黒き鴉に銀貨を一つ

カイワレダイコン

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第9話

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ピト………ピト………と、洞窟の天井に溜まった水滴が自重に耐えきれなくなっては下へと落ちる音がする。その洞窟の中では、少しだけ入ってくる陽の光だけが光源であり、外から入ると何も見えないが、ずっと中にいる分には目が慣れてきて見えるようになるのだった。

「傷はどうだ?」

布を洞窟内を流れる川で濡らしてきたトーマが聞く。

「うーん…だいぶマシにはなりましたし、後は魔法でどうにかなりますかね」

そうか、それは良かったと普通に返しそうになって、トーマは自分に聞かされた言葉のおかしさに気がついた。後は魔法でどうにかなりますかね?魔法で?。
魔法とは、中世ヨーロッパで主に知られていた不可思議な力のことだったのだが、現代の世界においての立ち位置は童話とかホラ話の類いとして認識されているのが現状であるはずの、あの魔法か?

「ちょっと待ってくれ。魔法?」

そう聞くとリアは何を当たり前のことをきき返すのかとでも言うように顔を曇らせて「魔法ですが、何か有りました?」
と言ってくるのだ。

もう内心驚愕の嵐だったトーマだが、あくまで冷静に問いただしてみる事にする。

「魔法……とは?」

この質問が起爆材料だったのか、リアは数秒間動画の一時停止をしたかのように静止した後、この世の終わりみたいな声を出して驚いた。

「ええええぇぇぇぇぇぇえええっ!!」

先ほどまで座っていたというのに、特殊訓練を受けた兵士のように、すちゃっと華麗に立ち上がった後仰け反りながら、洞窟内に反響して響き渡った絶叫は、こだまして小さくなりながら数十秒間残り続けたのだった。



と、それが二、三分前の出来事だ。
現在どうなっているかというと。

「……であるように、良いですか魔法と言うものは人体から作り出されている魔力を使用するのと、妖精や自然の魔力を借りて行使する魔法の二択が存在しています。これを二つ掛け合わせて場に応じて使うのが最近の魔法使いの常識ですね……って、聞いてますか?」

「あ、あぁ。聞いてる」

マシンガントークを要約するとこうだ。

魔法使いとは魔力を使って現象を引き起こす者の総称で、魔力の使い方には二通りの方法があるというわけだ。すなわち、自前のを使うか人から借りるか。これをバランスよく使うのが最近の常識らしい。

「じゃあ、分かりましたね。今から実践するので、見ていて下さい」

そういうとリアは足を肩幅ほどに開き、仏教徒のように手を合わせながら動きを止めた。それからすぐ、地面から蛍のような光が溢れ出てきて、リアの傷口へ集まっていく。
そのまま10秒ほどの時間が過ぎると、光は急に四散し、どこふな行くとなく消えていったのだった。

そして、後に残されたのは痛々しい傷口が絹のような肌に変わったリアの自信ありげなドヤ顔だけであった。

「と、これが自然から魔力を借りる方式の魔法です」

「………凄いな」

「っでしょ!凄いでしょ!!」

「お、おう」

テンションが若干病気になっているリアの変貌っぷりにも驚きながら、トーマはこう考えていた。自分にも使えないか…と。

「なぁ、リア」

「はい?」

「魔法っていうのは呪文とかがいるのか?それとも、イメージすれば出来るのか?」

その質問に、リアは腕組みをしながらうーむと少しばかし頭をひねっていたが、結論が出たのか、すぐに答えは返ってきた。

「呪文というのは、イメージしづらい事柄を具体的に想像させるための設計図みたいなものなんです。だから、イメージがちゃんと出来ていれば別に呪文は必要ありませんよ」

「成る程、大工の仕事と同じような物なんだな」

「まぁ、そうですね」

イメージ…か。
私にも出来るかな。なんて考えて、トーマはすくっと立ち上がった。
そして軍刀を抜くと、その鈍い輝きを放つ刀身の端っこに掌を当て、ゆっくりと反対方向に向かって撫でる。

(イメージは……妖刀にしよう。なんでも切れて、しかし切りたくないものは切れず。刃こぼれのしない妖刀に……)


リアはその光景を見て、息を飲んだ。
先ほどまで魔法の存在すら知らなかった、腕は立つけど世間知らずの奥地から来た人間とばかり思っていた軍人が、急に立ち上がって刀を抜いて撫でたかと思うと、魔法を使えていたのだから。

(撫でた部分が…血を吸ったみたいに赤黒く変色していく……。これは付与魔法?エンチャント!?)

エンチャント。付与魔法は魔力を物や人に定着させる魔法なのだが、意外に難しい。魔力を止めさせるというのは霧をつかむように難しい。
そう、少量であれば誰にだってできるが、大量の魔力となると急に難しくなるのだ。

どうして……出来るんだろ。

と、驚愕しているリアをそっちのけでトーマの軍刀は赤黒く、赤黒くなっていく。まるで今までのカルマを反映させるように、血の色に染まる刀身は地獄で鍛えられたかのような鈍い輝きを放ち始めたのだった。
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