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第一章:動き出す世界
🌐 15:禁じられた魔法
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◤ 驚いたことに、萌は梨里杏が魔法を使えることを知っていた。それならばと、エルデリアから来たことも打ち明けるが、萌は激怒して店を出ていってしまった…… ◢
「そっか……それは辛かったね、梨里杏……」
すぐに帰宅してきた私が心配だったのか、お母さんは何があったのかと聞いてくれた。涙ながらに話した私のせいか、お母さんも目を赤くしている。
「一度……私が連絡してみようか、萌ちゃんに」
「で、でも、娘たちの話にお母さんが入ってきたら、ややこしくなったりしない?」
「多分、大丈夫。萌ちゃんとは、私も仲が良かったから。ご飯だって、何度も一緒に食べたし。——うん、やっぱり一度連絡を取ってみるよ」
そう言うと、お母さんは私の前で萌に電話をしはじめた。
***
ピンポーン
「いいよ、梨里杏。私が出迎えるから」
お母さんが萌に連絡を取ると、萌は家まで来てくれることになった。そして今、萌が我が家のチャイムを鳴らしたところだ。
「さ……さっきはごめんね……急に怒って出ていったりして……」
萌はリビングに入ってくるなり、そう言って私に謝った。
「な、なに言ってるの……私こそ、もっと慎重に話すべきだった……本当にごめんなさい……」
「まあまあ、二人とも座って座って。とりあえず私から話せることは、全部話すから」
母はあらかじめ用意していたコーヒーを私たちに注いでくれた。萌の分には黙ってミルクを入れているところを見ると、普段からこんな時間を共有していたのだと思う。
「それにしても……萌ちゃんが、梨里杏の魔法を知ってたことにビックリしたよ。——それでよく、お友達を続けてくれてたわね。ありがとう萌ちゃん」
「なに言ってるんですか、梨奈さん。梨里杏はただ、他の子と違って魔法が使えたってだけです。——ただ、それだけの事です」
萌は表情も変えずにそう言った。——というか、萌はお母さんのことを、梨奈さんって呼ぶんだ。なんか素敵だなと思った。
「じゃ、驚く話ばかりだと思うけど、心して聞いてね。これはちょうど、あなたたちが生まれる、少し前のお話——」
私と萌が姿勢を正すと、お母さんは咳払いを一つしてから話し始めた。
***
「ある日の仕事帰り、一人の男性を指さして笑っているグループがいたの。その笑われていた男性がリアノス……梨里杏のお父さんね。彼はエルデリアからやってきたばかりで、それはそれはおかしな格好をしていたわ。でもね、私は彼を笑う気にはなれなかったの。彼はとても恥ずかしそうにしていながら、どこか、地球人とコンタクトを取れたと喜んでいるようにも見えて。もちろんこの時の私は、彼が異世界からやってきた人だなんて知らないわよ。——それでね、思い切って彼に声をかけてみたの」
「そ、そんなタイミングで!? な、なんて声をかけたんですか!?」
「その時の彼ね、凄く困っているようにも見えたから。『何か困っていること、ありますか?』って。日本語は通じるのかな? なんて、心配をしながらね」
お母さんはそう言って、フフフと笑った。
地球に降り立った時の話は、お父様からも聞いたことがある。違う視点で同じ話を聞くっていうのも、なかなかに面白い。
「そしたら、『君たちと同じような格好をしたい』って彼は言うの。それで私たちは、一緒に服屋さんに行ったわ。いくつか試着して、『これだ!』って決まったはいいけど、彼ったらお金を持って無くて」
「えええ!? お父様ったら、何やってるのよ!! ——で、どうしたの支払いは?」
一緒に服を選んでもらったとは聞いていたが、お金を持っていなかったことに関しては初耳だった。
「そりゃ、一緒にいた私が払ったわよ。でもね……不思議と全然腹が立たなかったの。どうしてだろうね……今でも不思議なんだけど」
そしてその日を境に、二人は地球での逢瀬を重ねるようになったという。
***
「梨里杏のいる世界……エルデリアでしたっけ……? そこにいる人たちは、みんな地球のことを知ってるんですか?」
