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学園編

21サポートキャラクターにょ

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 そこは始祖と呼ばれる種族が眠る遺跡。
 前置きとするならば、拠点としていた近くの村で一人の少女が夢で始祖に呼ばれるという不思議な出来事から始まり、その少女が始祖に仕えた古代の民の子孫であることが判明する。夢見で遺跡の最下層に眠る少女とよく似た始祖を助けに行って欲しいというものだった。
 森の奥深くに位置するその遺跡にはレベル600超えの魔物が跋扈し、遺跡の適応レベルも800という普通の天啓人でさえ手が出せないという場所。
 それに挑むのはカンストプレイヤーという天啓人の中でもレベルが上限まで達した者だけで構成された『好敵手の溜まり場ライバル・ハウント』というギルドだ。

「エテルネルのサポキャラのお陰で楽できるぅ。大助かり!」

 そう言って遺跡の入り口でエテルネル達に魔物が近づかないようレイピアを構えているのは、ギルドマスターである獣人。名を亜紀沙という。

「遺跡の入場条件が【古語】とは難儀なことだ。そんな特殊な技能はエテルネルのサポキャラくらいしか取ってないんじゃなかろうか」

 手前にくる魔物を罠に嵌めて楽しんでいるのは、全身黒ずくめの魔族だ。人を小馬鹿にしたような口調であるが、運営からも恐れられて『深淵の悪魔』と呼ばれる天啓人。スラッガードという名前を聞いただけでも大抵の天啓人が道を開けると言われるほどで、同じ種族であるにも関わらず魔族からも恐れられている。

「スラッガード。人の好みはそれぞれ。それにサポキャラにしては普通の天啓人より強すぎるから」
「まあ、レベル900のサポキャラもそうそういないだろうしのぉ」

 好き勝手言っているが、この二人が今回エテルネル達とパーティを組んでいるギルドのメンバーであった。エテルネルの弟も含めた他の天啓人は、用事があってこられないとのメールを貰っている。

「二人共、うるさいよ」

 くるりと振り返ったエテルネルは、深い溜息を吐いた。

「因みにだけど、彼が習得してるのは【古語】だけじゃなくて各種族の言語、【神語】、【竜語】まで各種取り揃えております」
「やりすぎぃ!!」

 共通語以外の言語を習得しようとすると、言語を習得するための条件をクリアしなければならない。現在使用している種族の言語は分かるようになっているが、技能として習得していなければ転生しても分からなくなってしまう。
 現在の種族言語であれば比較的習得しやすいので、その種族でいるうちに技能として習得することが一番の近道であるが、エテルネルは多大な手間暇を費やして彼に一般的に流用されている種族言語だけではなく、ありとあらゆる言語も習得させていた。

「完了しましたよ、エテ」
「ん、ありがと」

 にっこりと笑う彼に、エテルネルは礼を言いながら、二人に解読が終了したことを教える。
 重厚な音を出しながら開く遺跡の入り口で、エテルネルは彼に手を差し出した。

「ナハト、行くよ」

 それは遠い昔。まだエオニオティタ・スリロスと世界が呼ばれていた頃。
 カンストプレイヤーとして名を馳せていたエテルネルとともにいた当時のことは、彼の記憶に今でも鮮明に刻まれている。

*****

 案内された個室に入り、お冷を出された後に注文するとあとは料理を待つだけとなった。
 ダークブラウンの床にはふわふわの絨毯が敷かれており、壁には植物プランターが掛けられている。テーブルや椅子も高価なものだろう。装飾も細やかで、カロスがびくびくとしながら座っていることからも一般と高級の違いがわかってくるというものだ。また、光源である天井の明かりは青っぽく、部屋全体に癒やしの空間を演出していた。
 スーツケースを壁際において椅子に座ると、そこで初めてウルドはフードを脱ぐ。

「おい、ウルド……」
「大丈夫ですよ。この御方は知り合いですから」

 咎めるような呼びかけに彼女は微笑みを浮かべた。 
 銀髪がぱさりと肩に雪崩れ込み、色素の薄い水色の瞳がエテルネルを見る。まるで雪のような肌に唇と頬がほんのりと色付いて、何も知らなければ彼女がレイピアを駆使して敵を淘汰する剣士だとはわからないだろう。それだけならこの世界にとってありふれた色合いだったのかもしれないが、髪の合間から見える耳は人とは違って長く尖っていた。
 彼女がエルフである何よりもの証拠であるその耳。現在いる場所がオフェロスであるということが問題だった。
 たとえ学園が作られようとも、100年前まで頻繁に戦争をしていた各国の交流がそこまで盛んになったとはとてもではないが思えない。ましてや閉鎖的な種族がここにいること自体珍しいことに違いなかった。だからこそ、彼女は今までフードで種族的な特徴である耳を隠していたのかもしれない。

「へ?」
「お久しぶりです。エテルネル様──いいえ、それとも『殲滅の弓姫』とお呼びすればよろしいでしょうか」

 目が点になったカロスとは対照的に友好的な笑みを浮かべるウルドに、エテルネルは頬を膨らませた。エテルネルが天啓人とバラされることよりも『殲滅の弓姫』と呼ばれたことが不服だった。

