だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

文字の大きさ
4 / 77
第一部

4

しおりを挟む
 ……めんどくせぇ、途轍もなくめんどくせぇ。
 はぁ……と、ため息をつく。
 ただ判を押すだけならば作業効率も上がるのだが、目の前に溜まりに溜まった途方もない書類の山はきちんと一枚一枚確認しなくてはならない代物だ。
 その作業が途轍もなく面倒で、尚且つ精神をすり減らしていく。
 少年は苛立った様子で、再度ため息をついた。

「アラン。手を止めないで、仕事をしてください」
「わーってるよ。そう言うクライヴも、仕事をしろよな」

 クライヴと呼ばれた少年は微笑を浮かべると、ティーカップに口を付ける。

「私は貴方と違って今日やるべき仕事は終わらせましたので、ティータイムです」

 金髪の髪を靡かせ、ふふっと笑う。
 こうして笑っている顔を見れば、周りの者が言うように金髪碧目の王子様に見える。
 だが性格はかなり腹黒いもので、他人が仕事で忙しい時に優雅に足を組み、ティータイムをしながら見下すのが或る意味趣味だという。
 ……とんだ悪趣味だ。

「あー、めんどくせぇっ! まだ、新入生歓迎会の最終決定も出してねぇだろ? たっく……去年はここまで掛からなかったというのに」

 そう、昨年も生徒会長をしていたが、ここまで決定が伸びてはいなかった。

「まあ、それは今年は案が沢山出たからじゃない? 面倒臭いなら去年と同じのにすればいいと、ボクは思うの」

 ぴょんっとピンク色のツインテールを跳ねさせ、ウインクする会計のディアナ。
 二年の中では魔法が一位の成績だ。

「でも、去年と同じだったら二、三年がどう思うんだろうな」

 白髪に琥珀色の瞳の会計、ザックス。
 頭にターバンのような布を巻いており、一見害がない様に見える。
 だが……異常性癖の持ち主。
 だというのに、二年の中では学力が一位という頭脳を持ち合わせている。

「……エドは、楽なのがいい」

 自らの事をエドと呼ぶ、書記のエドワード。
 見て分かるように無口で大人しく、首に巻いている鈴がチリンと鳴る。
 猫耳の様な黒髪に金目の持ち主で、首に鈴があることから黒猫のようにも見える。
 華奢な体だが、一年の剣術の成績は二位だ。

「おれっち、刃物の博物館行きたい!! なので全学年校外学習に!!」

 元気よく手をあげる庶務のシドは、言動の通り刃物好きだ。
 オリーブ色の髪に、青緑の目。
 シルバーアクセサリーが好きで、よくゴテゴテな指輪を付けている。
 一年の剣術、三位の成績の持ち主だ。

「えーうちは、そんな博物館行きたくないっす。これはディアナちゃんのファッションショーを開くべきっす!!」
「……レイン、きっしょ」

 ディアナは、冷ややかな視線を送る。
 ディアナLOVEで、ロリコンのレイン。
 ことある事に、ディアナちゃんLOVEと叫ぶ狂人だ。
 海緑色の髪に、千草色の目。
 魔法の成績は、一年で二位の成績だ。

「……こんな調子なら、最終決定案は直ぐに出なさそうだな」

 それぞれ自由に発言をする生徒会役員を見て、またしてもため息をつく。
 この俺様、アラン・ジークフレットはこの学園の生徒会長を任されている。
 自慢ではないが才色兼備と周りに言われ、剣術の成績は三年の中では一位。それに加えて魔法も容易く扱うことも出来る。
 だが、曲者揃いのこの生徒会役員を纏め上げるのは至難の業だ。
 そんな中、あの日たまたま見かけた紅色の髪に金色の瞳の少年が気になっていた。
 この学園の生徒の書類を一度目に通し、添付された顔写真も見たことがあるのだが──記憶の何処を探してもあの少年は見たことがなかった。
 ……それより、何故あのようなことを口走ってしまったのか。
 近々季節外れの転校生が来るが、その性別は女。
 ならあの男は、この学園の何処かにいるとなる。
 今すぐに探し出したいという訳ではないが、どうやら心の片隅で気になってしまっているらしい。

「アラン、どうしますか? 転校生の手続きもありますし……」
「転校生には、予め学園の地図を渡してある。だから迎えに行くことはないだろう。転校日はいつだ?」
「それは、三日後ですね」

 副会長であるクライヴはそう答える。

「そうか、それはお前に任せる。俺様は、新入生歓迎会の書類を準備する」

 アランがそう言うと、ディアナは身を乗り上げた。

「あれ? アラン、何にするのか決めたの? ボク、すっごく気になる!!」
「刃物博物館!!」
「ディアナちゃんのファッションショー!!」
「シド、レインは黙れ。こうも意見が纏まらないんだ。風紀委員が言っていた立食パーティーに、問題がそこまで起こらなそうな宝探しゲームにする」
「へー、楽しそうっ!! なら、立食パーティーのメニューとかはボクとエドで考えるよ」
「……え? エド、も?」

