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第2章
第48話 ライバル店1
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「よし、聞いていた通りあいつらはいないな」
「ええ、前から店を休むって周りに話てましたからね」
俺は通称『ドラゴンの居る何でも屋』の扉に貼ってある、休業を知らせる張り紙を剥した。これで店を辞めたと思う奴もいるだろう。
今日から、この地区の何でも屋は俺達の『赤いエアウルフの居る何でも屋』だけになる。
さあ、帰って開店の準備をしよう。
王都に来て1ヵ月余り。やっと店を開く事ができる。俺は南の小さな町で何でも屋をやっていたが、あんなチンケな町じゃ全然稼げない。王都にでも来れば稼げると思って来たが、ここじゃ指定された範囲内に1軒しか何でも屋を開いちゃいけないと言う取り決めがある。
なら、一番小さな店に退場してもらえればいいだけの事だ。『ドラゴンの居る何でも屋』として名は通っているようだが若い娘が経営する、たった従業員4人の小さな店だ。最初さえうまくいけば俺達に対抗できんだろう。
最初が肝心だ。一応俺達もドラゴンに対抗して赤いエアウルフを店先に置いて宣伝をする。最初は料金も安くすりゃ、客は来るだろう。1週間休むという今の時期にその客を取り込めば、こちらが有利になる。
前々から準備して、役所にも魔獣を置く申請をした。今日から派手に開店セールをしよう。
「いらっしゃい、いらっしゃい。今日から開店した何でも屋だ。安い料金、親切な対応。さあ、みんな来てくれ」
「ほお~。この赤い狼は魔獣なのかい。えらく大人しいね」
「そりゃ、飼い馴らしているからな。今は寝ているから頭を撫でても噛んだりしないよ」
「魔法を使って攻撃してきたりしないのかい?」
「この檻は特殊な檻で、風魔法を無効にする。もし魔法を使っても人に危害を加えることはないさ」
そうだ、そのために高価な檻まで作ったんだ。まあ、赤い色は顔料を使って毛を赤く塗ってるんだが、そんなの分かる奴はいねえよ。向こうもドラゴンが居ると言ってるが、いつ行ってもドラゴンの姿を見たこともねえ。本当にいるのかも怪しいもんだ。
赤いエアウルフの宣伝も効いたのか、客が集まって来てくれた。幸先いいじゃねえか。どんどん仕事を回していけ。俺達は従業員も多い、この調子で仕事をしろと社員達にはっぱをかける。
◇
◇
1週間休んで、今日からお仕事再開よ。溜まっていた依頼をこなしていかないとね。シンシアはあと1週間帰ってこない。その間お店にはミルチナに残っておいてもらいましょう。
ユイトには山に行って薬草を採取してもらい、セイランには水路の壁の補修、私は下水路内の掃除をする。
仕事を終えてお店に戻ると、何か様子が変だ。
「どうしたの、ミルチナ?」
「それがですね、今日お店を開けていても誰も依頼に来てくれなくて。ユイトさんに調べてもらったら、2筋向こうの道沿いに新しい何でも屋さんが開店してるんですよ」
様子を見に行ったユイトに聞くと、7日前に『赤いエアウルフの居る何でも屋』という看板を上げて新しいお店が開店したらしい。店先には檻に入れられた真っ赤な毛のエアウルフがいたと言う。
「そんなバカな。何でも屋は1地区に1店舗って決まっているのに」
何でも屋は、軍や役所で対応できない急な依頼や細かな依頼を受けて仕事をする。元来それほど多くの仕事がある訳じゃない。だから地区を決めて、その地区に1軒とすることで共倒れにならないようにしている。私の生まれた町でも何でも屋は1軒しかなかった。
「メアリィ殿、それは暗黙の了解だけでのこと。国として決めている訳ではないのであろう」
