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白い息
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寂しくないっていうのは嘘なのかもしれない。大学の廊下、賑やかな街中の商店街、そこら中人でいっぱいなのに私の気持ちにはいつも満たされない余白がある。
私には昔から声がない。失声症とか言う病気らしく物心ついた時には首から小さなホワイトボードをぶら下げて筆談で周りの人と会話していた。原因は精神的なショックから来るものだと医師は言っていたが、私には思い当たる節が全く無かった。そういえば私には父親もいなかったが、それと声が出ないことは何か関係があるのだろうか。母は何か知っているのだろか。しかし今更訊いて声が出る訳でもない。母にそのことを尋ねることもなく、時間はどんどん過ぎていった。
声が出ないことで辛いことはたくさんある。小学校の時は『声無し』というあだ名でよくいじめられた。先生は私の声が出ないことをもちろん知っていたけれど、声が出せないからいくら手を挙げても私を当てることはなかった。それでも一番辛いのは友達ができなかったことだ。話せないということは恐ろしく孤独なものだった。私もみんなと楽しく話がしたい、友達と一緒に休み時間に遊んで、くだらない話をしながら帰りたい。私の心はいつも叫んでいた。たちの悪いことに周りの話す声はしっかりと聞こえてしまう。私には不思議と聞こえてくる声が全て私の陰口に聞こえた。
完全にふさぎ込んでいた私は部活に入ることもなく小・中学校を卒業、高校になってやっとの思いで入れたのは文芸部だった。部員は全部で十一人の小さな部活だった。私が入部を決めたのはもちろん人と話すことがないからだ。活動も月に二、三回程度で部員と顔を合わせることもほとんどなく、メールのやりとりが主だった。会話のできない私にとっては過ごしやすい環境だったのかもしれないが、そこで何かの充実感を得たわけでもなく以前と変わらず周りの声を虚しく聞き流す日々が続いた。
高校を卒業して大学に入った私は今こうして親元を離れて都会のアパートの一室にいる。高校の時は成績も上位の方だったからいわゆる名門と呼ばれる大学に入学することはできた。しかし、問題はそこではない。たとえ学力があったとしても喜びや悲しみを共に分かち合う友達がいなければ、頭の良さなど何の意味も持たない。毎日大勢の人とすれ違いたくさんの人の中を歩いているのに、なんだか以前よりも強い孤独を感じている。大学のサークル勧誘のビラはたくさんもらったが、話せない私をどこのサークルが必要とするだろうか。今日も家のテレビが一人でしゃべっている。
寒空の下コートに手を突っ込んで大学への道をいそいそと歩いていると、通りの店や並木には色とりどりのライトが取り付けられ、イルミネーションの準備がされていた。思えば十一月の下旬、クリスマスに向けて街も着飾っているのだ。クリスマスなんて私は母と過ごした記憶しかないけど、街の綺麗な景色を眺めるのは嫌いではない。
大学の講義室はいつもより人が多かった。そろそろ試験を控えているということもあるのか、今更になって真面目に講義を受けに来ている連中が後ろの席を陣取っている。私は仕方なくいつもの席からは大分前の席に座った。講義事態はいつもの調子と特に変わったことはなかったが、後ろの席のひそひそとした声にはイライラした。
『話したくても話せないやつだっているんだよ!』
と講義室に響くぐらい思いっきり言ってやりたいけど、そんなのは無理だ。
九十分の講義を終え、荷物を鞄にしまおうとしていたら誤って講義資料を入れていたファイルの中身を床にぶちまけてしまった。講義室は階段教室のため何枚かの資料が下の方まで飛んで行ってしまった。
『普段たいして人もいないんだからもっと小さい教室で講義すればいいのに……。』
心の中でぶつぶつ言って下に落ちた資料を拾おうとすると、私の手よりも先に大きな手がその資料を拾い上げた。中腰の姿勢から上を見上げるとすらっと背の高い男の人が何枚かのプリントを持って私に差し出している。
「向こうにも何枚か飛んでいってましたよ。」
これと言いて特徴がある訳ではないけれど講義室を後にする学生の中で彼の姿はひと際輝いて見えた。私は急に我に返って冷静になろうとしながらも高鳴る鼓動をしっかり感じながら、一礼だけして急いで講義室の扉へと急いだ。廊下を歩きながら息を整え、学生ラウンジの椅子にとりあえず腰を下ろした。まだ鼓動は落ち着かない、短距離走した後みたいだ。さっきの人はこの大学で初めて見た人だった。というか私がいつもうつむいて歩いているからすれ違っても気がついていないだけかもしれないが、本当にドキッとした。
