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第5章

第96話 料理コンテスト5

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「さあ、いよいよやってきました、料理コンテスト本選。王国全土から予選を勝ち抜いた料理人達が、ここ王都アルファルドに集結し我が料理こそ王国一と自慢の料理を披露します。解説は料理研究家のモランジさん。実況は私、ビュワトルでお送りします」

「楽しみですな。今年はどんな料理に出会えるのか」

 王都の中央広場を貸し切りにして開かれる、料理コンテスト。3人1組のチームが王都から4チーム、他の町から12チームの計16チームで争われている。

 広場に用意されたテントの中のかまどで午前中に料理を作り、午後から審査となる。その出来上がっていく料理の様子などは観客席から見ることができると同時に、広場に集まる人々に声での中継が行われている。

「今年の料理コンテスト本選のお題は、『パーティーに出す究極の品々』となっています。解説のモランジさん。どのような物を期待されますか」

「パーティーと言っても、色々あります。友人を呼んでの家族パーティー、結婚披露宴のパーティー、そして王宮での社交パーティー。大勢で食べられるビュッフェ形式のものとなりますな。彩りや飾りつけなども重要。華やかな料理を作ってもらいたいですな」

 各チームは創意工夫を凝らして、美味しくて見栄えのする料理を作っていく。

「各チームの前には大きなテーブルが用意されており、とりわけ用の小皿とナイフやフォークなどが既に置かれています。ここに料理を並べ各審査員が各々のテーブルを回り料理の点数を付けていきます。モランジさん、どのような点を重点的に見ていくのでしょうか」

「ビュッフェの場合、前菜、メイン、デザートがひとつのテーブルに乗り、冷めたい料理から温かな料理まで一度に調理される。スープなどは鍋に入れて置かれるが、他のはある程度冷めても美味しいものが要求される。これが難しいところですな」

「作られた料理は審査員が審査した後は、抽選で選ばれた一般の方々が食べてどれが美味しかったか投票できます。これも審査対象に入れられることになります」

「美味しい料理は一部の貴族だけの物ではなく、多くの人に食してもらう事が大事ですからな。ここで優勝したものが今後の食のトレンドとなります」

「さあ、そろそろ各チームのテーブルに料理が並び出しました。8番のテーブルには色とりどりのお菓子が並べられていきます。1番テーブルは段々に積み上げられた皿にオードブルが並んでいます」

「金属板を組み合わせた飾り台に、小皿のオードブルが綺麗に並べられ目を引きますな。王都で一番人気のレストランに勤めている優秀な料理人が来ており、毎回優秀な成績を残しております。今年も期待できますな」

 他のテーブルも次々に料理が並べられていき、人々の期待も高まっていく。そして調理時間も終盤となってきた。

「おっと、15番のテーブルには今だスープの鍋しか乗っていません。これで間に合うのか」

「ここは料理人が2人しかいないようですな。この大舞台でちゃんとした料理が作れているのか不安です」

「そろそろ、調理終了の鐘4つになろうとしています。15番テーブルで何か問題があったか、コンテスト主催の職員達が集まっています」

 5、6人の人が集まり、料理人とその関係者がかまどの周りで職員と何か話し合いをしている。
料理人の小さな羊族の女性と人族の男性が心配そうに周りをウロウロしながら、男8人で持ち上げられた皿がテーブルに運ばれる。

「何だこれは!! 大皿に乗ったドラゴン! ドラゴンが形作られた料理が運ばれてきました」

 解説者が思わず立ち上がり、会場からもどよめきが沸き起こる。

「あのドラゴンの鱗1枚1枚がスライスした肉料理のようですな。その足元には草原を思わせるオードブルと花のようなフルーツが敷き詰められておりますぞ。あの大きな皿に全ての料理が乗っておるではないか」

 人の背丈ほどもあるドラゴンの眼光は鋭く、手や足には鋭い爪があり背中には翼を持つドラゴン。
本物そっくりのドラゴンはナッツや果物で作られていて、体の鱗には2種類の肉料理が張り付いている。土台の骨格となる物以外は全て食べることができるものだった。

 昼の鐘4つになり、調理終了のドラの音が鳴り響く。会場中の注目を集めて審査員も興味津々に15番のテーブルに集まる。

「今、審査員の一人から話を聞くことができました。あのドラゴンの鱗は牛と大イノシシのローストで柔らかく、かけられたソースとともに非常に美味しいものだったとの事です」

「ワシも今すぐ降りて行き、食してみたいものですな」

「この料理人は予選から特等の評価がついた料理をいくつか作っているそうです」

「特等をですか、すごいですな。それだけ際立った特徴のある料理を作っているのでしょうな。それにあの大皿。この王国では作ることができない物ですぞ」

「と言いますと、どこか外国からの輸入品ですか」

「そうかもしれません。あれほどの皿が作れる大きな窯と職人をワシは知らない。料理を乗せる食器も重要なアイテム。ワシは王国中の有名な窯元を見ていますが、あのような物は初めて見ます」

「これはすごい新人の料理人が現れました。さあ、審査の方はどうなっているでしょうか。審査員が次々とテーブルを回って点数を付けていきます」

 審査員の審査が終わり、一般の人達による投票が行われる。やはり15番のドラゴンの料理に人が集まり、口々に美味しいと言っている。素朴な野菜とお肉のスープ、冷めても美味しいローストのお肉、プリンという名の柔らかい菓子。

 そのどれもが人の心に残る物だった。

 ◇

 ◇

「ミルチナ。コンテスト惜しかったわね」

「なに言ってるんですか、メアリィさん。準優勝ですよ! 準優勝。すごかったわね、ミルチナちゃん」

「うん、ありがとう。テニーニャちゃん」

 お店のみんなと一緒にシンシアの家で料理コンテストの打ち上げをしている。

「しかし、あの皿。重かったよな」

「グランも無理して腰を痛めたんじゃない。シンシアも心配してたわよ」

「いやいや、あれぐらい大丈夫さ。軍隊で鍛えていたからな。ヨハノスもティノスも頑張ったな」

「ユイトさんやミルチナさんには世話になってますからね。こういう事で恩返しでもしないと」

「キイエもあのお皿とドラゴンの骨組みは重かったって言ってたよ。シャウラ村からここまで休憩しながら運んだからね」

「ユイトさん。シャウラ村の人にはお世話になりました。牛乳とかの食材も運んでもらって」

「別に大した事ないよ。それであんなに美味しい料理ができたんだから」

「ほんとに美味しかったわね。家の子供にも食べさせたけど、美味しい美味しいって言って食べてたわよ」

「ムルームさんの子供って、今何歳ですか」

「もう5歳になるの。いつも美味しいお肉をもらってるから、普通の食事だと食べないんじゃないかって心配になるわ」

 お店のみんなにも協力してもらったかいはあったわね。これでミルチナも念願の立派な料理人になれたわね。
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