「確かにそうだけど……」
ミルチナも、新しいお店はそれが分かった上で、開店しているんじゃないかと言っている。
「こっちがドラゴンの居るお店だから、それに対抗してエアウルフを店先に置いているんだと思います」
「確かにそうね。最初からこちらを意識してお店を開いているわね」
王都では一番小さな私達のお店。そして休んでいる期間に開店したことを考えると場所も含めて計画的にしているわね。そうすると、完全にライバル店と言う事になるわ。
「ボク達もキイエを呼んで、お店の前に居てもらおうよ」
いやいや、あんな大きなキイエ様を店の前に立たせたら、誰も入ってこれなくなるわよ。それよりも。
「まずは相手のお店がどんなお店か調べましょう。それにしても赤いエアウルフってなんなのよ」
「ボク見てきたけど、確かに真っ赤なエアウルフが檻の中で寝てたよ」
エアウルフは黒かこげ茶色の毛で覆われている。それほど強い魔獣じゃないけど風魔法を操って群れだと厄介な魔獣だ。森には沢山いるけど赤い毛のエアウルフなんて見たことない。
「拙者も赤い狼の魔獣など見た事はないな。物珍しさ故、客があちらに流れるであろうな」
宣伝のためにしてるんだろうけど、王都に魔獣を連れ込むなんて簡単な事じゃ無いはずなんだけど……。
「そのエアウルフについては、私が調べてみるわ。何人ぐらいの従業員がいて、どれぐらいの料金かユイトが調べてくれるかしら」
今日はもう遅いわ。明日もみんな依頼の仕事があるけど、午後に時間のある私とユイトで調べてみましょう。
翌日。ミルチナをお店に残して仕事に出る。午前の仕事帰りに役所に寄って、ライバル店に居ると言うエアウルフの事を聞いてみた。
「その事については、何件も問い合わせがあったんですけど、その魔獣は使役魔獣の試験前で、一時的に檻に入れて飼う許可を出しているんですよ」
人に危害を与えない特殊な檻である事を役所は確認して、許可を出しているそうだ。
「ペットとかじゃないのね」
「魔獣をペットとして登録できるのは貴族だけです。人に危害を加えず、従順な魔獣のみ使役魔獣として登録して労働に使うことができます」
その試験が2日後にあって、それまでは厳重に管理し檻に入れて王都内で飼うことができるそうだ。
ユイトもキイエ様は使役魔獣として登録されていると言っていたわね。その試験に合格すると、あの赤いエアウルフも同じ立場になるのね。
でもエアウルフがキイエ様みたいに賢いとは思えないけど。
そんな事を思いながらお店に戻ると、お客さんがミルチナと話をしていた。
「良かった。メアリィさんが帰って来てくれて」
「どうしたの?」
「すまない、この生ハーブが至急いるんだ。今日中に200枚欲しいんだが」
お客さんは虎獣人の男の人で、急に入った明日の料理の仕込みに今日中に生ハーブがいるという。
「もう一軒の何でも屋に行ったんだが、忙しいからと断られて困ってたんだ」
そんなバカな。何でも屋がこの依頼を断るなんて。
「ミルチナはこのハーブの自生している所は知ってるわね」
「はい、分かります。でもあたし一人でじゃ行けなくて」
そうよね。山の中、魔獣は少ないけど危険が無い訳じゃない。
「じゃあ、私と一緒に行きましょう。夕暮れまでには戻ってこれるわ」
ユイトが帰ってきたら店番をしてもらいましょう。伝言のデンデン貝を置いてミルチナと店を出る。
こんな時、エアバイクは役に立つわね。急いで山まで行ってハーブを集める。
日暮れ前には王都に戻ってこれて、依頼してきた料理人の所にハーブを届けることができた。
「ありがとう、助かったよ。君の店は最近まで閉まっていたから、てっきり辞めてしまったのかと思っていたよ。今後ともよろしく頼むな」
そう言ってもらえるとこちらも嬉しいわ。お店に戻るとユイト達も帰っていた。