小さい頃から男子は特に話せない私をいじめてきた。中学でも高校でも男子と話した記憶なんてほとんどないし、まず話せない。そして男の人ってなんだか怖いと思っていた。父親がいない育ち方をしたせいか、男子からいじめをうけていたからか私は意図的に男子を避けるようになっていた。だからさっきの人は相当久しぶりに会った男子だった。『ありがとうございます』の一言も言えなかったことが今になって本当に悔やまれる。ラウンジは講義を終えた学生でかなり混雑してきたが、私はいつの間にかその人混みの中からさっきの人を探そうと目を右往左往させていた。しかし、彼は一向にラウンジには現れず、人気は少しずつなくなっていった。私は思った以上に気分が高揚していたのだろう、人気のない冷たい空気との温度差が一層の虚しさをかりたてた。今の自分の気持ちを上手く説明することはできない、しかし確実に
『また会えるかな?』
という心の声を私は聞いた。
夕刻の刺さるような寒さの中、少しだけ暖かくて恥ずかしくなるような思いをコートの下に抱きながら、いつもより軽い足取りで自宅まで帰った。
次の日から以前よりも大学に行くのが楽しみになってきていたのは無論彼の存在があったからに違いない。彼の名前は藤木(ふじき)晃(あきら)と言って、同じ学部だったということで私はどれだけ舞い上がったことだろうか。彼はいつも大講義室の講義の時は通路側の前から四番目の席に座って大抵は一人で講義を受けていた。もちろん講義室によって座る場所は違ったが、いつの間にか私は彼の見える席に座るようになっていた。この前は近くに座って何となく彼が後ろを向いた時に目が合った気がした。もちろん気がしただけだ。月は替わって十二月。私は彼への気持ちが自分の中でとてつもなく大きくなっていることに気がついた。もはや藤木君のことが好きであることは明白だった。しかし、私は気持ちを大きくするだけで、藤木君とは一度も話したことはない。毎日目にするが、それは大学の講義室だけの話で彼のプライベートに足を踏み入れたことはなかった。もしかしたら向こうには彼女がいるかもしれないし、好きな人がいるかもしれない。向こうは私のことなんか知らないだろうし、意識もしていないに決まっている。そう考えると今こうしてときめいて彼を見ている私は何なのだろうと自己嫌悪に陥りそうになる。それでもこの気持ちは冬の空気でも冷めることはなく、永久的に暖かいカイロのように熱を帯びている。
とある学科で課題が出された。この学科には試験が無く、レポートの提出と授業態度のみで単位の取得が決まる。今回の課題は量的にも内容的にも相当時間を割かれるものだった。私は四日の時間を費やし、ようやく完成させることができたが、今回ばかりは自分のレポート内容に自信がなかった。話せる相手がいない私は誰かに助けを求めることはできない。しかし、いやらしくも藤木君のことが頭に浮かんだ。彼も同じ学科を取っているので同じ課題が出されている。彼は一見とても秀才のような顔立ちだし、課題のことで質問しても何も違和感はないと思う。始めは微かに思っていたことが時間を追うごとに藤木君と関わりを持ちたいと強く思うようになった。思いというよりは欲求に近い物だったかもしれない。私は意を決して課題のことで彼に話かけてみることにした。
彼がいつも座っている席の近くに不自然のないように座り、彼の背中が視線のすぐ先にある。自分の心臓の鼓動が耳の奥で聞こえてくる。講義の内容など頭には入る訳がない、私のノートは彼へ話しかける文章でいっぱいになった。
『あの急にごめんなさい、この前出た吉沢教授の講義のレポート終わりましたか?私自信が無くて誰かに見て欲しくて、藤木君はどういう感じで書きましたか?』
いかにも事務的でこの文章からはこれといった感情は感じられない。とても普通な文章だ。これを書くのに講義時間の半分もかかってしまった。教授は前の方で聞き覚えの無い言葉の解説を淡々と続けている。学生の大半は机に突っ伏してスマホをいじっているのか、ただ寝ているだけなのか、とにかく講義は聴いていないだろう。そんな中でも前の席の藤木君は教授の話す解説をカリカリとノートにメモしている。他の学生にはない爽やかさのような清潔さのような空気が感じられる。
そうこうしているうちに講義終了の時間まで残り五分となっていた。教授が次回の講義の予定を話始めている。私の緊張はいよいよ増してきた。ペンを握っている手の汗が半端ではない。
「それでは今日はここまで。」
教授の一言で学生はドッと一息ついて講義室は一気に騒がしくなった。藤木君はまだノートをとっていたが、すぐに鞄に荷物を詰め始め今にも席を立ちそうな雰囲気だった。私は思い切って彼の肩を後ろから二度つついて、さっき書いた文章を彼に向って示した。彼は振り返るなりとても不思議そうな顔で私の書いた文を目で追っていた。
