺りに行くのは久しぶりで、なんだか僕もドキドキしてしまった。 2人でゆったりと散歩していると、瑞樹、?と声をかけられた。見ると………父さんだった。両親が離婚してからもうずっと会っていない、連絡も取っていない。僕は戸惑った。きっと僕の事なんて忘れて幸せに過ごしていると思ったから。だが父さんの反応は予想と反していた。父さんは泣いていた。
「ずっと、ずっと謝りたかった。本当にすまない。お前の大事な時期に母さんとずっと揉めていて、お前の言葉に耳を傾けることも気持ちに寄り添うことも出来なかった。いつも辛い思いばかりさせてすまなかった。約束していた遊園地も行けなくて本当に申し訳なかった。」
僕はとうとう泣いてしまった。
「僕のこと、どうでもいいんだと思ってた」
「そんなわけない…!たった1人の大事な息子だぞ。…なんて連絡していいか分からなくて、今まで連絡出来なくて本当にすまなかった。……瑞樹さえ良ければ、また飯でも…」
「…うん。勿論。」
こんなにちゃんと父さんと話したのはいつぶりだろうか。喧嘩している2人が嫌でいつも部屋にこもっていたから。何かが解けたような気がした。
父さんは小声で 「彼女か?可愛いお嬢さんだな。…大切にしろよ」と言ったから 僕はただ頷いて、その場を後にした。
綾が 良かったね。と微笑んだ後 遊園地?と聞いた
「小学校の卒業の時、地元の遊園地に行く約束をしてたんだけど父さんが仕事で行けなくなって。母さんがそれで怒って喧嘩して…結局なかった事になっちゃったんだよね」
「……いきたい」
「え?…いやまあ遠くはないけどでも」
「行きたい!!!」
しまった、こうなると綾はきかない。仕方ないので綾の母親と医者に了承をとったあと遊園地に向かった。短い時間だったし、地元の小さな遊園地だから17歳の僕たちには大した場所でもないはずなのに。彼女は全力で楽しんでいたし、僕もこんなに楽しそうな彼女を見るのは久しぶりで、嬉しくて、楽しくてはしゃいでいた。そのせいで少し帰りが遅くなってしまった。怒られちゃうね、と綾が笑ったから 一緒に怒られよう。と返し手を握った。僕がそんなこと言うなんて珍しかったのか、綾は少し驚いたあと うん。と手を握り返した。
……
綾の容態が悪化した。
また入院が決まった。散歩中に倒れてしまい、1日経っても意識が戻らないようで、僕は綾の母親から連絡を貰い、すぐに駆けつけた。
母親曰く、冬以外の入院は初めてらしい。父親が、「もうすぐ“1年”だ。覚悟を決めないとな…」と呟き、母親が泣き崩れた。僕は受け入れられなかった。心のどこかで治ると思っていて、どこかでずっと一緒に居られると信じていて。そんな甘い幻想が全て打ち砕かれたような気持ちだった。綾は次の日になっても目を覚まさなかった。僕はずっと綾の傍を離れなかった。春香と野々宮が来て、少し休むように僕に言ったが、僕には届かなかった。「いい、大丈夫。」と言った僕に、春香は平手打ちをかました。
「な、」
「え!?」野々宮が驚いて声を出す。
「…ずっと寝ないでついてるんでしょ。おば様から聞いた……あのさ、あんたが体調崩したらどうすんの?」
「…だいじょ」「大丈夫じゃない!顔色病人だから!!ほれ!鏡!」
向けられた鏡に映る顔は確かに青白かった。「でも…」 「でもじゃない!!…綾が目覚めた時、あんたが本調子じゃなかったらどう思うと思ってるの。」
「…綾ちゃんの事だから自分のこと責めると思うよ」野々宮が続ける。
「…悪い、ありがとう」
「綾には私たちが着いてるから、ちょっと休みなよ」
「うん。本当にありがとう…」
春香のお陰で少し休んで、落ち着くことが出来た。次の日、綾の手を握りながら情けなく泣いてしまった。このまま目覚めなかったら、このままだったら僕は……… ピク、と手が動き ゆっくりと目が開いた。
「綾!!」 「ん…………みず、き、くん…?ないて、るの、?」
「な、泣いてないよバカ、」
