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「ねぇねぇ君、可愛いね」

 年齢は大学生ぐらいで長い髪を一つにまとめた男は、格好からダンサーだと推測できたが、一樹はまるでいないもののように伊織にだけ話しかけた。

 男はさらに伊織に近づくと、伊織の顔の横で壁に手をつき、伊織の顔をじっくり嘗め回すように観察した。

 それでも伊織は嫌な顔一つせず、満面の笑みを男に向けた。

「えー、ほんとですかー? ありがとうございますー」

 できるだけ高い声で語尾を上げ、伊織は明るく答える。

「あれ? 残念。男の子だったんだぁー。てっきり、メスのΩだと思ったよ」

 伊織の容姿は、まさに西洋のお人形のようで、昔から女の子に間違えられることも多かったことを一樹も知っていたが、こんな侮辱的な言葉を向けられているのを聞いたのは初めてだった。

「君たちなんだろ? 急遽、バックダンサーに抜擢されたの。あれってさぁ、もともと聖さんがソロでやる予定だった曲なんだよねー。一体どんな関係者を誑しこんでゲットしたわけ? やっぱ君ってΩで、その身体使ったの?」

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