だからっ俺は平穏に過ごしたい!!

しおぱんだ。

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第一部

18


◇◇◇

 ちょっと待てっ!! 何故、生徒会長がここに……というか、何故飛び降りたんだよ!!
 突然の生徒会長の登場により目を丸くしたが、衝撃で頭の中が真っ白になる。
 そのため、魔法を発動させることを完全に忘れてしまっていた。
 一方エリオットを抱き寄せたアランは、ズボンのポケットからロープの様な魔道具を取り出すとそれを頭上へ投げる。
 その先の方は、頭上の木に向かって伸びると太い枝に絡まった。
 落下していた体はそれによって急停止し、地面に衝突する寸前で事なきを得た。
 ……と、止まった……。
 エリオットはほっと安堵の息を吐くと、地に降ろされトンっと地面に降り立つ。
 一方生徒会長のアランは、魔道具を仕舞うと言葉を発した。

「おい、大丈夫か」

 たった一言だったの言うのに、エリオットは驚きで体が大きく跳ねた。

「え、は、はい。大丈夫……です」
「そうか。ならいい」

 すると、アランは耳に付けていたインカムのスイッチを入れると、言葉を発した。

「おい、レイン。そっちはどうなった」
『いやぁ……会長に言われた通り追いかけたんっすが、見失ってしまいました……っす』
「……そうか。いや、仕方ないな」

 アラン本人が追えば逃走した生徒を捕まえることが出来ただろう。
 しかしアランは転落したエリオットの救出を最優先にし、犯人の追跡をレインへと押し付けた。
 戸惑いながらもレインは実行に移したのだ。咎める要因なんてない。
 アランは続けて言葉を言う。

「確か上の方に一人生徒がいたはずだが、それはどうなった」
『副会長に連絡して、そちらに身柄を引渡したっす。会長の方は大丈夫っすか?』
「あぁ、大丈夫だ。此方の対応は俺様がする。レイン、お前はディアナ達に連絡し、逃走した奴らのことを探し出してほしい」
『了解っす』

 通信を切断すると、アランは再度エリオットの方へ顔を向けた。

「え……と……」

 ……一体、どうすれば。
 相手は親衛隊という奴らが厄介である生徒会長。
 もし二人っきりになったということが知られてしまえば……いや、面倒臭いが返り討ちにすればいいだけか。
 だって、俺は悪いことなんてしていないからな。

「……怪我は、してないんだよな」

 自問自答していると、手を取られ、切れ長な紅い瞳が向けられる。
 思わず息を飲んでしまう。

「え、まぁ……していない、です」

 吃りそうになったが、なんとか口から言葉を吐き出す。
 目の前にいる生徒会長はじっとエリオットの顔を眺めると手を顔へ移動させ、丸眼鏡を外した。

「…………え?」
「……お前……」

 思いもしなかった行動に束の間思考が停止するが、丸眼鏡が取られたことに気が付くと咄嗟に生徒会長から取り返す。

「ちょっ、何するんですか!!」

 丸眼鏡を付け直し、生徒会長から距離を取る。
 そういえば目の前の生徒会長とは、一度本来の姿で出くわしている。
 もし、バレてしまったら……。
 考えたくはないが、確実に面倒臭いことになるだろう。
 何故あの場所にいたのかとか、変装している理由を問いだされるだろう。
 あの場にいたことはまだしも、エリオット自身でさえ突然姿が変わってしまった理由は検討もつかない。
 理由を問いだされれば黙秘するか、しらを切るしかないとは思うのだが……。もし友達や身内が変装していたら、エリオット自身も理由を訊いてしまうだろう。
 それがフレディであったら、確実に理由を訊いてしまう。
 グルグルと思考を巡らしていると、アランは言葉を発した。

「いや、すまない。お前を何処かで見たような気がしたんだが……既視感の正体はどうやらエドワードだったようだ」

 アランの言葉に、エリオットは思い出す。
 あの日、生徒会役員とは知らずに関わってしまったエドワードは、エリオットと髪の色と瞳の色が同じだということに。
 しかし、猫耳のような可愛らしい髪型と、無造作な頭……色が同じとはいえかなり印象は違うと思うが。
 だとしても、エドワードに既視感を感じてくれたのならば、暫く勘づかれることはなさそうだ。