「エテ、でいいにょ。私もウルドのことは覚えてる。エールのサポートキャラクターって言っても分かるかにょ。確か嫁、だったよにぇ」
「はい。サポートキャラクターでも分かります。天啓人の方々のお傍にいた特に親しい者の呼ばれ方ですね。サポキャラ、と略している方も大勢いらっしゃいましたし」

 サポートキャラクター。
 それは、エスにおいて天啓人のサポートをするために実装された高性能人工知能のことだ。昔、テレビやインターネットから情報を取得し、接客をするようなロボットが世界的に広まった。その特性を活かしてエスの中でのみ情報収集をし、天啓人の言動によって成長し、自分で考える人工知能を搭載したキャラクターが一人につき一体のみ課金で購入することができた。

 まずはサポートキャラクターと天啓人の関係を設定するところから始まる。兄弟、親、恋人、夫婦、親友など自分の好きなように設定することが可能。
 またサポート内容は戦闘だけではなく、アイテムボックスや生産、技能、ステータスに至るまでほぼ天啓人と変わらない謂わば2体目のキャラクターを作ったかのような充実ぶりだった。加えて聞けばいつでも公開されている次回のイベント情報を教えてくれていた。
 但し経験値が天啓人よりも入りづらく、そして自分で考えるために天啓人の思うように動かない場合も存在する。指示をすれば指示どおりに動くが、そこから先はただ突っ立ている、というわけではないということだ。勝手に回復をしたり、攻撃に参加したりと天啓人を思っての行動が逆に邪魔になるということも多かった。
 自分自身のレベルも上げられないのに経験値が入りづらいサポートキャラクターのレベルまで上げることは出来ないと投げ出してしまう。または倉庫代わりにしたり、趣味で購入した家にハウスキーパーとして置いているという天啓人が殆どだった。

「エテ様、改めて紹介します。こちら王都騎士団3番隊のカロス。私の部下になります。カロス、こちらは私の主人のお姉様であるエテルネル様です」
「は、へ、えぇえええ!?」

 うまく飲み込めない、というよりかは突っ込みどころが多すぎてどれに突っ込もうか迷っているという奇声を上げていた。それに思わずエテルネルが笑ってしまうのは許して欲しい。

「副隊長のご主人って、天啓人で、最後の良心とか『溜まり場の常識人』とか言われていた人で、そのおねえさんってそもそも『殲滅の弓姫』って1人で500人の天啓人を倒せるくらい化物じみた天啓人って噂じゃないですかそもそも天啓人!?」
「息継ぎなしの感想をありがとうにょ……ぷくく」

 どこぞの漫画のような説明口調に思わず笑いが止まらない。エテルネルを笑いで殺しにかかってきているのではないだろうかと思うほどだ。

「ん、でも」

 ひとしきり笑った後、すっとエテルネルの装備は神桜の巫女服に変わり、神桜シリーズの弓矢を手に持って刃先をカロスに向ける。

「その『殲滅の弓姫』って呼ばれるの嫌いだから呼ぶな。いいにぇ?」
「は、はひ」

 にっこりと【威圧】も込めた脅しに、カロスは椅子からずり落ちそうになるほど動揺する。
 高速で首を上下に振る様は見ていて愉快なものだったが、弱い者いじめは程々にしようと、装備を元に戻した。

「まあ、流石に1人で500人を相手にするのは誇張しすぎだと思うけどにぇ」
「ですが、実際山一つ吹き飛ばしたこともあるのでしょう?」
「よくそんなの覚えてるにょ。あれはスラッガードに嵌められただけで、あの後すぐに修正で技能を弱体化させられたにょ」
「神々もさぞ驚かれたことでしょう」

 技能の弱体化、と言っても通じるあたり、運営=神々という意識だ。そもそも技能は神々が与えた力とされているのだから、そのパワーバランスを後から調整されていても「天啓人だから」で済まされるということか。運営の手を離れた今、弱体化の心配はしなくてもいいという点ではやりたい放題できるのだが。
 それにウルドは間違いなくエテルネルの実弟であるエールのサポートキャラクターだ。誰かがなりすましているということでもないらしい。言葉を交わしたことは数えるほどだったが、サポートキャラクターの中では比較的連れ回されていた方だった。
 何よりウルドの容姿からエールの趣味がわかるというものだ。銀髪に薄い色の瞳。そして外套の上からは分からないが、エテルネルが奴の部屋を荒らした時に見つけた薄い本を見る限り、Eくらいはあるはずだ。けしからん。

「副隊長ってことは、ウルドは騎士団に所属しているにょか」
「はい。私はいつでもあの人が帰ってきても良いように、家を、国を守り続けてきました」

 エールが帰ってきた時、また乱世では2人でゆっくりすることも出来ないから。と頬を染めているウルドは人間であったエールが死んでいるとは露程にも思っていないようだ。
 確かにエールは常識人で、義理堅い。こちらの世界にきたら真っ先に自分の家を見に来ることだろう。そもそも100年前に購入した個人の家が残っているという状況が凄いと思うが。
 そこでタイミングよく前菜が運ばれ、カロスが異常に怯える様子を店員が不思議そうに首を傾げながらも、3人は料理に舌鼓を打った。

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