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「ふっ…」

 困った顔をする璃玖の素直な反応に、ついつい聖は我慢できずに笑いが吹き出してしまう。

「聖さん……。もしかして僕を揶揄って遊んでいます?」

「いや、そんなつもりはないよ。ただ、璃玖君の百面相が面白くて、ついね。一樹君にも揶揄われたりするんじゃない?」

「うっ……。否定はできないです」

 図星を指され恥ずかしそうにする璃玖を見て、さらに聖は笑い出す。

「本当に璃玖君はおもしろいね。表情もそうだけど、性格が素直なんだろうね。つい、いじめたくなる」

「聖さんまで……。そんなに僕ってわかりやすいですかね? ずるいなぁ。聖さんって掴みようがないというか、僕には何を考えているのか予想もつかないのに」

「そうかな? 僕って単純だよ。欲しいものは絶対に手に入れるって、子供みたいなこと考えているしね」

「そうなんですか? でも、聖さんなら何でも持っていそうですけど。今でも欲しいものなんてあるんですか?」

 今や国内のみならず、世界でも人気の聖が欲しがるものがどんなものか璃玖は興味が沸き、運転している聖の横顔をじっと見つめる。

「もちろんあるよ。昔から欲しいけど、未だに手に入らないものと……最近欲しいと思ったものがね」

(あっ、またあの時の顔だ……)

 一樹と二人でデビューしたいと話した時と同じ、どこか寂しそうで苦しそうな、そんな不思議な表情を聖は一瞬浮かべた。

 その表情はメディアに映し出される夏川聖ではなく、聖の何か本心のようなものに璃玖には思えた。

 だが、璃玖の視線に気が付くと、聖はまるで何もなかったかのように表情をにこやかな明るいものに変えた。

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