「お前が一切怪我をしていないならば、歩くぞ」
「は、はい」

 歩き始めたアランの後を、エリオットは追ったのだが……。

「ちょっ、会長!! そっちは川です!!」
「……は? おわっ!!」

 足を踏み外し転倒すると、大きな水しぶきが空を舞う。
 水を被ったアランはため息を吐くと、ゆっくり起き上がる。
 ……何でこの人、川の方に歩いて行ったんだ……。
 エリオットが見たのは、フラフラと覚束無い足取りで川の方へ進んで行く生徒会長の姿。
 ……俺のことなんか心配する前に、自分の方を心配した方がよかったんじゃ……。
 生徒会長の怪我の有無を心配していると、

「すまない。道を間違えた」

 アランはそう、冷静に言った。

「……はぁ」

 その言葉に、思わずため息に近い声がこぼれ落ちた。
 どうやって道を間違えるんだ。
 川と森……間違えようもないと思うんだが……。
 全身びしょ濡れのアランは陸に上がり水を絞ると、何事も無かったかのように森の方へ脚を進める。
 生い茂った木々を潜り抜け、暫く森の中を進んで行く。
 そういえば此処は王都だったよな。
 森の中を歩きながら、そう思い返す。
 俺が知っている王都は自然というものは殆ど無く、煉瓦造りの家屋に囲まれているだけであったが……。
 流石、豊かな自然に治安がいい王国と言われるだけがある。
 不意に視線をアランの方へ向けた時、エリオットはハッと声を上げた。

「か、会長!! そこを踏んだらーー」
「ん? うわぁっ!!」

 またもやアランは、大きく転倒する。
 エリオットはやれやれと、手を伸ばした。
 エリオットが声を上げた元凶は、この腐った木の根っこだ。
 ボッコりと盛り上がっているが、腐っているため踏んずけると根っこが折れ、バランスを崩し転倒してしまうのだ。
 普通の人が見ると腐っていることに気が付かないが、前世で散々森の中で活動してきたエリオットにとっては意図も簡単に見分けがつく。

「すまないな」

 アランは差し出された手を掴むと立ち上がり、砂埃や葉っぱを払う。
 一連の動作を見ていたエリオットは、顔色が少し悪いことに気が付く。
 ……やっぱり、具合悪いんじゃ……。
 意を決して、エリオットは尋ねた。

「その……会長。何処か、具合でも悪いんですか? 顔色も……悪いですし」

 その問い掛けに、首を振った。

「いや、ただの寝不足だ。顔色が悪いのも、寝不足だからだろう。すまない、心配掛けたな」
「そ、そうなんですか」

 一先ず具合が悪かったり怪我をしていたりしていないようで、ホッと安堵する。
 どんなに関わりたくない人だとしても、怪我なんてしてほしくないのだ。
 今世こそ、周りの人が幸せに生涯を終えてほしい。
 そんな時──突如アランは立ち止まり、エリオットも足を止めた。
 …………どうしたんだろう?
 アランは振り返ると、そっと言葉を発した。

「そういえば……エリオットだったか? お前の名は」
「え、は、はい」

 ちょっと待て、何故いきなり俺の名が……というか何故知っているんだっ!?
 瞠目しているエリオットには気が付かず、アランは言葉を紡いでいく。

「その、何か困っていることはないか?」
「こ、困っていること?」

 エリオットは訊き返した。
 アランは目を伏せると、言葉を吐く。

「い、嫌がらせを受けたとか……そういう……」

 ……あー、会長が言いたいのは「いじめとか受けていないのか?」ということか。
 というか、何故今更そんなことを……しかしこの様子だと最近知ったような雰囲気だな。
 エリオットはアランの顔を凝視する。
 やはり、誰かが伝わらないようにしていたのか?
 まぁ、別にそんなことはどうでもいい気もするが。

