守護異能力者の日常新生活記

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第1章

第10話

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「……蒼芽、ちゃん……」

修也はスマホの画面を見ながら硬直していた。
先程『力』を使ったのをバッチリ見られてるのでどんな反応をされるのか分からない。
もし蒼芽が今までの人達みたいに怖がって距離を置いてきたりしたら……想像したくない。
しかし同じ家に住んでいる以上、顔を合わせない訳にもいかない。
それにさっきの陽菜の話の通り、敢えてオープンにすればもしかしたらもしかするかもしれない。
しかし、陽菜の場合はただの個人差で片付けられる話だが、修也の場合はそうでは無い。
言ってしまえば、こんな『力』がある時点で普通の人間とは違うのだ。
両親を除き、良い反応が返ってきた事は……無い。
そんな葛藤を修也がしているうちに……

「……あ、切れちゃった」

蒼芽からの着信が切れてしまった。
スマホの画面には不在着信を知らせる通知が表示される。

「……んん!?」

その通知を見た修也は、先程とは違う意味で表情が強ばった。

「不在着信………………10件!?」

普段着信等ほとんど無い修也のスマホに、見た事のない数の不在着信数が表示されていたからだ。

「え、何これ。30分そこらでえらい数の着信が!?」

先程までは陽菜や警察、理事長等と話していたので気づかなかったが、ずっと蒼芽から電話が来ていたらしい。

「何か急ぎの用でもあるのか? こりゃ躊躇してる場合じゃない!」

修也は慌てて蒼芽にかけ直そうとしたら……

「うわっと!?」

再びスマホが着信を知らせてきた。相手はやはり蒼芽だ。
一瞬躊躇ったが修也は電話に出る。

「も、もしもし?」
『あ、もしもし修也さん? やっと繋がりました!』
「ご、ごめん、ちょっと色々あって電話に出れなくて」
『いえ、それは大丈夫です。それよりもまだ学校にいますか?』
「え? ああ、今から帰ろうかってところだけど」
『良かった! じゃあ入り口で少し待ってていただけますか?』
「え? どうして?」
『先程の事件の影響で今日はもう下校するように言われたんです。なので一緒に帰れるんですよ!』

心なしか電話越しの蒼芽の声が弾んでる気がする。

『まさか一緒に帰れる日がこんなすぐに来るとは思ってませんでした!』
「あ、ああ……確かにそうだな」
『じゃあ入り口で待っててくださいね? 先に帰ったらダメですからね!』

そう言って蒼芽からの通話は切れた。

「……………………」

あまりにもいつも通りの会話に修也は逆に戸惑う。
もしかして『力』を使った瞬間を見てなかったのかと思ったが、あの時バッチリ目が合ってる以上それは考えにくい。
気づかなかった可能性も考えてみたが、銃弾を素手で叩き落としている以上それも無理がある。

「……ちょっと怖いけど直接聞いてみるか……?」

ここであれこれ考えていても仕方が無い。
意を決して入口に向かう修也。

「あ、いたいた! おーい、土神くーん!!」

そんな修也に声をかける人がいた。

「藤寺先生……まだ何か用事が? ってかまだその格好でいるんですか。今日はもう生徒は下校するって聞きましたが?」

振り返ると陽菜が手を振りながらこちらに走ってきていた。ブルマ姿で。

「いやこれは普通に着替える時間が無かっただけだよ。ブルマ履くのは好きだけど。好きだけどっ!」
「何で二回言ったんですか」
「大事なことだからねっ」
「で、何の用事ですか?」
「……土神君はさ、普通の体育の授業で使うような汎用のブルマが好き? それとも陸上で使うような薄い生地を使ってるレーシングブルマが好き?」
「……さっき刑事さんに貰った名刺どこやったかな……」
「はいそこ無視して通報しようとしない! ちょっとした緊張を解す冗談でしょ!?」
「先生が言うと冗談に聞こえないんです。それにもう解す必要無いでしょうに」
「お、じゃあ土神君は私とは打ち解けてくれたんだね? おっけーおっけー、ならば良し!」

そう言ってバンバンと修也の背中を叩く陽菜。

「ああそれとちゃんとした用事もあるんだよ?」
「つまりブルマ云々はちゃんとした用事ではない、と」
「いやそれはそれで大事だよ! 私からブルマを取ったら何が残るの!?」
「自分で言ってて空しくないですか? てかさっさと用件を言ってください」

このままではいつまで経っても話が進まないので修也は強引に話を打ち切る。

「ああえっとね、土神君は私が担任するってのは言ったと思うけど、クラスは2-Cになるからね。で、来週月曜日はまずは私と一緒に教室に行くから職員室に来てほしいんだ」
「週明けは職員室に行けば良いんですね? 分かりました」
「じゃーねー! 週末をしっかり謳歌するんだよ!」