 こてんと、首を傾げる。

「そうよ! 楽なのがいいんでしょ!! それとも、宝探しゲームの方を考える?」

 そうディアナが言うと、エドワードは首を横に振る。

「ううん。それなら……立食パーティーの方が楽」
「でしょ! なら、案を考えよう! 時間もあまりないし、凝ったものよりも簡単な家庭的料理にしよう!」

 うんうんと頷き、エドワードと共に図書室へ行くため、部屋を後にした。
 一先ず立食パーティーの方は、任せても大丈夫だろう。
 なら次は宝探しゲームだ。

「宝探しゲームの方は、残りのザックス、シド、レインに任せる」
「何をすればいいんだ?」

 ザックスは首を傾げ、尋ねる。
 そのザックスの言葉に、レインが答えた。

「宝探しというから、敷地内に何か宝物を隠す感じっすかね。宝物というから、……まさかうちの宝物を景品にするんすか!?」
「いや、例年通り生徒会が一つ願いごとを叶える感じとなるだろう。だから、あたり券とはずれ券の何方かを入れればいい」

 書類に判を押しつつ、答える。

「ならおれっち達は、敷地の何処に埋めるか考える感じか……。敷地は広いから、絞った方がいい感じか?」

 学園の敷地内地図を広げ、三人は何処に埋めるか考え始めた。
 これで宝探しゲームの方も大丈夫だろう。
 会場を決めた後、書類を作成し提出すればこの企画は通るはずだ。
 パソコンの電源を入れ、ある程度企画書を進めていく。

「そういえば、他に何かあったか? 新入生歓迎会や転校生以外に」
「あー、それなら少しの間休学していた生徒が今日から復学しましたね」
「……休学していた?」

 そんな生徒はいただろうか。
 デスクの引き出しから資料を取り出しパラパラと捲ると、一つの資料を見つける。

「エリオット・オズヴェルグ。四月十二日から体調不良で休学。……今日からということは、三週間ほどの休学か」

 そう呟いていると、ザックスが声を上げる。

「そのエリオットとかいうやつ。確か、いじめられてた奴だよな」
「……いじめられていた?」

 その言葉に、アランの表情が険しくなる。
 その様な話は教師からも、他の生徒からも聞いていない。
 何故だ……何故この話が此方まで伝わってこなかったんだ。
 ディランに会った時も、あいつは何も言っていなかった。

「クラスは違うっすけど、なんか一部でモジャ頭とか黒マリモとか言われてるやつのことっすよね」
「あー、おれっちも聞いた事あるかもしれないなぁ~」

 次々と発せられる一年の発言に、アランは眉を顰めた。
 いじめというのは生徒会としても見逃せない。
 これはどうにかして、物事の収拾をつけるべきだ。

「直々に名指しをし、いじめを止めさせるべきか?」
「そんなことをしたら駄目っ!!」

 両手に本を持って、勢いよく扉が開かれる。
 現れたのは、先程図書室へ向かったディアナとエドワードだ。

「駄目とは何故だ?」

 アランが尋ねると、「そんなことも分からない?」と言うようにため息をついた。

「ボク達は、学園の中では権力を持っていると言っても過言じゃない。そして敬われ、中には崇めている人もいる。ガチ恋勢だっているの。そんなボク達が、特定の人をあからさまに守るといじめの主犯格だけじゃなく、最近大人しい親衛隊の反感も買う」
「だが……」
「だがじゃないっ! アランは生徒達のことを一番に考えている、優しい俺様ツンデレなのは分かってる!! でもボク達が生半可に首を突っ込んでしまうと、いじめられている彼はもっと傷付く。ボク達が出来ることは、知らないふりをするか、教師に現状を伝えるしかない……」

 そうディアナは言うが、どうしても納得することが出来ない。
 そんな時、レインが口を開いた。

「あー、多分エリオットは大丈夫だと思うっすよ。今日魔法の授業でもそうだったんすが、登校時にも周りのことを全く気にしてなかったす。それに、何だか雰囲気も変わっていたっす」
「そ、そうか。大丈夫ならいいのだが……」

 今の現状が改善出来ているのなら安心だ。
 アランはほっと胸を撫で下ろすと、書類へと顔を向けた。
 しかし、改善出来ているとしてもまだ油断は出来ない。
 これは暫くは気に留めていなくてはいけない事項だろう。
 いじめの主犯が親衛隊に所属しているのならば、直々に止めるように言ったとしても差ほど問題はなさそうだが……親衛隊ではないとすると、流石にディアナが言った通りなのかもしれない。
 生徒会長とは不便だなと、アランは静かにため息を漏らした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ
BL
 異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。  しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。  漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。 「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」  え、後天的Ω?ビッチング!? 「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」  この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!  騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

処理中です...