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「璃玖って、呼んでもいいか? 後で俺の番号教えるから聖から逃げたくなったら言えよ」

 隼人はまるで同情するかのように璃玖の背中を軽く叩き、スーツケースを担いで聖を追いかけていく。

(なんだか色々と誤解されている気が……)

 隼人に聖との関係がどのように認識されているかわからなかったが、脅されて曲を作る約束をしているとも言えず、璃玖は黙って隼人の後ろからついていくことにした。

「だいたい聖は……」

「はいはい……」

 聖と隼人の話ぶりから、二人の姿は仕事仲間というより友人のように璃玖には見えた。

 エレベーターホールに到着し、エレベーターが来るのを待っている間に璃玖は質問をする。

「あの……。お二人はどういう?」

「そうか。そういえば自己紹介がまだだったな」

「隼人はこんな見た目だけど、僕の専属のヘアメイクアーティストなんだ。普段から僕のファッション全般を任せているんだ」

「えっ?」

「こんな見た目は余計だよ」

 どちらかというと芸術面よりスポーツの方が得意そうに見える隼人がヘアメイクアーティストときいて、璃玖は正直驚いた。

「璃玖君、顔に似合わないって書いてあるよ」

「そ、そんなことは!」

 相変わらず聖には璃玖の心が読めているかのように言い当てられてしまい、璃玖は必死に顔の前で手を左右に振る。

「いいよ、璃玖。似合っていないのは俺自身が一番わかっているから」

「うー……。そんなつもりは……」

「でも、隼人のセンスと腕は確かだから、璃玖君は任せちゃって大丈夫だよ」

「……? 任せるって……何をですか?」

 エレベーターが到着し三人で乗り込むと、スタジオと書かれた階のボタンを隼人が押し、ドアが閉まる。

「それは……今から教えてあげるよ」
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