手を振って見送る陽菜を背に修也は校舎入り口に向けて再び歩き出した。



「蒼芽ちゃんは……まだか」

校舎入り口まで来たが、蒼芽の姿はまだ見えない。

「あ~~どうすっかなぁ……? 聞いてみたいけど聞いた結果距離置かれることになったりしたら……」

結局答えがまだ纏まっていない修也は頭を抱える。

「あっ、修也さーん!」
「っ!」

そうこうしているうちに蒼芽が校舎入り口に着いたようだ。
修也の姿を見つけて、声をかけて近づいてきた。

「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「い、いや、大丈夫。俺も今来たところだから……」
「なら良かったです。じゃあ帰りましょうか」

そう言って修也の横に並ぶ蒼芽。
二人は来た時と同じように校門を通り過ぎて行った。

「そう言えば修也さん」

校門を出てしばらくしてから、蒼芽がおもむろに口を開いた。

「え? な、何かな?」

『力』の事を聞かれるのかと内心警戒しながら修也は尋ねる。

「どうしてあんな所にいたんですか? あそこは特別教室棟ですよ?」
「え? 何それ」

違ったことに安堵しつつも、聞き慣れない単語に修也は首を傾げる。

「化学の実験だとか、家庭科の実習とか、そういった特殊な授業をやる時に使う部屋が集められた場所です。あとは文化部の部室も兼ねてますね」
「あ、それで人が殆どいなかったのか」
「はい。今日の私たちみたいに教室移動が無かったら、あの時間は全くと言って良いほど人はいませんよ」
「あの時は焦ったよ……人の気配が全くしないもんだから」
「結果的には良かったんですけど……どうしてかな、と思いまして」
「………………」
「修也さん?」
「………………迷ったんだよ」
「え?」
「職員室で手続きを終えて、帰ろうと思ってすぐ近くのドアで外に出たは良いけど、校門への道が分からなかったからとりあえず校舎に戻ったら現在位置が分からなくなってな……」
「あらら……」
「んでもって人の気配も全くしないんで途方に暮れてたらあの騒ぎだろ? 『人いたー!!』って喜び勇んで駆け付けたらアレだ」
「そういう事情が……」
「と言うかどうなってんだよあの校舎内部。複雑怪奇すぎんだろ!」
「あ、あはは……最初のオリエンテーションでやったのが徹底的な教室案内でしたからね……」
「俺、ちゃんと学校生活送れるか早々に不安になってきたんだけど」
「だ、大丈夫ですよ! きっとそのうち慣れますから!」
「だと良いんだけどな……」

いきなり学校生活に暗雲が立ち込め始めたことにため息を吐く修也。

「あ、それと」
「え? こ、今度は何?」

今度こそ聞かれるのか、と修也はちょっと狼狽する。

「修也さん、クラスはどこになるか分かりました?」
「え? 2-Cだけど……どこだろうと蒼芽ちゃんには関係無くないか?」
「いえ、それがそうでもないんですよ。体育祭等のイベントの中には全学年合同のクラス対抗競技というものがあるらしくてですね」
「何だそりゃ?」
「簡単に言えばC組なら1-C、2-C、3-Cが一つのチームになってイベントに参加するんですよ」
「つまり学年が違ってもクラスが同じなら一緒になれるってことか」
「そう言うことです。そして私は1-Cなんですよ!」
「という事は、そういうイベントの時は一緒のチームになれると」
「はいっ、そういう事です!」

そう言って蒼芽は微笑む。

「あとは……」
「………………」
「修也さん?」
「……もう良いよ、蒼芽ちゃん」
「え?」

何か次の話題を出そうとした蒼芽を修也は遮る。

「無理して話逸らそうとしなくても良いよ。本当はもっと他に聞きたい事があるんだろ?」
「えっと……その……………はい」

修也の問いかけにしばらく逡巡していた蒼芽だが、やがて頷いた。

「気になってはいたんですけど、修也さん聞かれたくなさそうでしたので、触れない方が良いのかな、という思いもありまして……」
「……」
「修也さん、その……私の見間違いでなければ、あの時銃弾を素手で叩き落としてましたよね?」
「………………ああ」
「まともに撃たれたのに平気で立ってましたよね? 」
「……ああ」

やはりバッチリ見られてた。もう誤魔化しようが無い。
この『力』を目の当たりにした人は大体異様な物を見るような目を向けてくる。
そしてこう言うのだ。



『気味悪い』『化け物』『人間じゃない』



蒼芽にもあの目を向けられ、あんな事を言われたら……!

「修也さん……」
「――――――――っ!!」
「手、怪我してませんか?」
「………………えっ?」

だが、蒼芽から出てきた言葉は、修也を心配するものだった。

「だって、撃たれたんですよ? いくら修也さんでも怪我するんじゃないかと思ったんですが……」
「いや普通怪我どころじゃ済まないと思うけど」
「そこは昨日言っていた護身術で……」
「いや無理無理。護身術を何だと思ってんの」

蒼芽は今までの人達とは違い、本気で修也を心配してくれている。
それが修也は嬉しかった……が、ちょっとズレてることに逆に修也の方が心配になってきた。

「とにかく怪我は一切してないから大丈夫だよ」
「そうですか、なら良かったです。でもそれだとどうやって……?」
「……それは、今晩紅音さんもいる時に話すよ」

もう隠し続ける事も誤魔化す事も出来ないと判断した修也は、『力』の事を蒼芽と紅音に話す事を決心した。
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