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9.苺プリンとポロリ
私がこの世界に召喚されてから3ヶ月近く経った。
今日は、クリスと王都から2時間ほど離れた湖に行くことになった。
朝からサンドウィッチとミートパイを作ってピクニック気分だ。本来の目的は、スケッチなんだけどね。
今日はクリスの愛馬"ロッド"に乗っていく。私は前に乗って荷物を落とさないように抱え、後ろからクリスが私のお腹に腕を回し、体を支えて馬を走らせた。何度か一緒に乗ったけど、未だにドキドキする。疾走することで生じる冷たい風が火照った顔をひんやり冷ましてくれる。
あ、ほのかにシダーウッドの香りがする。まるでクリスに包まれてる気がする。独占欲の塊みたいじゃない!なんて物をプレゼントしたんだ、私!羞恥心で死んじゃいそう!
目的地に着いた。湖の水面に山が映り込み、上下が反転したように見える。まるで逆さ富士みたい。
湖のほとりに腰掛けスケッチをしていると、クリスが興味津々で覗き込む。ううっ、描きづらい。
「へー、すごくうまいな。俺は絵が下手だから、尊敬する」
「ありがとう。お世辞でも嬉しい」
「お世辞じゃないよ。心から言ってる」
「へー、そうなんだ。照れるなー。
でも、あまり覗き込まないで。緊張するから」
「ごめんごめん。なるべく見ないように善処する」
「ふーん、努力しなければ見るんだ」
「あ、気づいた?」
「うん、そりゃね」
「じゃ、しばらくあっちの方にいるよ」
「退屈させてしまってごめんね」
「気にしなくていいよ」
何やら白い花が咲いてる方に向かって歩き出した。
さあ、少しでも長くクリスとの時間を過ごせるように集中して描こう。
描き終え伸びをしてるとクリスが戻ってきた。
「はい、花冠」
と、シロツメクサで出来た花冠を私の頭に載せた。
「クリスは手先が器用なんだね。意外。かわいい花冠ありがとう。なんだか照れるね、お姫様みたいで」
「さあ、お姫様、お手をどうぞ。あちらで食事にしよう」
あー、顔が熱い熱い。
シートを敷き、昼食だ。
クリスは、うまいうまい、とぱくぱくとサンドウィッチとミートパイをば食べている。
「ミートパイは出来立てだともっと美味しんだけどね」
と私が食べてると
「セイラ、ソースが付いてる」
クリスは、私の口元に付いたソースを親指で拭い取り、それをペロリと舐めた。
!!!
「もー、なにしてんの!」
クリスは、いたずらっ子みたいに『ニッ』と笑った。
何度顔真っ赤にさせるの!
こんな甘々だと勘違いしそうになるから、やめて。
「そろそろ帰ろうか」
ああ、もう時間か、残念。
私たちは手を繋いでロッドの元に向かった。
ビュッ、と強風が。土埃が舞った。
「痛っ」
思わず目をゴシゴシした。
ぽろっ
「!セ、セイラ、目が溢れ落ちた!大丈夫か!?」
しまった!
私はバッと片目を手で覆った。
クリスは、目敏く私の服に張り付いたカラコンを見つけ手に取った。
「これは‥‥、なんだ?」
ああ、バレちゃうなぁ。まあ、もうカラコンのストックほとんど残ってなかったから、近いうちにカミングアウトしなきゃいけなかったし。
私は観念して、覆った手を退けた。
「!セイラ‥‥、目が‥‥黒い‥‥」
クリスは大きく目を見開いた。
「ごめんね、びっくりしたよね。クリス、実は私の目は黒いの。ごめんね、内緒にしてて」
「‥‥最近気になってたんだが、髪の根元が黒いのは、ひょっとして‥‥」
「うん、地毛も黒いんだ。
おしゃれで髪は染めてて、目はカラーコンタクトレンズっていうのを入れてるの」
「髪の染め粉はあるが、目のおしゃれなんて瞳の色を変えられるのがあるのか」
「やっぱりこっちの世界にはないよね」
クリスが真剣な顔になった。
「やっぱり‥‥セイラが大聖女なんじゃないか?まだカレンは覚醒していない」
「たまたま黒髪黒目なだけだし、花恋だってまだ時間がかかってるだけかもしれないし」
「‥‥」
あー、うるうるしてきた。泣くな!私!
「‥‥城や神殿に連れていくの?いやだよ、行きたくない。どんな扱いされるかわからない、怖い‥‥」
「酷い扱いはされないと思うが、そう思うってことは、それだけまだ不信感があるということなんだろうな」
「‥‥うん」
「前にカレンがいう覚醒するか様子見ることにしたが、流石にいつまでも待つというわけにはいけない。セイラはどうしたい?」
クリスが困った顔してる。そんな顔させたいわけじゃない。
「‥‥召喚されてから1年経過する日まで待ってくれる?それまでに、花恋が覚醒しなかったら自分で神殿に行く」
「それでいいのか?」
「仕方ないでしょ。あと、行く場合は私1人で行くから。匿ってたのバレたら、クリスの立場がヤバくなるでしょ?そんなの絶対やだ!」
「俺のことなんか心配しなくていい」
「ううん、もう決めた!1人で行く!」
「はぁ、セイラは頑固だからな。仕方ない、そうすることにしよう」
「ありがとう!クリス!」
嬉しくってクリスにぎゅっと抱きついた。
クリスもぎゅっと抱きしめ返してくれた。
ごめんなさい、クリス。聖騎士だから国に忠誠を誓ってるはずだよね?それに背くようなことさせちゃって。でも、もうしばらくそばに居させて‥‥。
帰宅する前に商会に寄り、ピンクブロンド(アッシュピンクより明るくなっちゃうけど、仕方ない)のウィッグと伊達メガネを購入した。
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