さあ、ライバル店の対策会議をしましょうか。
「ええ、前から店を休むって周りに話てましたからね」
俺は通称『ドラゴンの居る何でも屋』の扉に貼ってある、休業を知らせる張り紙を剥した。これで店を辞めたと思う奴もいるだろう。
今日から、この地区の何でも屋は俺達の『赤いエアウルフの居る何でも屋』だけになる。
さあ、帰って開店の準備をしよう。
王都に来て1ヵ月余り。やっと店を開く事ができる。俺は南の小さな町で何でも屋をやっていたが、あんなチンケな町じゃ全然稼げない。王都にでも来れば稼げると思って来たが、ここじゃ指定された範囲内に1軒しか何でも屋を開いちゃいけないと言う取り決めがある。
なら、一番小さな店に退場してもらえればいいだけの事だ。『ドラゴンの居る何でも屋』として名は通っているようだが若い娘が経営する、たった従業員4人の小さな店だ。最初さえうまくいけば俺達に対抗できんだろう。
最初が肝心だ。一応俺達もドラゴンに対抗して赤いエアウルフを店先に置いて宣伝をする。最初は料金も安くすりゃ、客は来るだろう。1週間休むという今の時期にその客を取り込めば、こちらが有利になる。
前々から準備して、役所にも魔獣を置く申請をした。今日から派手に開店セールをしよう。
「いらっしゃい、いらっしゃい。今日から開店した何でも屋だ。安い料金、親切な対応。さあ、みんな来てくれ」
「ほお~。この赤い狼は魔獣なのかい。えらく大人しいね」
「そりゃ、飼い馴らしているからな。今は寝ているから頭を撫でても噛んだりしないよ」
「魔法を使って攻撃してきたりしないのかい?」
「この檻は特殊な檻で、風魔法を無効にする。もし魔法を使っても人に危害を加えることはないさ」
そうだ、そのために高価な檻まで作ったんだ。まあ、赤い色は顔料を使って毛を赤く塗ってるんだが、そんなの分かる奴はいねえよ。向こうもドラゴンが居ると言ってるが、いつ行ってもドラゴンの姿を見たこともねえ。本当にいるのかも怪しいもんだ。
赤いエアウルフの宣伝も効いたのか、客が集まって来てくれた。幸先いいじゃねえか。どんどん仕事を回していけ。俺達は従業員も多い、この調子で仕事をしろと社員達にはっぱをかける。
◇
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1週間休んで、今日からお仕事再開よ。溜まっていた依頼をこなしていかないとね。シンシアはあと1週間帰ってこない。その間お店にはミルチナに残っておいてもらいましょう。
ユイトには山に行って薬草を採取してもらい、セイランには水路の壁の補修、私は下水路内の掃除をする。
仕事を終えてお店に戻ると、何か様子が変だ。
「どうしたの、ミルチナ?」
「それがですね、今日お店を開けていても誰も依頼に来てくれなくて。ユイトさんに調べてもらったら、2筋向こうの道沿いに新しい何でも屋さんが開店してるんですよ」
様子を見に行ったユイトに聞くと、7日前に『赤いエアウルフの居る何でも屋』という看板を上げて新しいお店が開店したらしい。店先には檻に入れられた真っ赤な毛のエアウルフがいたと言う。
「そんなバカな。何でも屋は1地区に1店舗って決まっているのに」
何でも屋は、軍や役所で対応できない急な依頼や細かな依頼を受けて仕事をする。元来それほど多くの仕事がある訳じゃない。だから地区を決めて、その地区に1軒とすることで共倒れにならないようにしている。私の生まれた町でも何でも屋は1軒しかなかった。
「メアリィ殿、それは暗黙の了解だけでのこと。国として決めている訳ではないのであろう」
「確かにそうだけど……」
ミルチナも、新しいお店はそれが分かった上で、開店しているんじゃないかと言っている。