「実はまだ途中でできてないんだよね。えっと……たしかこの前プリント落とした……名前は……」
私はとっさに自分の名前をその文の下に書きなぐった。
『安村(やすむら)里美(さとみ)』
反射的に書いた文字が予想以上に汚くなって読んでくれるか不安と恥ずかしさが同時に私を襲った。
「安村さんっていうのか。面白いね、面と向かってるのに筆談って、普通に話してよ」
とっさのふりにどうしていいか分からなかったが書くことは一つしかなかった。
『私声が出せないんです。』
さっきの字よりも丁寧に書いたせいか、なんだかこの一言がとても重く感じられた。
「えっ? あ、ごめん、気がつかなくて、だよね普通だったら筆談なんてしないよね。この前の課題の話だったよね?安村さんは終わったの?」
謝られてしまった。こちらこそなんだか申し訳ない。彼への返事をノートの空いているところに書く。
『一応は終わりました、でも誰かに見て欲しくて……それで藤木君に見てもらおうかと思って……。』
「そっか、でも俺が見せて欲しいくらいだよ、もし良かったらその完成したレポート見せてくれない?」
以外な展開になってしまった。私のを藤木君に貸す……私のでいいのだろうか。
「私のでいいんですか?自信ないのに……。」
「自信ないのはお互いさまだよ、今日そのレポートある?俺も今日大学でやっていこうと思ってたから、これからラウンジ行って一緒にやらない?」
どうしよう、藤木君から誘われた。これから二人でレポート……どうしよう。
「これから予定でもあるの?あ、俺とはダメか。」
少しだけ苦笑いする藤木君は私にはとても新鮮な表情で、私は書くことなんて忘れて激しく首を横に振った。なんだかすごく大げさに反応してしまったかもしれない。
「じゃあ今から行こう。あそこ昼になるとすごい混むから。」
私はそのまま藤木君の後をついて行った。
その後は幸せ過ぎてよく覚えていない時間。彼は私のレポートを見るなり、その量に驚いたようでとにかく私のレポートを褒めてくれた。人に褒められたのはいつ以来だろうか、免疫がないから顔が火照るように熱くなっていたのを覚えている。ラウンジは確かに昼時で混んでいたが、私には彼しか見えていなかった。筆談でしか彼とコミュニケーションが取れなかったから普通に会話ができる人以上に一つの会話に時間がかかった。それでもこのやり取りが何だかドラマチックで私は満足だった。だから帰りはすごく突然であっという間に感じられた。
「話し込んでいたらもう三時だね。ありがとう参考になったよ、安村さんのレポートはすごいと思う。また大変な課題が出たら見せてもらってもいいかな?」
私は笑顔で頷く。これでまた会えるかもしれない、良かった。
「じゃあ俺はこれで、これからバイトなんだ。また明日ね!」
そう言って藤木君は青いマフラーを首に巻いて手を振りながらラウンジを後にした。残された私は寂しいような嬉しいような言葉では言い表せない感情でいっぱいだった。また明日……未来で会えることが保証されたように聞こえた。
帰ってからはいつも通り暗い部屋が私を待っていたが、私はいつも通りではなかった。普段なら簡単に済ます夕食を今日は少し頑張って作り、一人でも楽しい気分だった。明日からまた藤木君に会える、それだけで気持ちが暖かくなった。
私はふと見ていなかった携帯に目を落とした。しばらくの間見ていなかったから、珍しく母から着信があったことも気がついていなかったらしい。見ると着信が四件入っている。全て母の携帯からかかってきている。私は妙だと思い母の通話を押した。
私は今地元の親戚の家に来ている。かかっていた電話は不幸を伝えるものだった。私の母の兄つまり私の伯父の悠介さんが亡くなった。母は伯父の運ばれた病院でずっと伯父の横についていたらしいが、その日の夜に静かに息を引き取ったそうだ。死因は心臓麻痺で前からニトロ処方していたと聞いたことがある。伯父は美術家でその方面ではそれなりに名の知れた人だったらしい。小さい頃は家によく来てくれて、父親のいない私にとっては一番身近な男性だった。
私も連絡を受けた次の日の始発で地元に向かった。病院に着くと伯父の親戚と母の姿があった。母はかなり痩せたみたいで頬がこけて見えた。泣いた。周りの目線など気にせず泣いた。それでも声は出ないからただただ目から涙が溢れて、顔がぐちゃぐちゃになって荒い息が発作のように出た。父親はいないから父親を失う悲しみは分からないけど、私にとっては父も同然の人なのだ。白い布団をかぶった遺体の横でうずくまったまましばらく動けなかった。
