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第12章 ラグナロク-神との戦い-
第125話 異変1
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甥っ子の三歳の誕生日祝いに隣の集落まで果物を運ぶ。ここまで丸三日、予定通りお昼頃には到着できそうだわ。
雨が降らなくて良かった。このガゼノラ帝国は湿地帯と森が多くて、荷馬車が走れる街道は少ない。長雨が降るとぬかるんで街道さえ使えなくなるもの。
お父さんが言うには、この湿地帯のお陰で敵から攻められず、リザードマン族が有利に戦えるそうだ。これも神イグアラシ様のお導きだと言っていたわね。
でも国境付近ならいざ知らず、この南部地方で戦争など起こったことがない。道の整備ぐらいしてもらいたいものだわ。
そんな事を思いつつ馬車を走らせ、もうすぐ姉さんの住む集落に着く頃。
「あれ、どうしたのかしら。様子が変だわ」
不安になり馬を急がせると、やはり集落のいくつかの家が燃えていて白い煙が何本も立ち昇っていた。
「姉さん、姉さん! 無事ですか!」
姉さんの家も焼けた跡があって、玄関の扉が破壊されていた。奥の寝室へ行くと旦那さんがうつ伏せに倒れている。その背中には剣で斬られた傷。大量の血が床一杯に広がっていた。
その奥で物音がする。
「レミンね……この子を……ガントを助けて」
「姉さん!」
焼けた瓦礫の下に体の半分以上が埋まっていた。三歳になる息子を隠すように抱えて何とか声を出す。
「もう……私は助からない……この子を病院に連れて行って」
そう言って差し出された甥っ子は鱗のない真っ白な体になっていた。聞いた事がある、魔国にいる魔王の眷属になるとこんな姿になると……これが神様の姿なのだと。
「どうして、こんな事に」
姉さんに聞き返したけど、もう返事は帰ってこなかった。壁が崩れ落ちて来て、甥っ子を抱きかかえて急ぎ外に飛び出すだけで精一杯だった。
もうこの集落に住民は誰一人いない。野盗に襲われたのならここに居ては危険だわ、すぐに脱出しないと。毛布に包まれた甥っ子に息はあるようだけど全く動かない。急いで荷馬車に乗せてとにかく走り出す。
道端にも真っ白な体の大人の遺体が転がっていた。やはり剣なのか切られた傷がある。その遺体を避けて集落の出口へと急ぐ。
「ガント、起きたのね。お腹が空いたならその袋に入っている果物を食べていなさい」
「叔母ちゃん……お母さんは?」
「今はいないのよ。あなたを病院に連れて行ってくれって頼まれたの」
「ボクがこんな体になったから?」
今は母親のことを誤魔化してでも、あの集落から離れないと。三日を掛けてやっと自分の村まで辿りついた。
でもそこで目にしたのは、姉さんの集落と同じ光景。家が焼け、白い遺体が道に転がっている。
「父さん! 母さん!」
家のドアを開けて居間に行くと、上半身だけが真っ白な眷属の姿になっているお父さんが倒れていた。その横でお母さんが胸を槍で突かれて絶命している。
「どうしてこんな事に……」
呆然となり家の外に出る。
「レミンなの? あなたこの村から出て行ったんじゃ……」
家の窓から声を掛けてきたのは、お隣さん。
「五日ほど前から流行病がこの村を襲ったのよ。あなたのお父さんも病気になって、あんな姿に……」
病気になると化け物の姿になって死んでしまうんだと言われた。みんな恐れて家の外に出ようとしない。
「私は姉さんの集落まで行ってたの。そこでも同じような人を見たわ」
「あなた……もしかして」
停めておいた荷馬車に向かうと、ガントが降りて来てヨロヨロとこちらに歩いてきた。
「キャー! 誰かこっちに来て! 感染者がここにいるわよ!」
その声を聞きつけた男が、武器を手にし走ってくる。まさかこの私を殺そうと言うの!
