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「えっ……?」

(一樹を……降ろす?)

  聖はカバンからスマホを取り出し、何やら操作を始めた。

 そして、操作を終えたスマホ画面を黙って璃玖に見せた。

 画面にはスターチャート社長と表示され、すぐに電話がかけられる状態だった。

「璃玖君は一樹君との約束が一番大事なんだよね。じゃあ、そんな約束を守るためにお互いのチャンスを犠牲にしていいんだね?」

「聖さん……」

「さて、どうする……?」

「……」

「これが最後だよ。僕のお願い、聞き入れてくれるかな?」

 璃玖の頭の中で、聖のバックダンサーに選ばれた時の一樹の嬉しそうな顔が浮かんだ。

 聖の顔は笑みを浮かべつつも、その目は真剣だったため、本気で言っているのだと璃玖は理解した。

「……。これは、脅迫ですか……?」

「いや、取引だよ。決定権は璃玖君にあるからね。僕は君の作った曲が欲しい。そのためには手段を選ばないだけだよ。だいたい、コンサート間近で新人にバックダンサー頼むなんて、おかしいと思わない?」

 言われてみれば、今日の聖のレッスンは前から決まってはいたが、バックダンサーを決めるものだなんて誰も聞いてはいなかった様子だった。

(じゃあ一樹が選ばれたのは……。聖さんが全て仕組んだこと……?)

 最初から断るという選択肢は残されてはいなかったと璃玖は気が付き、身体の力が抜ける。

「……。わかりました……。曲作り、やってみます」

 一樹との約束を破るという後ろめたさはあったが、それ以上に、バックダンサーに選ばれて喜んでいた一樹を落胆させるようなことは璃玖には到底できなかった。

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