正しい魔法の使い方

4.父の病

家に帰ると、母が青ざめた表情で俺に言った。

「お父さん、入院することになった。」

え？


突然、父が倒れたというのだ。
父は今年で65歳。
まだ現役で働いているのだが、どうやら身体に不調をきたしたらしい。
父も、もう良い歳だ。身体中、ガタが来ている。

「そっか。そりゃ大変だ。」

俺は、心のこもっていない返事を返す。


きっと、大したことはないさ。
そう思いながら、俺は風呂と食事を済ませて、部屋に閉じこもった。


ろくに親孝行してこなかった36年。
嫁も孫の顔も見せてやることはできなさそうだ。
結婚は、もう諦めている。
せめて、俺に出来ることって何かないのかな。


突然の不幸に、今までの自分を省みるきっかけを感じる。


もしも、魔法が使えたら、父の病気を治してやれるのに。
そんな、魔法なんてものは、この世界に存在しない。
だったら、自分の力で何か出来ることを探さないと。


珍しく、俺らしくない思考が働く。
いつもは自分のことばかりで、他人を心配する余裕なんてないのに。
何か、魂レベルで変わらないといけないというサインを受けとっているように感じた。