ガントを抱え上げて荷馬車に飛び乗り、馬に鞭打ち急発進させる。流行病? 疫病がこの村に! それなら感染した者は家ごと燃やされるわ。
だから姉さんの集落でも家が燃やされて、人が逃げ出していたんだわ。
でも私はガントと一緒にいたけど、病気になんてなっていない。これは感染する病じゃないわ。でもあの村から離れた方がいいわね。
でもどこへ……。そうだわ、魔国へ。魔国なら同じ姿の眷属の人達がいる。弱ってきているガントの治療もできるはずだわ。東の街道を進んでから北へ向かいましょう。
◇
◇
「大変です、リビティナ様! リザードマンの国で人間化した者達が大量に発生しています」
お城からの報告に最初耳を疑ったよ。リビティナが行った事もないガゼノラ帝国内で人間化が起きているなんて。帝国内ではパニックになり教国や魔国の国境にリザードマンが押し寄せているようだ。
「今のところ国境検問所で抑えてはいますが、破られるのも時間の問題かと」
元より戦闘的な民族だ。武力で国境を越えようとする連中も出てくるだろう。
せっかく穀倉地帯とした南部地方が踏み荒らされるのは避けたい。軍隊を追加派遣してリザードマンを押しとどめるように指示を出す。
「白子ではなく、成人の者が人間化しているようですな」
「聞くところによると、死亡する者が大勢いるとか。全てを魔国のせいだとされかねませんね」
エリーシアの言うように、人間の姿に変わるのを推進しているのはこの魔国だけだ。魔国の陰謀だと言われかねない状況になっている。
「リビティナ様。これは未確認情報なのですが、ヘブンズ教国の南部地方でも人間化が起こったと報告を受けております」
首都に集まる情報の中には、教国での異変も含まれ全体的な状況も分かり始めた。
「伝染病のように、南から広がっているという事かな。これはまずいね」
人が死ぬ疫病となると、確実にパニックが起きる。一歩間違えれば国が滅ぶことにも成りかねない。
「ボクが直接調査に向かうよ」
雨が降らなくて良かった。このガゼノラ帝国は湿地帯と森が多くて、荷馬車が走れる街道は少ない。長雨が降るとぬかるんで街道さえ使えなくなるもの。
お父さんが言うには、この湿地帯のお陰で敵から攻められず、リザードマン族が有利に戦えるそうだ。これも神イグアラシ様のお導きだと言っていたわね。
でも国境付近ならいざ知らず、この南部地方で戦争など起こったことがない。道の整備ぐらいしてもらいたいものだわ。
そんな事を思いつつ馬車を走らせ、もうすぐ姉さんの住む集落に着く頃。
「あれ、どうしたのかしら。様子が変だわ」
不安になり馬を急がせると、やはり集落のいくつかの家が燃えていて白い煙が何本も立ち昇っていた。
「姉さん、姉さん! 無事ですか!」
姉さんの家も焼けた跡があって、玄関の扉が破壊されていた。奥の寝室へ行くと旦那さんがうつ伏せに倒れている。その背中には剣で斬られた傷。大量の血が床一杯に広がっていた。
その奥で物音がする。
「レミンね……この子を……ガントを助けて」
「姉さん!」
焼けた瓦礫の下に体の半分以上が埋まっていた。三歳になる息子を隠すように抱えて何とか声を出す。
「もう……私は助からない……この子を病院に連れて行って」
そう言って差し出された甥っ子は鱗のない真っ白な体になっていた。聞いた事がある、魔国にいる魔王の眷属になるとこんな姿になると……これが神様の姿なのだと。
「どうして、こんな事に」
姉さんに聞き返したけど、もう返事は帰ってこなかった。壁が崩れ落ちて来て、甥っ子を抱きかかえて急ぎ外に飛び出すだけで精一杯だった。
もうこの集落に住民は誰一人いない。野盗に襲われたのならここに居ては危険だわ、すぐに脱出しないと。毛布に包まれた甥っ子に息はあるようだけど全く動かない。急いで荷馬車に乗せてとにかく走り出す。
