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第9章 第二次ノルキア帝国戦争
第87話 魔国の新兵器3
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「ネイトス首相。あんな後方に布陣されちゃったわね。これからどうするつもりなの」
昨日の攻撃で飛行部隊はやっつけたけど射程外に移動し、大兵力を集結させたままだ。前進し地上戦になっても魔国は負けないだろうけど、犠牲を恐れているのか今は動こうとしていない。何か作戦でもあるのかしら。
「今、カザトランから航空機が発艦している。それで敵陣に攻撃を仕掛ける」
カザトラン? ああ、前の戦争で魔国が手に入れた都市ね。ここから近いけど、そんな所にも新兵器を置いてたのね。
まだ夕方にもなっていない頃、北西の空に何かが浮かんでこちらに向かって来る。
「あれが新しく作った爆撃機だ。この陣地の一番後ろに着陸してもらうが、ウィッチアも見に行ってみるか」
そう言うネイトス首相に付いて、陣地の一番後ろまで馬を走らせる。そこは昨日の戦闘機が停められている広くて平らな場所。
急に空が暗くなったと思ったら、上空に浮かぶ巨大な物体の影が地上に落ちていた。驚き仰ぎ見ると、三階建ての屋敷一つ分はあろうかという巨大な物がゆっくりと降りて来る。
「うわっ、何!」
「あれが爆撃機だ。とはいっても、爆弾はあんまり積んでないんだがな」
これで攻撃をするというの?
その巨大物体が二つ、静かに地上に降り立つ。前方の扉が開き乗員五十人程がぞろぞろと降りてきて、首相と打ち合わせをするようだ。そのネイトス首相に声を掛け、ワタシは爆撃機に近づき間近で見てみる。
「これは木でできているようね……」
機体をコンコンと叩く。戦闘機と違って木製で艶消しの白に近い空色のペンキが塗られている。側面には扉のような物がいくつもあって、頑丈で本当に屋敷のようだわ。手で触りながら高い壁沿いを後ろに歩いていく。
後ろの方には丸い金属の筒が取り付けられているけど、人の背丈ほどもある大きな物だ
「お~い、そこの鬼人族のお嬢ちゃん。後ろのエンジンは熱くなっているから触っちゃダメだぞ~」
筒の後ろに回ろうとしたら、注意されてしまった。確かに筒の一番後ろは熱気が立ち込めているわ。
でもワタシが入っていけそうな穴が開いているだけ。エンジンと言ってたけど、どんな構造なのかここからじゃ分からないわね。
その筒が側面後方に二つ、その横からは戦闘機にもあった横板が外側に伸びている。
真後ろに回ったけど、本当に大きいわね。そそり立つ壁に圧倒される。
「こんな大きな物を飛ばすなんて。どんだけ多くの飛行ユニットを使っているのよ」
魔国の飛行ユニットはワタシが作った物より性能がいいんでしょうね。苦労して手作業で作っている物を、魔国では大量生産して実戦投入している。開発力でも負けるなんて悔しいわ。
「妖精族の協力者がいると思うんだけど、まさかエルフィ。いえ、そんなはずないわね。あの娘はバカっぽいものね」
一人呟くけど、魔道具の本場は妖精族の国。ワタシも勉強で一時期住んでいた事がある。でも、あの妖精族が作ったとは思えないし、他の妖精族を見たことはない。
どこからこんな知識を得ているのか……やはり魔国には謎が多いわね。
その翌日。
「これから攻撃を仕掛けるが、ウィッチアはまた戦闘機に乗るか」
「そうね。空から全体を見てみたいし、乗せてもらうわ」
ネイトス首相の勧めで、また戦闘機に乗せてもらったけど、敵の飛行隊は全滅させたはずよね。
「ウィッチア様。今回私達は爆撃機の護衛任務に就きます。なにせあの機体はスピードが遅いですからな」
