逃げれるか?俺

★エリィ★

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保険医が戻ってきて、男子生徒について話してくれた。
保険医だけで行っても抵抗されたら、まずいので、途中で会った男性教員と資料準備室に向かったとのこと、男子生徒はまだそこで伸びていて、男性教員が連れて行ってくれたこと、を説明してくれた。

環は、その間、体を震わせて体を抱き締めた態勢で、一言の離さずに俯いていた。俺は、その隣でずっと環の背中を撫でていた。

「如月くん、このまま一人で帰るのは辛いよね?佐伯くん申し訳ないけれど、一緒に帰ってあげてくれるかな?」
「はい、俺、ちょっと荷物とってきます。同じクラスなので、如月くんの分もとってきます」
「じゃぁ、お願いするわね、如月くんは、このままここで見ているので」
「宜しくお願いします」

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環の部屋につくまで、環は一言も話さなかった。
さっき男に組み敷かれたばかりだから、俺のことも怖いかなと思って、
「じゃあ、環、俺は、これで帰るから」
と玄関先で片手を上げて踵を返そうと思ったら、環に「帰らないで」と泣きそうな声で腕を掴まれた。
ふりほどくこともできないので、そのまま腕を引かれて、環の部屋のソファに連れていかれた。
隣同士で座り
「…」
「環?」
ビクッと肩が震え「ごめんなさい」と泣きながら、俺に謝ってきた。
俺は抱き締めながら、「謝らなくていいから」「怖かったよな」「もう大丈夫だから」と優しく声をかけ続けた。その間、環は、俺の肩に頭を埋めて、ヒックヒックと声を出しながら、泣いていた。

痛々しい気分で、環を抱き締めていたが、これが未遂じゃなかったらと思ったら、頭が真っ白になった。これがトラウマになって俺から離れていったらと思ったら、行動に移していた。
「環、好きだよ」
ピタッと環が固まった。涙も止まったようだ。抱き締める腕を緩めて、環の顔を覗き込んで、目を見てはっきりと「あのまま未遂じゃなくて間に合わなく、俺から離れてしまったら、自分の気持ち伝えてないの後悔すると思った。だから、きちんと言うよ。環、好きだよ」
「本当?」と不安な顔で俺を見てきたので、なるべく優しい声を出すのを心がけながら、「本当だよ。信じて」と。そのまま軽くチュッとキスをした。

「嬉しい。僕、一番初めに助けてもらった時からマサくんのこと好きだったの。でも、好きになってもらう自信がなくて。だから…」
「環みたいな美人でも自身がないんだな。でも、いきなり犯すのはダメだと思う」
「だって、告白しても男同士だし本気にしてくれないかもって思ったら、ダメだったの」
「まずは告白だろうが」
「そうなんだけど…。でも…、まずは周りからせめてからかなって思って」
「そういや、なんで俺が夜助けたのと同一人物ってわかったんだ?」
明らかにぷいっと視線を逸らされたので、両手で環の頬を挟んで「環?教えて」と。

「ん、怒らない?」
「怒るようなことしたのか?」
「怒るなら言わない」
「んんー、じゃあ、怒らない」
「本当に?んとね、初めて助けてもらった時はそのまま見送ったんだけど、後日、マサくんを見かけたときに後をつけてたんだよね。その時に自宅の場所を知りました。表札に佐伯とあったし、体育祭で抱き上げられたときにあれっ?って思ったから、朝、マサくんの通学時間に家の近くで待ち伏せしたんだよ。だから同じ家イコール同じ人とね。」
「やっぱりあの視線は気のせいじゃなかったのか。」
「…あのね、白状するついでにね、まだあるんだけど、お母さんを助けたのも偶然っちゃ偶然なんだけど、マサくんのお母さんだとわかった上で助けたんだよ?それと、ボイスレコーダーに、前に「僕のものになる?」って聞いた時に「なる」と言ってもらったのを録音してあるの。それを使う時がなくて良かった」
「はあ??お前、何してんの?」
「怒らないっていったじゃん」

こいつ怖いって。俺、ヤバイやつを好きになったんじゃないだろうか。
始めはこいつから逃げるつもりで避けていたけれど、こいつの異常な行動の告白を聞いて、いつかは絆される未来しか今は見えない。
さっきまで泣いていたのに、今はニコニコしながら俺を見てくる環に、再び軽くキスをした。



俺は逃げるつもりだったけれど、結局は、環に捕まってしまった。



『逃げれるか?俺』 完
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