一時間もいただろうか、同じ病室にいた親戚はもらい泣きをしないように席を外した者もいれば、私の周りでハンカチを片手に涙を流している者もいる。まだぐずつく鼻をティッシュで拭いながら私はとりあえず洗面所に向かった。病室の廊下は私たち家族に気を遣っているかのように静かだった。お手洗いの前まで来ると廊下の長椅子に母が腰かけていた。何やら一生懸命スケジュール帳に書き込んでいる。向こうもこちらの気配に気づいたようでふと顔を上げた。
「ひどい顔だね、顔洗ってきなさい。」
そう言って鞄の中からハンカチを差し出してくれた。私は言われるがまま、そのハンカチで目と鼻を拭いた。
「お葬式の日取りとかいろいろ決めないといけないことたくさんあるから忙しくなりそう。あんたは大学の方大丈夫なの?」
私は無言で頷く。すると母は何の前置きもなしに独り言のように語り始めた。
「里美、あんたがなんで声が出ないのかずっと不思議に思ってたでしょ?母さんそのことで里美には本当に謝らなきゃいけないっていつも思ってた。本当にごめんね。」
なぜ母が私の声が出せないことで謝るのか?やはり母は何かを知っているのだ。母はまた一定のトーンで話続ける。
「あんたを産んでから父親は仕事も忙しくなって、家に帰ってくることが少なくなってね。帰ってきても酒ばかり飲んで寝るだけ、家族のことなんてどうでもいい感じだったよ。そして仕事で何かミスをした日はとにかく荒れてよく蹴られたり、殴られたりしたね、いわゆるDVってやつ。」
母は表情何一つ変えずとうとうと話す姿が私には不気味に見えた。なおも母は話し続ける。
「あんただけは父親から守ろうと思ってなるべく父親が返ってくる前にあんたを寝かせるようにしたんだけど、ある日泣き止まない夜があって、父親がそれに腹を立ててあんたに手を挙げようとしたんだよ。私は必死であの人を抑えようとしたけど、馬乗りになって首を絞められてね……その時のあんたの顔、今でも忘れない……この世に絶望しきったような目だった。」
ずっと忘れていたのか、はたまた自分でその時の記憶を封印してしまっていたのか頭の中でバチッと思考回路がつながったような衝撃が走った。あの時の光景……映画のフィルムが巻き戻ってそのシーンだけが広がる。母親の喉元に両手をかける男の姿、苦し気にもがく母、今はっきりと思い出した。あの時からだ、私の声が無くなったのは。
「私はあの人と別れて実家のあるこの街に引っ越してあんたを育てた。今思えばなんであんな男と一緒になったのか……バカだよねぇ。」
母はそれ以上過去のことについて語ることはなかったが私には十分すぎる内容だった。私が男性に対して抱いていた恐怖は私の父にその姿を重ねてしまっていたからなのかもしれない。そして何より私の声が出なくなったのは首を絞められる母の姿を見て精神的なダメージを負ったためだったのだ。私はどうしようもなく脱力していた。母はそれから黙っていたが、深く溜息をついてまた病室の方へすたすた歩いて行ってしまった。残された私は廊下の一点をただ茫然と見つめたまま動けなかったが、頭の中はたった今の母の告白で電流が脳細胞を行ったり来たりしていた。しかし、私には衝撃があまりに大き過ぎて思考が追い付かない。
『私の声が出ないのは父親のせい?男の人が怖いのは父親のせい?父親って何なの?男の人って何なの?』
私の頭の中で疑問が溢れだしそれらがループする。最終的には酷い無力感でいっぱいになってしまった。病院の廊下はダンボーが入っていてもどこか冷めた雰囲気で満たされていた。
伯父の葬儀が一通り終わり、大学の講義に復帰できたのは五日後だった。講義の内容は思った以上に進んでいて、友達のいない私にとっては追いつくのはかなりきつかった。そういえば藤木君が心配してくれて講義のノートを貸してくれると言ってくれたが、私はそれを断っていた。少し前の私なら絶対に借りていたに違いない。しかし、この数日の出来事で私の中の人間はすっかり変わってしまったようだ。男の人に対する感情が今まで以上に冷めて近づきがたいものになっていた。声が出ない原因は分かったが、二十年近く発していないのだ、私の声帯は完全に退化してしまっていた。
講義もどこか身が入らず、訳もなく窓の外を眺めてしまう。窓の外は結露のせいでよく見えないが、灰色の曇天がこちらからも確認できる。残りの時間はほとんどこの灰色を眺めながら過ごした。そういえば藤木君は最近大学で見かけなくなったが、私には何の感情の変化も起こらなかった。噂で聞いた話だが、彼女ができて毎日講義をさぼって遊びに行っているらしい。私には何の関係もないがやはり少しだけ寂しい気持ちはあった。だが、予想以上にその寂しさは小さくてすぐに溶けてなくなってしまった。
大学の外の並木にはクリスマスを待ちきれないと言わんばかりのたくさんのイルミネーションが光っている。今の私にはこの光がうるさく感じられてしまう。周りには手をつなぎ楽しそうに話すカップルがたくさん歩いている。冷え切った空気の中でも色とりどりで温度非表示の暖かさが忌まわしい。私の大きなため息がカラフルな空気を白く濁した。