道端にも真っ白な体の大人の遺体が転がっていた。やはり剣なのか切られた傷がある。その遺体を避けて集落の出口へと急ぐ。
「ガント、起きたのね。お腹が空いたならその袋に入っている果物を食べていなさい」
「叔母ちゃん……お母さんは?」
「今はいないのよ。あなたを病院に連れて行ってくれって頼まれたの」
「ボクがこんな体になったから?」
今は母親のことを誤魔化してでも、あの集落から離れないと。三日を掛けてやっと自分の村まで辿りついた。
でもそこで目にしたのは、姉さんの集落と同じ光景。家が焼け、白い遺体が道に転がっている。
「父さん! 母さん!」
家のドアを開けて居間に行くと、上半身だけが真っ白な眷属の姿になっているお父さんが倒れていた。その横でお母さんが胸を槍で突かれて絶命している。
「どうしてこんな事に……」
呆然となり家の外に出る。
「レミンなの? あなたこの村から出て行ったんじゃ……」
家の窓から声を掛けてきたのは、お隣さん。
「五日ほど前から流行病がこの村を襲ったのよ。あなたのお父さんも病気になって、あんな姿に……」
病気になると化け物の姿になって死んでしまうんだと言われた。みんな恐れて家の外に出ようとしない。
「私は姉さんの集落まで行ってたの。そこでも同じような人を見たわ」
「あなた……もしかして」
停めておいた荷馬車に向かうと、ガントが降りて来てヨロヨロとこちらに歩いてきた。
「キャー! 誰かこっちに来て! 感染者がここにいるわよ!」
その声を聞きつけた男が、武器を手にし走ってくる。まさかこの私を殺そうと言うの!
ガントを抱え上げて荷馬車に飛び乗り、馬に鞭打ち急発進させる。流行病? 疫病がこの村に! それなら感染した者は家ごと燃やされるわ。
だから姉さんの集落でも家が燃やされて、人が逃げ出していたんだわ。
でも私はガントと一緒にいたけど、病気になんてなっていない。これは感染する病じゃないわ。でもあの村から離れた方がいいわね。
でもどこへ……。そうだわ、魔国へ。魔国なら同じ姿の眷属の人達がいる。弱ってきているガントの治療もできるはずだわ。東の街道を進んでから北へ向かいましょう。
◇
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「大変です、リビティナ様! リザードマンの国で人間化した者達が大量に発生しています」
お城からの報告に最初耳を疑ったよ。リビティナが行った事もないガゼノラ帝国内で人間化が起きているなんて。帝国内ではパニックになり教国や魔国の国境にリザードマンが押し寄せているようだ。
「今のところ国境検問所で抑えてはいますが、破られるのも時間の問題かと」
元より戦闘的な民族だ。武力で国境を越えようとする連中も出てくるだろう。
せっかく穀倉地帯とした南部地方が踏み荒らされるのは避けたい。軍隊を追加派遣してリザードマンを押しとどめるように指示を出す。
「白子ではなく、成人の者が人間化しているようですな」
「聞くところによると、死亡する者が大勢いるとか。全てを魔国のせいだとされかねませんね」
エリーシアの言うように、人間の姿に変わるのを推進しているのはこの魔国だけだ。魔国の陰謀だと言われかねない状況になっている。
「リビティナ様。これは未確認情報なのですが、ヘブンズ教国の南部地方でも人間化が起こったと報告を受けております」
首都に集まる情報の中には、教国での異変も含まれ全体的な状況も分かり始めた。
「伝染病のように、南から広がっているという事かな。これはまずいね」
人が死ぬ疫病となると、確実にパニックが起きる。一歩間違えれば国が滅ぶことにも成りかねない。
「ボクが直接調査に向かうよ」
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