地上から狙われないように射程外まで上昇するそうだけど、敵の飛行隊が襲って来る可能性がある。爆撃機を守りながら一緒に飛ぶそうだ。そういえば昨日、爆撃機が降りてきた時も戦闘機が一緒だったわ。
巨大な爆撃機が飛び立ち、その左右に十機の戦闘機が編隊を組んだまま敵陣の上空までやって来た。
「第一弾投下します」
ワタシにそう言った後、隊長が風防ガラス越しに爆撃機の乗員に向かって手で合図を送る。
すると爆撃機の側面の一部が開き、丸い球が下の敵陣に向かって落ちていく。地上に赤い花が咲くように、炎が広がっていくのが見えた。
「あれは火薬の詰まった爆弾で、初撃で敵陣の設備を破壊します」
隊長さんが言うには、A級程度の火魔法を詰めたものを投下して、やぐらや陣地の石垣、堀などを壊すそうだ。
「次に、頭ほどの大きさの岩を大量に投下して兵士を殲滅します」
二機の爆撃機は移動しながら、敵陣の隅々まで岩を落としていく。あの岩が空から降って来て直撃すれば、盾で防ぐこともできないでしょうね。地面に落ち、飛び散った破片だけでも死傷させられるわ。戦争とはいえ何て残酷な戦法を考えるのよ。
飛行隊がこちらに立ち向かってくる事もなく、爆撃機からすべての岩が敵陣に投下された。地上部隊からも敵陣に対して魔法攻撃をしているようね。魔法の軌跡が細い糸のように敵陣に向かっているのが何本も見える。
「さて、我らの仕事はここまで。自陣に戻りましょう」
降りていく途中で見た敵陣は、テントが燃え上がり地面には大小の穴が開きデコボコになっていた。そこには敵兵と馬の遺体しかなく、動いている者を見る事はできない。ワタシが地面に降り立った時には既に決着がついていた。
「ネイトス首相。ここまでする必要があるの?」
「今回は徹底的に攻撃するようにと、リビティナ様の指示が出ていますからね」
圧倒的な力を見せつけて、今後戦争を起こさせないという考えは分かるわ。
前の戦争でも、小さな魔国が他の国と充分に戦えることを示した。その教訓をどう捉えて活かしていくかは、それぞれの国が判断すること。帝国は最悪の判断を下したという事になるわね。
帝国の主力は、敗走し帝都へと向かっている。前と同じ結果ね。攻撃できないワタシが最前線に居ても仕方ないわ。お城に帰還する戦闘機に乗せてもらいましょう。
一時間で帰って来た首都のお城。さっきまでの最前線が嘘のようにここは静かね。帝国軍のあの惨状がまだ瞼に焼き付いているというのに……。
「ウィッチア、お疲れだったね。今後の事を検討するから、一緒に来てくれるかい」
迎えに出てきたリビティナにそう言われたけど、勝敗は決したんじゃないの。この後どうするつもりなのかしら。
「国境を越えた帝国軍の主力は帝都に敗走し、代わりに帝都を守っていた軍が出てくるだろうね」
「帝都を包囲するつもりなの」
「いや、今回は帝国の南部地方に進出する」
帝都の西側を南下して攻め込む? 南部地域一帯を占領するほどの兵力があるとは思えないんだけど。
「事前に王国とは話ができていてね。魔国が南部を攻めるなら、以前に帝国に取られた領地を取り返したいと言ってきているんだ」
ワタシが帝国と一緒に戦った南部戦線。あの時は王国の穀倉地帯を手に入れる事が目的だった。その土地を今回、魔国と協力して取り戻そうというの。
「以前、王国領だった地域を、王国と魔国で挟み撃ちにする。その後も南下を続けてヘブンズ教国との国境を閉鎖するつもりなんだ」
ここに来て王国との共闘? リビティナは先を読んだ戦い方をしているわ。今回、戦力の供給元はヘブンズ教国。それを遮断するつもりのようね。
「戦場に出て来ているヘブンズ教国の兵士は、原理主義者の一派よ。教国全体じゃないから国境検問所を押さえれば簡単に入ってこれなくなるわ」