完
私には昔から声がない。失声症とか言う病気らしく物心ついた時には首から小さなホワイトボードをぶら下げて筆談で周りの人と会話していた。原因は精神的なショックから来るものだと医師は言っていたが、私には思い当たる節が全く無かった。そういえば私には父親もいなかったが、それと声が出ないことは何か関係があるのだろうか。母は何か知っているのだろか。しかし今更訊いて声が出る訳でもない。母にそのことを尋ねることもなく、時間はどんどん過ぎていった。
声が出ないことで辛いことはたくさんある。小学校の時は『声無し』というあだ名でよくいじめられた。先生は私の声が出ないことをもちろん知っていたけれど、声が出せないからいくら手を挙げても私を当てることはなかった。それでも一番辛いのは友達ができなかったことだ。話せないということは恐ろしく孤独なものだった。私もみんなと楽しく話がしたい、友達と一緒に休み時間に遊んで、くだらない話をしながら帰りたい。私の心はいつも叫んでいた。たちの悪いことに周りの話す声はしっかりと聞こえてしまう。私には不思議と聞こえてくる声が全て私の陰口に聞こえた。
完全にふさぎ込んでいた私は部活に入ることもなく小・中学校を卒業、高校になってやっとの思いで入れたのは文芸部だった。部員は全部で十一人の小さな部活だった。私が入部を決めたのはもちろん人と話すことがないからだ。活動も月に二、三回程度で部員と顔を合わせることもほとんどなく、メールのやりとりが主だった。会話のできない私にとっては過ごしやすい環境だったのかもしれないが、そこで何かの充実感を得たわけでもなく以前と変わらず周りの声を虚しく聞き流す日々が続いた。
高校を卒業して大学に入った私は今こうして親元を離れて都会のアパートの一室にいる。高校の時は成績も上位の方だったからいわゆる名門と呼ばれる大学に入学することはできた。しかし、問題はそこではない。たとえ学力があったとしても喜びや悲しみを共に分かち合う友達がいなければ、頭の良さなど何の意味も持たない。毎日大勢の人とすれ違いたくさんの人の中を歩いているのに、なんだか以前よりも強い孤独を感じている。大学のサークル勧誘のビラはたくさんもらったが、話せない私をどこのサークルが必要とするだろうか。今日も家のテレビが一人でしゃべっている。
寒空の下コートに手を突っ込んで大学への道をいそいそと歩いていると、通りの店や並木には色とりどりのライトが取り付けられ、イルミネーションの準備がされていた。思えば十一月の下旬、クリスマスに向けて街も着飾っているのだ。クリスマスなんて私は母と過ごした記憶しかないけど、街の綺麗な景色を眺めるのは嫌いではない。
大学の講義室はいつもより人が多かった。そろそろ試験を控えているということもあるのか、今更になって真面目に講義を受けに来ている連中が後ろの席を陣取っている。私は仕方なくいつもの席からは大分前の席に座った。講義事態はいつもの調子と特に変わったことはなかったが、後ろの席のひそひそとした声にはイライラした。
『話したくても話せないやつだっているんだよ!』
と講義室に響くぐらい思いっきり言ってやりたいけど、そんなのは無理だ。
九十分の講義を終え、荷物を鞄にしまおうとしていたら誤って講義資料を入れていたファイルの中身を床にぶちまけてしまった。講義室は階段教室のため何枚かの資料が下の方まで飛んで行ってしまった。
『普段たいして人もいないんだからもっと小さい教室で講義すればいいのに……。』
心の中でぶつぶつ言って下に落ちた資料を拾おうとすると、私の手よりも先に大きな手がその資料を拾い上げた。中腰の姿勢から上を見上げるとすらっと背の高い男の人が何枚かのプリントを持って私に差し出している。
「向こうにも何枚か飛んでいってましたよ。」
これと言いて特徴がある訳ではないけれど講義室を後にする学生の中で彼の姿はひと際輝いて見えた。私は急に我に返って冷静になろうとしながらも高鳴る鼓動をしっかり感じながら、一礼だけして急いで講義室の扉へと急いだ。廊下を歩きながら息を整え、学生ラウンジの椅子にとりあえず腰を下ろした。まだ鼓動は落ち着かない、短距離走した後みたいだ。さっきの人はこの大学で初めて見た人だった。というか私がいつもうつむいて歩いているからすれ違っても気がついていないだけかもしれないが、本当にドキッとした。