「いや……きっと、知らないわ。エルデリアで地球のことを知っているのは、リアノスだけなはず。リアノスはね、魔法界の貴公子と呼ばれていて、とても魔法に精通していたそうなの。まあ、言ってみれば魔法オタクってやつ? それで、普通の人なら手を出さないような、古い魔法書なども読み漁っていたみたい。——そして、その時彼は知ってしまったの。この世には、対の世界があるってことを」
魔法界の貴公子か……アルフィナは、魔法界の変態なんて言っていたけど。
「つ、対の世界……!? そ、それが地球ってことですか?」
「そう。エルデリアの対の世界にあるのが地球だと彼は言っていたわ。——萌ちゃんは多元宇宙論って言葉を、聞いたことある? 私たちの地球が存在する宇宙以外にも、無数の宇宙が存在するって話。リアノスが言っていたことって、それが一番近いのかなって」
「マ、マルチバースですか……そんなものが本当に存在してたなんて……」
萌はマグカップをギュッと握りしめながら、「ほー」とか「はー」とか言っている。
「そして、地球のことを知れば知るほど、『地球へ行ってみたい』という気持ちが膨らんでいったそうなの。——でもね、こっちへ来るのはそう簡単なことじゃなかった。そのために、ありとあらゆる魔法書を探し歩いたと言っていたわ。名も無い村の書庫を訪れてまで」
「その話、私も聞いたよ。崖路の先にある、馬車も使えない村とかね。でも、結局そこでも見つけられなかったって」
「ああ、確かそんなことも言っていたわね。結局、全ての魔法書を読んでもそんな魔法はなかったのよ。——でもね、彼は諦めなかった」
瞬きを忘れたように、萌はお母さんをジッと見ている。相変わらず、マグカップはギュッと握ったままだ。
「そして彼はとうとう、禁忌の魔法にまで手を出してしまったの。絶対に使っちゃいけない魔法ってことね。でもね、禁忌の魔法にも実は色々とあるらしくて。どんな弊害が出るか示しているものもあれば、現時点ではどうなるか分からないものまで。例えるなら、治験結果の出ていないお薬みたいなものかな。——そして、それから3年。彼はとうとう、とある禁忌の魔法を組み合わせて、地球へと繋がるゲートを開けてしまったの」
そう——
その禁じられた魔法を使ったせいで、お父様とお母様は出逢い、そして永遠の分かれを選ぶことになる。そして、今になって私たちが入れ替わることになったのも、その魔法のせい……
触れてはいけない禁忌の魔法に、お父様は触れてしまったのだ。
「そっか……それは辛かったね、梨里杏……」
すぐに帰宅してきた私が心配だったのか、お母さんは何があったのかと聞いてくれた。涙ながらに話した私のせいか、お母さんも目を赤くしている。
「一度……私が連絡してみようか、萌ちゃんに」
「で、でも、娘たちの話にお母さんが入ってきたら、ややこしくなったりしない?」
「多分、大丈夫。萌ちゃんとは、私も仲が良かったから。ご飯だって、何度も一緒に食べたし。——うん、やっぱり一度連絡を取ってみるよ」
そう言うと、お母さんは私の前で萌に電話をしはじめた。
***
ピンポーン
「いいよ、梨里杏。私が出迎えるから」
お母さんが萌に連絡を取ると、萌は家まで来てくれることになった。そして今、萌が我が家のチャイムを鳴らしたところだ。
「さ……さっきはごめんね……急に怒って出ていったりして……」
萌はリビングに入ってくるなり、そう言って私に謝った。
「な、なに言ってるの……私こそ、もっと慎重に話すべきだった……本当にごめんなさい……」
「まあまあ、二人とも座って座って。とりあえず私から話せることは、全部話すから」
母はあらかじめ用意していたコーヒーを私たちに注いでくれた。萌の分には黙ってミルクを入れているところを見ると、普段からこんな時間を共有していたのだと思う。
「それにしても……萌ちゃんが、梨里杏の魔法を知ってたことにビックリしたよ。——それでよく、お友達を続けてくれてたわね。ありがとう萌ちゃん」
「なに言ってるんですか、梨奈さん。梨里杏はただ、他の子と違って魔法が使えたってだけです。——ただ、それだけの事です」
萌は表情も変えずにそう言った。——というか、萌はお母さんのことを、梨奈さんって呼ぶんだ。なんか素敵だなと思った。
「じゃ、驚く話ばかりだと思うけど、心して聞いてね。これはちょうど、あなたたちが生まれる、少し前のお話——」
私と萌が姿勢を正すと、お母さんは咳払いを一つしてから話し始めた。
