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 その沈黙はたった数秒だったかもしれないが、璃玖にはとてつもなく長く感じた。

 ふと、璃玖は右手に温かいものを感じ自分の手元を見ると、聖の左手がそっと自分に重ねられていることに気が付いた。

「聖……さん?」

 力は加えられていないため、手を引き抜くことで簡単に聖の手から逃げ出せるずなのに、璃玖には何故かそれすらもできなかった。

 そのまま璃玖は何もできずに、ただ手元を見つめていると、聖にまるで割れ物に触れるように優しく手を握られた。

 そして、その手は聖の口元までゆっくりと運ばれていった。

 その様子は以前、一樹に足の手当てをしてもらい、足の甲にキスされた場面と重なり、聖が璃玖の指先にそっと唇を落とそうとする様子を抵抗することなく璃玖は見守ってしまう。

 だが、聖の唇が指先に触れた瞬間、璃玖の中に何かが走り抜けるような感覚を感じ、璃玖はすぐに手を引っ込めた。

「あれ? 残念……」

 先程までの真剣な表情がまるで嘘のように悪戯に笑った聖は、前の車が動き出したため、すぐにハンドルを握って運転を再開した。

(今のは一体……)

 璃玖の全神経が聖の唇が触れた部分に熱が集中したあと一気に戻され、全身の血液を駆け抜けるような、まるで今まで眠っていた何かを引き出されるような感覚だった。

 それは、一樹の唇が璃玖の首に触れた時の感覚に似ていた。

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