小さい頃から男子は特に話せない私をいじめてきた。中学でも高校でも男子と話した記憶なんてほとんどないし、まず話せない。そして男の人ってなんだか怖いと思っていた。父親がいない育ち方をしたせいか、男子からいじめをうけていたからか私は意図的に男子を避けるようになっていた。だからさっきの人は相当久しぶりに会った男子だった。『ありがとうございます』の一言も言えなかったことが今になって本当に悔やまれる。ラウンジは講義を終えた学生でかなり混雑してきたが、私はいつの間にかその人混みの中からさっきの人を探そうと目を右往左往させていた。しかし、彼は一向にラウンジには現れず、人気は少しずつなくなっていった。私は思った以上に気分が高揚していたのだろう、人気のない冷たい空気との温度差が一層の虚しさをかりたてた。今の自分の気持ちを上手く説明することはできない、しかし確実に
『また会えるかな?』
という心の声を私は聞いた。
夕刻の刺さるような寒さの中、少しだけ暖かくて恥ずかしくなるような思いをコートの下に抱きながら、いつもより軽い足取りで自宅まで帰った。
次の日から以前よりも大学に行くのが楽しみになってきていたのは無論彼の存在があったからに違いない。彼の名前は藤木(ふじき)晃(あきら)と言って、同じ学部だったということで私はどれだけ舞い上がったことだろうか。彼はいつも大講義室の講義の時は通路側の前から四番目の席に座って大抵は一人で講義を受けていた。もちろん講義室によって座る場所は違ったが、いつの間にか私は彼の見える席に座るようになっていた。この前は近くに座って何となく彼が後ろを向いた時に目が合った気がした。もちろん気がしただけだ。月は替わって十二月。私は彼への気持ちが自分の中でとてつもなく大きくなっていることに気がついた。もはや藤木君のことが好きであることは明白だった。しかし、私は気持ちを大きくするだけで、藤木君とは一度も話したことはない。毎日目にするが、それは大学の講義室だけの話で彼のプライベートに足を踏み入れたことはなかった。もしかしたら向こうには彼女がいるかもしれないし、好きな人がいるかもしれない。向こうは私のことなんか知らないだろうし、意識もしていないに決まっている。そう考えると今こうしてときめいて彼を見ている私は何なのだろうと自己嫌悪に陥りそうになる。それでもこの気持ちは冬の空気でも冷めることはなく、永久的に暖かいカイロのように熱を帯びている。
とある学科で課題が出された。この学科には試験が無く、レポートの提出と授業態度のみで単位の取得が決まる。今回の課題は量的にも内容的にも相当時間を割かれるものだった。私は四日の時間を費やし、ようやく完成させることができたが、今回ばかりは自分のレポート内容に自信がなかった。話せる相手がいない私は誰かに助けを求めることはできない。しかし、いやらしくも藤木君のことが頭に浮かんだ。彼も同じ学科を取っているので同じ課題が出されている。彼は一見とても秀才のような顔立ちだし、課題のことで質問しても何も違和感はないと思う。始めは微かに思っていたことが時間を追うごとに藤木君と関わりを持ちたいと強く思うようになった。思いというよりは欲求に近い物だったかもしれない。私は意を決して課題のことで彼に話かけてみることにした。
彼がいつも座っている席の近くに不自然のないように座り、彼の背中が視線のすぐ先にある。自分の心臓の鼓動が耳の奥で聞こえてくる。講義の内容など頭には入る訳がない、私のノートは彼へ話しかける文章でいっぱいになった。
『あの急にごめんなさい、この前出た吉沢教授の講義のレポート終わりましたか?私自信が無くて誰かに見て欲しくて、藤木君はどういう感じで書きましたか?』
いかにも事務的でこの文章からはこれといった感情は感じられない。とても普通な文章だ。これを書くのに講義時間の半分もかかってしまった。教授は前の方で聞き覚えの無い言葉の解説を淡々と続けている。学生の大半は机に突っ伏してスマホをいじっているのか、ただ寝ているだけなのか、とにかく講義は聴いていないだろう。そんな中でも前の席の藤木君は教授の話す解説をカリカリとノートにメモしている。他の学生にはない爽やかさのような清潔さのような空気が感じられる。
そうこうしているうちに講義終了の時間まで残り五分となっていた。教授が次回の講義の予定を話始めている。私の緊張はいよいよ増してきた。ペンを握っている手の汗が半端ではない。
「それでは今日はここまで。」
教授の一言で学生はドッと一息ついて講義室は一気に騒がしくなった。藤木君はまだノートをとっていたが、すぐに鞄に荷物を詰め始め今にも席を立ちそうな雰囲気だった。私は思い切って彼の肩を後ろから二度つついて、さっき書いた文章を彼に向って示した。彼は振り返るなりとても不思議そうな顔で私の書いた文を目で追っていた。
「実はまだ途中でできてないんだよね。えっと……たしかこの前プリント落とした……名前は……」
私はとっさに自分の名前をその文の下に書きなぐった。
『安村(やすむら)里美(さとみ)』