「うそ、ばっかり……」
綾が目を覚ました。心底ほっとした。もう二度と、その声を聴けないかと思った。
それから暫く綾は入院生活が続くことになる。
元々華奢だった身体はもっと細くなり、体調が優れない日が増えていた。綾と話し合った結果“したいことノート”は一旦保留することになった。
病室で過ごす時間が当たり前になるほど、長い時間をそこで過ごした。綾の雑学知識で、「人間は声から忘れていく」というのを聞いたことがあったから、忘れるつもりは無いけれど、なんだか不安になって それからは写真だけでなく動画も使って沢山沢山綾の事を記録した。
……
7月2日。僕と綾にとって大切な日。付き合ってから一年が経っていた。綾の体調は相変わらず良くはなっていなかったが、そこまで悪化もしていなかった。医者曰く、だいぶ良い方らしい。僕からしたら早く治って良くなって欲しいとしか思えないのだが。
この日は少し綾の調子が良かったことと…
大人達は言わなかったが恐らくタイムリミットが近いことから、外出の許可が出た。倒れてしまって頭等をぶつけると大変なので車椅子で出かけることにした。
綾は重いでしょ、ごめんね というけれどいつか抱っこした彼女よりずっとずっと軽くて、僕は少し上を向いた。
この日綾は誕生日に僕がプレゼントしたワンピースを着てくれていた。とても似合っていて、可愛らしかった。誕生日は冬なのに半袖なの?と綾にも聞かれたが、僕は夏にこのワンピースを着ている綾を見たかったのだ。
綾の希望で今日は僕が育ってきた街を回ることになった。引っ越す前の家の辺りに行くのは久しぶりで、なんだか僕もドキドキしてしまった。 2人でゆったりと散歩していると、瑞樹、?と声をかけられた。見ると………父さんだった。両親が離婚してからもうずっと会っていない、連絡も取っていない。僕は戸惑った。きっと僕の事なんて忘れて幸せに過ごしていると思ったから。だが父さんの反応は予想と反していた。父さんは泣いていた。
「ずっと、ずっと謝りたかった。本当にすまない。お前の大事な時期に母さんとずっと揉めていて、お前の言葉に耳を傾けることも気持ちに寄り添うことも出来なかった。いつも辛い思いばかりさせてすまなかった。約束していた遊園地も行けなくて本当に申し訳なかった。」
僕はとうとう泣いてしまった。
「僕のこと、どうでもいいんだと思ってた」
「そんなわけない…!たった1人の大事な息子だぞ。…なんて連絡していいか分からなくて、今まで連絡出来なくて本当にすまなかった。……瑞樹さえ良ければ、また飯でも…」
「…うん。勿論。」
こんなにちゃんと父さんと話したのはいつぶりだろうか。喧嘩している2人が嫌でいつも部屋にこもっていたから。何かが解けたような気がした。
父さんは小声で 「彼女か?可愛いお嬢さんだな。…大切にしろよ」と言ったから 僕はただ頷いて、その場を後にした。
綾が 良かったね。と微笑んだ後 遊園地?と聞いた
「小学校の卒業の時、地元の遊園地に行く約束をしてたんだけど父さんが仕事で行けなくなって。母さんがそれで怒って喧嘩して…結局なかった事になっちゃったんだよね」
「……いきたい」
「え?…いやまあ遠くはないけどでも」
「行きたい!!!」
しまった、こうなると綾はきかない。仕方ないので綾の母親と医者に了承をとったあと遊園地に向かった。短い時間だったし、地元の小さな遊園地だから17歳の僕たちには大した場所でもないはずなのに。彼女は全力で楽しんでいたし、僕もこんなに楽しそうな彼女を見るのは久しぶりで、嬉しくて、楽しくてはしゃいでいた。そのせいで少し帰りが遅くなってしまった。怒られちゃうね、と綾が笑ったから 一緒に怒られよう。と返し手を握った。僕がそんなこと言うなんて珍しかったのか、綾は少し驚いたあと うん。と手を握り返した。
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