***
「ある日の仕事帰り、一人の男性を指さして笑っているグループがいたの。その笑われていた男性がリアノス……梨里杏のお父さんね。彼はエルデリアからやってきたばかりで、それはそれはおかしな格好をしていたわ。でもね、私は彼を笑う気にはなれなかったの。彼はとても恥ずかしそうにしていながら、どこか、地球人とコンタクトを取れたと喜んでいるようにも見えて。もちろんこの時の私は、彼が異世界からやってきた人だなんて知らないわよ。——それでね、思い切って彼に声をかけてみたの」
「そ、そんなタイミングで!? な、なんて声をかけたんですか!?」
「その時の彼ね、凄く困っているようにも見えたから。『何か困っていること、ありますか?』って。日本語は通じるのかな? なんて、心配をしながらね」
お母さんはそう言って、フフフと笑った。
地球に降り立った時の話は、お父様からも聞いたことがある。違う視点で同じ話を聞くっていうのも、なかなかに面白い。
「そしたら、『君たちと同じような格好をしたい』って彼は言うの。それで私たちは、一緒に服屋さんに行ったわ。いくつか試着して、『これだ!』って決まったはいいけど、彼ったらお金を持って無くて」
「えええ!? お父様ったら、何やってるのよ!! ——で、どうしたの支払いは?」
一緒に服を選んでもらったとは聞いていたが、お金を持っていなかったことに関しては初耳だった。
「そりゃ、一緒にいた私が払ったわよ。でもね……不思議と全然腹が立たなかったの。どうしてだろうね……今でも不思議なんだけど」
そしてその日を境に、二人は地球での逢瀬を重ねるようになったという。
***
「梨里杏のいる世界……エルデリアでしたっけ……? そこにいる人たちは、みんな地球のことを知ってるんですか?」
「いや……きっと、知らないわ。エルデリアで地球のことを知っているのは、リアノスだけなはず。リアノスはね、魔法界の貴公子と呼ばれていて、とても魔法に精通していたそうなの。まあ、言ってみれば魔法オタクってやつ? それで、普通の人なら手を出さないような、古い魔法書なども読み漁っていたみたい。——そして、その時彼は知ってしまったの。この世には、対の世界があるってことを」
魔法界の貴公子か……アルフィナは、魔法界の変態なんて言っていたけど。
「つ、対の世界……!? そ、それが地球ってことですか?」
「そう。エルデリアの対の世界にあるのが地球だと彼は言っていたわ。——萌ちゃんは多元宇宙論って言葉を、聞いたことある? 私たちの地球が存在する宇宙以外にも、無数の宇宙が存在するって話。リアノスが言っていたことって、それが一番近いのかなって」
「マ、マルチバースですか……そんなものが本当に存在してたなんて……」
萌はマグカップをギュッと握りしめながら、「ほー」とか「はー」とか言っている。
「そして、地球のことを知れば知るほど、『地球へ行ってみたい』という気持ちが膨らんでいったそうなの。——でもね、こっちへ来るのはそう簡単なことじゃなかった。そのために、ありとあらゆる魔法書を探し歩いたと言っていたわ。名も無い村の書庫を訪れてまで」
「その話、私も聞いたよ。崖路の先にある、馬車も使えない村とかね。でも、結局そこでも見つけられなかったって」
「ああ、確かそんなことも言っていたわね。結局、全ての魔法書を読んでもそんな魔法はなかったのよ。——でもね、彼は諦めなかった」
瞬きを忘れたように、萌はお母さんをジッと見ている。相変わらず、マグカップはギュッと握ったままだ。
「そして彼はとうとう、禁忌の魔法にまで手を出してしまったの。絶対に使っちゃいけない魔法ってことね。でもね、禁忌の魔法にも実は色々とあるらしくて。どんな弊害が出るか示しているものもあれば、現時点ではどうなるか分からないものまで。例えるなら、治験結果の出ていないお薬みたいなものかな。——そして、それから3年。彼はとうとう、とある禁忌の魔法を組み合わせて、地球へと繋がるゲートを開けてしまったの」
そう——
その禁じられた魔法を使ったせいで、お父様とお母様は出逢い、そして永遠の分かれを選ぶことになる。そして、今になって私たちが入れ替わることになったのも、その魔法のせい……
触れてはいけない禁忌の魔法に、お父様は触れてしまったのだ。
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