反射的に書いた文字が予想以上に汚くなって読んでくれるか不安と恥ずかしさが同時に私を襲った。
「安村さんっていうのか。面白いね、面と向かってるのに筆談って、普通に話してよ」
とっさのふりにどうしていいか分からなかったが書くことは一つしかなかった。
『私声が出せないんです。』
さっきの字よりも丁寧に書いたせいか、なんだかこの一言がとても重く感じられた。
「えっ? あ、ごめん、気がつかなくて、だよね普通だったら筆談なんてしないよね。この前の課題の話だったよね?安村さんは終わったの?」
謝られてしまった。こちらこそなんだか申し訳ない。彼への返事をノートの空いているところに書く。
『一応は終わりました、でも誰かに見て欲しくて……それで藤木君に見てもらおうかと思って……。』
「そっか、でも俺が見せて欲しいくらいだよ、もし良かったらその完成したレポート見せてくれない?」
以外な展開になってしまった。私のを藤木君に貸す……私のでいいのだろうか。
「私のでいいんですか?自信ないのに……。」
「自信ないのはお互いさまだよ、今日そのレポートある?俺も今日大学でやっていこうと思ってたから、これからラウンジ行って一緒にやらない?」
どうしよう、藤木君から誘われた。これから二人でレポート……どうしよう。
「これから予定でもあるの?あ、俺とはダメか。」
少しだけ苦笑いする藤木君は私にはとても新鮮な表情で、私は書くことなんて忘れて激しく首を横に振った。なんだかすごく大げさに反応してしまったかもしれない。
「じゃあ今から行こう。あそこ昼になるとすごい混むから。」
私はそのまま藤木君の後をついて行った。
その後は幸せ過ぎてよく覚えていない時間。彼は私のレポートを見るなり、その量に驚いたようでとにかく私のレポートを褒めてくれた。人に褒められたのはいつ以来だろうか、免疫がないから顔が火照るように熱くなっていたのを覚えている。ラウンジは確かに昼時で混んでいたが、私には彼しか見えていなかった。筆談でしか彼とコミュニケーションが取れなかったから普通に会話ができる人以上に一つの会話に時間がかかった。それでもこのやり取りが何だかドラマチックで私は満足だった。だから帰りはすごく突然であっという間に感じられた。
「話し込んでいたらもう三時だね。ありがとう参考になったよ、安村さんのレポートはすごいと思う。また大変な課題が出たら見せてもらってもいいかな?」
私は笑顔で頷く。これでまた会えるかもしれない、良かった。
「じゃあ俺はこれで、これからバイトなんだ。また明日ね!」
そう言って藤木君は青いマフラーを首に巻いて手を振りながらラウンジを後にした。残された私は寂しいような嬉しいような言葉では言い表せない感情でいっぱいだった。また明日……未来で会えることが保証されたように聞こえた。
帰ってからはいつも通り暗い部屋が私を待っていたが、私はいつも通りではなかった。普段なら簡単に済ます夕食を今日は少し頑張って作り、一人でも楽しい気分だった。明日からまた藤木君に会える、それだけで気持ちが暖かくなった。
私はふと見ていなかった携帯に目を落とした。しばらくの間見ていなかったから、珍しく母から着信があったことも気がついていなかったらしい。見ると着信が四件入っている。全て母の携帯からかかってきている。私は妙だと思い母の通話を押した。
私は今地元の親戚の家に来ている。かかっていた電話は不幸を伝えるものだった。私の母の兄つまり私の伯父の悠介さんが亡くなった。母は伯父の運ばれた病院でずっと伯父の横についていたらしいが、その日の夜に静かに息を引き取ったそうだ。死因は心臓麻痺で前からニトロ処方していたと聞いたことがある。伯父は美術家でその方面ではそれなりに名の知れた人だったらしい。小さい頃は家によく来てくれて、父親のいない私にとっては一番身近な男性だった。
私も連絡を受けた次の日の始発で地元に向かった。病院に着くと伯父の親戚と母の姿があった。母はかなり痩せたみたいで頬がこけて見えた。泣いた。周りの目線など気にせず泣いた。それでも声は出ないからただただ目から涙が溢れて、顔がぐちゃぐちゃになって荒い息が発作のように出た。父親はいないから父親を失う悲しみは分からないけど、私にとっては父も同然の人なのだ。白い布団をかぶった遺体の横でうずくまったまましばらく動けなかった。
一時間もいただろうか、同じ病室にいた親戚はもらい泣きをしないように席を外した者もいれば、私の周りでハンカチを片手に涙を流している者もいる。まだぐずつく鼻をティッシュで拭いながら私はとりあえず洗面所に向かった。病室の廊下は私たち家族に気を遣っているかのように静かだった。お手洗いの前まで来ると廊下の長椅子に母が腰かけていた。何やら一生懸命スケジュール帳に書き込んでいる。向こうもこちらの気配に気づいたようでふと顔を上げた。
