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「……」

「さすがに、そこは言わないんだね」

「聖さんは……どこまで璃玖のこと、わかっているんですか?」

「さぁ……? 僕は今日初めて璃玖君と会ったくらいだからね」

「じゃあ……なんで璃玖なんですか?」

「そうだね……。一樹君は璃玖君じゃなくてもいいかもしれないけど、僕は璃玖君じゃなきゃダメなんだ」

「俺だってそうです。だから、絶対璃玖は手放しません」

「まだまだ青いね。いつかその時がきたらわかるよ……」

 しばらく二人の間に無言が続くと、スタジオからいなくなった一樹を探して伊織が部屋から出てきた。

「いたっ! もうっ、すぐにどこかへいっちゃう」

 伊織は一樹に駆け寄り、休憩の時のように一樹に腕を絡めた。

「ちょっと、今大事な話しているから、腕離せって……」

 一樹は苛立ちを隠さず腕を振り払おうとするが、伊織は身体を密着させて離そうとしなかった。

「やだよ。またどっかにいっちゃうんだから」

「本当に仲がいいんだね。じゃあ伊織君、一樹君をよろしくね。それと……。君たち二人には期待しているから」

「はーい」

 伊織は満面の笑みで聖に返事をする。

「じゃあ、午後から振付師がここに来る手筈になっているから練習頑張ってね。リハーサルを楽しみにしているよ」

 聖は笑いながら一樹と伊織に手を振って、エレベーターに向かう。

「ちょっと! 話はまだっ!」

 一樹は聖を追いかけようとするが、伊織に全力で引っ張られたせいで阻止されてしまう。

「ほら、一樹! 社長が呼んでいるよ!」

 聖はエレベーターに乗り込み、行き先ボタンを押す。

 そして、壁に寄りかかりながら一樹と伊織の様子をほくそ笑むと、扉が閉まりきるまで見つめていた。

「さて……。これから、どうしようかな」

 聖は一人、エレベーターの中でそっと呟いた。
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