「こっちがドラゴンの居るお店だから、それに対抗してエアウルフを店先に置いているんだと思います」
「確かにそうね。最初からこちらを意識してお店を開いているわね」
王都では一番小さな私達のお店。そして休んでいる期間に開店したことを考えると場所も含めて計画的にしているわね。そうすると、完全にライバル店と言う事になるわ。
「ボク達もキイエを呼んで、お店の前に居てもらおうよ」
いやいや、あんな大きなキイエ様を店の前に立たせたら、誰も入ってこれなくなるわよ。それよりも。
「まずは相手のお店がどんなお店か調べましょう。それにしても赤いエアウルフってなんなのよ」
「ボク見てきたけど、確かに真っ赤なエアウルフが檻の中で寝てたよ」
エアウルフは黒かこげ茶色の毛で覆われている。それほど強い魔獣じゃないけど風魔法を操って群れだと厄介な魔獣だ。森には沢山いるけど赤い毛のエアウルフなんて見たことない。
「拙者も赤い狼の魔獣など見た事はないな。物珍しさ故、客があちらに流れるであろうな」
宣伝のためにしてるんだろうけど、王都に魔獣を連れ込むなんて簡単な事じゃ無いはずなんだけど……。
「そのエアウルフについては、私が調べてみるわ。何人ぐらいの従業員がいて、どれぐらいの料金かユイトが調べてくれるかしら」
今日はもう遅いわ。明日もみんな依頼の仕事があるけど、午後に時間のある私とユイトで調べてみましょう。
翌日。ミルチナをお店に残して仕事に出る。午前の仕事帰りに役所に寄って、ライバル店に居ると言うエアウルフの事を聞いてみた。
「その事については、何件も問い合わせがあったんですけど、その魔獣は使役魔獣の試験前で、一時的に檻に入れて飼う許可を出しているんですよ」
人に危害を与えない特殊な檻である事を役所は確認して、許可を出しているそうだ。
「ペットとかじゃないのね」
「魔獣をペットとして登録できるのは貴族だけです。人に危害を加えず、従順な魔獣のみ使役魔獣として登録して労働に使うことができます」
その試験が2日後にあって、それまでは厳重に管理し檻に入れて王都内で飼うことができるそうだ。
ユイトもキイエ様は使役魔獣として登録されていると言っていたわね。その試験に合格すると、あの赤いエアウルフも同じ立場になるのね。
でもエアウルフがキイエ様みたいに賢いとは思えないけど。
そんな事を思いながらお店に戻ると、お客さんがミルチナと話をしていた。
「良かった。メアリィさんが帰って来てくれて」
「どうしたの?」
「すまない、この生ハーブが至急いるんだ。今日中に200枚欲しいんだが」
お客さんは虎獣人の男の人で、急に入った明日の料理の仕込みに今日中に生ハーブがいるという。
「もう一軒の何でも屋に行ったんだが、忙しいからと断られて困ってたんだ」
そんなバカな。何でも屋がこの依頼を断るなんて。
「ミルチナはこのハーブの自生している所は知ってるわね」
「はい、分かります。でもあたし一人でじゃ行けなくて」
そうよね。山の中、魔獣は少ないけど危険が無い訳じゃない。
「じゃあ、私と一緒に行きましょう。夕暮れまでには戻ってこれるわ」
ユイトが帰ってきたら店番をしてもらいましょう。伝言のデンデン貝を置いてミルチナと店を出る。
こんな時、エアバイクは役に立つわね。急いで山まで行ってハーブを集める。
日暮れ前には王都に戻ってこれて、依頼してきた料理人の所にハーブを届けることができた。
「ありがとう、助かったよ。君の店は最近まで閉まっていたから、てっきり辞めてしまったのかと思っていたよ。今後ともよろしく頼むな」
そう言ってもらえるとこちらも嬉しいわ。お店に戻るとユイト達も帰っていた。
さあ、ライバル店の対策会議をしましょうか。
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