「ひどい顔だね、顔洗ってきなさい。」
そう言って鞄の中からハンカチを差し出してくれた。私は言われるがまま、そのハンカチで目と鼻を拭いた。
「お葬式の日取りとかいろいろ決めないといけないことたくさんあるから忙しくなりそう。あんたは大学の方大丈夫なの?」
私は無言で頷く。すると母は何の前置きもなしに独り言のように語り始めた。
「里美、あんたがなんで声が出ないのかずっと不思議に思ってたでしょ?母さんそのことで里美には本当に謝らなきゃいけないっていつも思ってた。本当にごめんね。」
なぜ母が私の声が出せないことで謝るのか?やはり母は何かを知っているのだ。母はまた一定のトーンで話続ける。
「あんたを産んでから父親は仕事も忙しくなって、家に帰ってくることが少なくなってね。帰ってきても酒ばかり飲んで寝るだけ、家族のことなんてどうでもいい感じだったよ。そして仕事で何かミスをした日はとにかく荒れてよく蹴られたり、殴られたりしたね、いわゆるDVってやつ。」
母は表情何一つ変えずとうとうと話す姿が私には不気味に見えた。なおも母は話し続ける。
「あんただけは父親から守ろうと思ってなるべく父親が返ってくる前にあんたを寝かせるようにしたんだけど、ある日泣き止まない夜があって、父親がそれに腹を立ててあんたに手を挙げようとしたんだよ。私は必死であの人を抑えようとしたけど、馬乗りになって首を絞められてね……その時のあんたの顔、今でも忘れない……この世に絶望しきったような目だった。」
ずっと忘れていたのか、はたまた自分でその時の記憶を封印してしまっていたのか頭の中でバチッと思考回路がつながったような衝撃が走った。あの時の光景……映画のフィルムが巻き戻ってそのシーンだけが広がる。母親の喉元に両手をかける男の姿、苦し気にもがく母、今はっきりと思い出した。あの時からだ、私の声が無くなったのは。
「私はあの人と別れて実家のあるこの街に引っ越してあんたを育てた。今思えばなんであんな男と一緒になったのか……バカだよねぇ。」
母はそれ以上過去のことについて語ることはなかったが私には十分すぎる内容だった。私が男性に対して抱いていた恐怖は私の父にその姿を重ねてしまっていたからなのかもしれない。そして何より私の声が出なくなったのは首を絞められる母の姿を見て精神的なダメージを負ったためだったのだ。私はどうしようもなく脱力していた。母はそれから黙っていたが、深く溜息をついてまた病室の方へすたすた歩いて行ってしまった。残された私は廊下の一点をただ茫然と見つめたまま動けなかったが、頭の中はたった今の母の告白で電流が脳細胞を行ったり来たりしていた。しかし、私には衝撃があまりに大き過ぎて思考が追い付かない。
『私の声が出ないのは父親のせい?男の人が怖いのは父親のせい?父親って何なの?男の人って何なの?』
私の頭の中で疑問が溢れだしそれらがループする。最終的には酷い無力感でいっぱいになってしまった。病院の廊下はダンボーが入っていてもどこか冷めた雰囲気で満たされていた。
伯父の葬儀が一通り終わり、大学の講義に復帰できたのは五日後だった。講義の内容は思った以上に進んでいて、友達のいない私にとっては追いつくのはかなりきつかった。そういえば藤木君が心配してくれて講義のノートを貸してくれると言ってくれたが、私はそれを断っていた。少し前の私なら絶対に借りていたに違いない。しかし、この数日の出来事で私の中の人間はすっかり変わってしまったようだ。男の人に対する感情が今まで以上に冷めて近づきがたいものになっていた。声が出ない原因は分かったが、二十年近く発していないのだ、私の声帯は完全に退化してしまっていた。
講義もどこか身が入らず、訳もなく窓の外を眺めてしまう。窓の外は結露のせいでよく見えないが、灰色の曇天がこちらからも確認できる。残りの時間はほとんどこの灰色を眺めながら過ごした。そういえば藤木君は最近大学で見かけなくなったが、私には何の感情の変化も起こらなかった。噂で聞いた話だが、彼女ができて毎日講義をさぼって遊びに行っているらしい。私には何の関係もないがやはり少しだけ寂しい気持ちはあった。だが、予想以上にその寂しさは小さくてすぐに溶けてなくなってしまった。
大学の外の並木にはクリスマスを待ちきれないと言わんばかりのたくさんのイルミネーションが光っている。今の私にはこの光がうるさく感じられてしまう。周りには手をつなぎ楽しそうに話すカップルがたくさん歩いている。冷え切った空気の中でも色とりどりで温度非表示の暖かさが忌まわしい。私の大きなため息がカラフルな空気を白く濁した。
完
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