前の魔国との戦争で変な仮面を付けていた部隊がいた。国からの指示じゃなくて、自らの教義によって行動している者達。だから人数としてはそれほど多くない。
「よし、それじゃこのまま作戦を続行しよう」
昨日の攻撃で飛行部隊はやっつけたけど射程外に移動し、大兵力を集結させたままだ。前進し地上戦になっても魔国は負けないだろうけど、犠牲を恐れているのか今は動こうとしていない。何か作戦でもあるのかしら。
「今、カザトランから航空機が発艦している。それで敵陣に攻撃を仕掛ける」
カザトラン? ああ、前の戦争で魔国が手に入れた都市ね。ここから近いけど、そんな所にも新兵器を置いてたのね。
まだ夕方にもなっていない頃、北西の空に何かが浮かんでこちらに向かって来る。
「あれが新しく作った爆撃機だ。この陣地の一番後ろに着陸してもらうが、ウィッチアも見に行ってみるか」
そう言うネイトス首相に付いて、陣地の一番後ろまで馬を走らせる。そこは昨日の戦闘機が停められている広くて平らな場所。
急に空が暗くなったと思ったら、上空に浮かぶ巨大な物体の影が地上に落ちていた。驚き仰ぎ見ると、三階建ての屋敷一つ分はあろうかという巨大な物がゆっくりと降りて来る。
「うわっ、何!」
「あれが爆撃機だ。とはいっても、爆弾はあんまり積んでないんだがな」
これで攻撃をするというの?
その巨大物体が二つ、静かに地上に降り立つ。前方の扉が開き乗員五十人程がぞろぞろと降りてきて、首相と打ち合わせをするようだ。そのネイトス首相に声を掛け、ワタシは爆撃機に近づき間近で見てみる。
「これは木でできているようね……」
機体をコンコンと叩く。戦闘機と違って木製で艶消しの白に近い空色のペンキが塗られている。側面には扉のような物がいくつもあって、頑丈で本当に屋敷のようだわ。手で触りながら高い壁沿いを後ろに歩いていく。
後ろの方には丸い金属の筒が取り付けられているけど、人の背丈ほどもある大きな物だ
「お~い、そこの鬼人族のお嬢ちゃん。後ろのエンジンは熱くなっているから触っちゃダメだぞ~」
筒の後ろに回ろうとしたら、注意されてしまった。確かに筒の一番後ろは熱気が立ち込めているわ。
でもワタシが入っていけそうな穴が開いているだけ。エンジンと言ってたけど、どんな構造なのかここからじゃ分からないわね。
その筒が側面後方に二つ、その横からは戦闘機にもあった横板が外側に伸びている。
真後ろに回ったけど、本当に大きいわね。そそり立つ壁に圧倒される。
「こんな大きな物を飛ばすなんて。どんだけ多くの飛行ユニットを使っているのよ」
魔国の飛行ユニットはワタシが作った物より性能がいいんでしょうね。苦労して手作業で作っている物を、魔国では大量生産して実戦投入している。開発力でも負けるなんて悔しいわ。
「妖精族の協力者がいると思うんだけど、まさかエルフィ。いえ、そんなはずないわね。あの娘はバカっぽいものね」
一人呟くけど、魔道具の本場は妖精族の国。ワタシも勉強で一時期住んでいた事がある。でも、あの妖精族が作ったとは思えないし、他の妖精族を見たことはない。
どこからこんな知識を得ているのか……やはり魔国には謎が多いわね。
その翌日。
「これから攻撃を仕掛けるが、ウィッチアはまた戦闘機に乗るか」
「そうね。空から全体を見てみたいし、乗せてもらうわ」
ネイトス首相の勧めで、また戦闘機に乗せてもらったけど、敵の飛行隊は全滅させたはずよね。
「ウィッチア様。今回私達は爆撃機の護衛任務に就きます。なにせあの機体はスピードが遅いですからな」
地上から狙われないように射程外まで上昇するそうだけど、敵の飛行隊が襲って来る可能性がある。爆撃機を守りながら一緒に飛ぶそうだ。そういえば昨日、爆撃機が降りてきた時も戦闘機が一緒だったわ。
