暁の騎士と夜の魔女(仮題)

暁月りあ

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「ところで、ドレスに関しては本当に好きにしてしまっていいの?」
「研究ばかりで最近の流行とかは知らない。姫様とお前に任せておけば万事問題ないだろう」

 そう答えればにまあっと、満面の笑みを浮かべる。
 本当に良いのか、という悪魔のような笑顔。けれど、述べた通り私は流行には疎い。

「……あまり派手すぎるのはやめてほしいのだがな」
「勿体無いわね」

 一房、彼はするりと私の髪を持ち上げた。
 漆黒の闇を連想させる髪。忌み嫌われる色であるそれに、彼は目を細める。
 彼はこの髪の色を嫌いだと口にしたことはない。むしろ好んでいる節があった。

「貴女の危惧は、誰もが理解しているわ」

 私の懸念に対して、彼は理解を示してみせる。

「帝国はこの国を常に狙っている。昔も、今も。だから、貴女は健在だと、この国の守護者なのだと帝国に示さなければならない。けれど、逆に危険すぎると帝国以外に悟られてはいけない」

 私を心配してくれているのだろう声音を、鼻で笑って一蹴してみせた。国内外問わずどこであろうとも、私が私であることを・・・・・・・・・知らしめることで、唯一の忠誠を誓うお方に絶対の守護を約束する。10年間変わらなかったこと。

「別に帝国だけではない。殿下をお守りするためならば、どんな死地へも向かうだろうよ。そして、生きて、あのお方の影となる。それだけが、私の全てだ」
「相変わらず、ねぇ」
「女としての生き方は元より望んでなどいない」

 言い切ってしまうと、彼は少しだけ、悲しそうな顔をした。

「ねぇ。私がなんで王女殿下の婚約者を辞退したか、本当に分からない?」

 弄っていた一房に、彼は口付ける。戯れの行為に、赤くなるほど初ではない。

「さあな。男好きでもないのに、勿体無いとは思う」
「……鈍感なふりもいつまで出来るかしらねぇ」
「何か言ったか?」

 耳元で囁かれた言葉を、聞かなかったことにする。彼も心得たように、ため息交じりで肩をすくめた。

「いーえ、なにも。それよりも黒を基調にしたドレスで手配は終わっているから安心すると良いわよ」
「おい。この服ならともかく、ドレスで黒なんて縁起でもない」
「そのくらいの常識はあったのね」
「……」

 いくら世間に疎い私であっても、夜会という場で黒が忌み色であることは理解している。だからこそドレスではなく職務服で出たいのだ。

「貴女も言ったでしょう。貴女が貴女たらしめることが必要だと。そういうドレスにしてあげるわ」
「とんでもないのが出てきそうだ」
「でも信頼してくれるでしょ」
「王女殿下に期待だな」
「ひどーい!」

 いつも通りの雰囲気で、夜は更けていく。結局、彼の話に付き合ってしまった私の帰宅時間は大幅に過ぎてしまったのだが、今回は許そうと思う。
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