巨大な爆撃機が飛び立ち、その左右に十機の戦闘機が編隊を組んだまま敵陣の上空までやって来た。
「第一弾投下します」
ワタシにそう言った後、隊長が風防ガラス越しに爆撃機の乗員に向かって手で合図を送る。
すると爆撃機の側面の一部が開き、丸い球が下の敵陣に向かって落ちていく。地上に赤い花が咲くように、炎が広がっていくのが見えた。
「あれは火薬の詰まった爆弾で、初撃で敵陣の設備を破壊します」
隊長さんが言うには、A級程度の火魔法を詰めたものを投下して、やぐらや陣地の石垣、堀などを壊すそうだ。
「次に、頭ほどの大きさの岩を大量に投下して兵士を殲滅します」
二機の爆撃機は移動しながら、敵陣の隅々まで岩を落としていく。あの岩が空から降って来て直撃すれば、盾で防ぐこともできないでしょうね。地面に落ち、飛び散った破片だけでも死傷させられるわ。戦争とはいえ何て残酷な戦法を考えるのよ。
飛行隊がこちらに立ち向かってくる事もなく、爆撃機からすべての岩が敵陣に投下された。地上部隊からも敵陣に対して魔法攻撃をしているようね。魔法の軌跡が細い糸のように敵陣に向かっているのが何本も見える。
「さて、我らの仕事はここまで。自陣に戻りましょう」
降りていく途中で見た敵陣は、テントが燃え上がり地面には大小の穴が開きデコボコになっていた。そこには敵兵と馬の遺体しかなく、動いている者を見る事はできない。ワタシが地面に降り立った時には既に決着がついていた。
「ネイトス首相。ここまでする必要があるの?」
「今回は徹底的に攻撃するようにと、リビティナ様の指示が出ていますからね」
圧倒的な力を見せつけて、今後戦争を起こさせないという考えは分かるわ。
前の戦争でも、小さな魔国が他の国と充分に戦えることを示した。その教訓をどう捉えて活かしていくかは、それぞれの国が判断すること。帝国は最悪の判断を下したという事になるわね。
帝国の主力は、敗走し帝都へと向かっている。前と同じ結果ね。攻撃できないワタシが最前線に居ても仕方ないわ。お城に帰還する戦闘機に乗せてもらいましょう。
一時間で帰って来た首都のお城。さっきまでの最前線が嘘のようにここは静かね。帝国軍のあの惨状がまだ瞼に焼き付いているというのに……。
「ウィッチア、お疲れだったね。今後の事を検討するから、一緒に来てくれるかい」
迎えに出てきたリビティナにそう言われたけど、勝敗は決したんじゃないの。この後どうするつもりなのかしら。
「国境を越えた帝国軍の主力は帝都に敗走し、代わりに帝都を守っていた軍が出てくるだろうね」
「帝都を包囲するつもりなの」
「いや、今回は帝国の南部地方に進出する」
帝都の西側を南下して攻め込む? 南部地域一帯を占領するほどの兵力があるとは思えないんだけど。
「事前に王国とは話ができていてね。魔国が南部を攻めるなら、以前に帝国に取られた領地を取り返したいと言ってきているんだ」
ワタシが帝国と一緒に戦った南部戦線。あの時は王国の穀倉地帯を手に入れる事が目的だった。その土地を今回、魔国と協力して取り戻そうというの。
「以前、王国領だった地域を、王国と魔国で挟み撃ちにする。その後も南下を続けてヘブンズ教国との国境を閉鎖するつもりなんだ」
ここに来て王国との共闘? リビティナは先を読んだ戦い方をしているわ。今回、戦力の供給元はヘブンズ教国。それを遮断するつもりのようね。
「戦場に出て来ているヘブンズ教国の兵士は、原理主義者の一派よ。教国全体じゃないから国境検問所を押さえれば簡単に入ってこれなくなるわ」
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