「いえ、特にないですね」

 とりあえず否定しておこう。

「そうか、ならいい」

 エリオットの返答を聞くと、アランは微笑を浮かべた。
 そして、歩き始める。
 アランの後ろ姿を見ながら、エリオットは思考に耽る。
 そもそも、何かあったら普通に返り討ちにしているからな。
 とは言っても悪口が殆どで、武力行使をしてくる者はいないが……。
 ……まぁ、先ほどは油断していて突き落とされてしまったがな。
 あの時のことを思い出し、どこか余墳が残る。
 もし自分ではなく、フレディに当たっていたら……と考えると、いてもたってもいられない。
 相手に生き地獄を味あわせない限り、この憤りは収まらないだろう。
 しかし……真っ向勝負だけは、出来る限り避けたいのだが……。
 唸りながら歩いていると、突如アランの足が止まる。

「会長?」
「……何処かに階段があったはずなんだが……」
「……それって、あれですか?」

 前方の右側にある、丸太で造られた階段。
 それは上の方へ続いており、きっとアランが探している階段であろう。
 それに向かって指差すと、アランは頷いた。

「ん? あぁ、そうだ」

 そして、階段に向かって歩き出す。
 ……もしかして、この人方向音痴か?
 もし本当に川に向かったのも方向音痴だからとすれば、かなり重症だ。
 寝不足だからという可能性もあるが、完全無欠そうな生徒会長でもそんな一面があることに意外の感に打たれる。
 そんな階段を登っている最中、エリオットはあることに気が付く。
 ……あれ、待てよ。あの時、生徒会長は浮遊魔法発動させなかったよな。
 思い返してもロープの様な魔道具を使用していた。
 ……もしかして、浮遊魔法ってあまり浸透していない?
 それとも、高難易度魔法だったりするのか?
 考えたくもないが、その可能性があるのであれば、少しこれからのことを考えなくてはならない。
 人前で使っても大丈夫である魔法と、使っては駄目である魔法の線引きが必要だ。
 目の前の人物と親しくなってしまう可能性があるとしても、今訊いておかないと後々困るであろう。

「か、会長。ちょっとお訊きしたいのですが……」
「なんだ?」

 生唾を飲み込むと、口を開く。

「その……浮遊魔法とか、使わないんですか?」

 そう問い掛けると、暫しの沈黙の後アランは口を開いた。

「俺様が得意魔属性は光だ。他の属性をすぐ発動出来るほどの力はない」
「……え? 会長が得意魔属性って一つだけなんですか?」

 すると、アランは「何を言っているんだ?」と、眉を顰めた。

「得意魔属性は、通常一種類だけだろ? そんな複数ある者なんて、貴族のほんのひと握り程度しかいないはずだからな」
「……そ、そうなんですか」

 いやいや、前世では得意魔属性なんて複数持っている者なんてわんさかいたぞ。
 それが今や、貴族のほんのひと握りだと?
 一体どうしてそうなっているんだ。

「だから俺は、風属性である浮遊魔法を瞬時に発動することが出来ない。一切発動出来ないわけではないが」
「そういうことなんですね」

 俺は今、炎属性が得意魔属性となっている。
 そんな俺が瞬時に別の魔属性を発動してしまうとなると……これはこれで面倒臭いことになるな。
 思わずため息を吐く。
 前世の時代と比べて、どうやら魔法の概念とか色々変わっていそうだ。
 そんな会話をしつつ階段を登り終わると、校庭の方へ脚を向かわせる。

「エルっ!!」

 校庭に入ると、フレディが駆け寄って来た。

「フレ、大丈夫だったか?」
「それはこっちのセリフだよ!! ……本当に無事でよかった」

 フレディはエリオットのことを抱きしめると、そう言葉を吐いた。
 その様子にアランは微笑を浮かべると、その元にクライヴが近付いてくる。

「貴方は大丈夫だったんですか?」
「あぁ、大丈夫だ。……ん? エドワードとシドは?」

 周囲を見回しても、そこには二人の姿が確認出来なかった。
 一瞬トイレかとアランは思ったが、疑問に対しクライヴが答える。

「レインから事の一件を連絡受けた際「……そんなことを、するなんて……許せないっ!!」と走り去ったエドワードをシドが追いかけました。なので、この場にいるのは私だけですね」
「は? エドワードがそんなこと言ったのか?」

 エドワードがそんなことを言うのも、許せないからと走って行ったことも、到底考えられないことだ。
 生徒会役員以外の人物とは、必要以上に関わらないというのに。
 アランは首を傾げ思考を巡らすが、どうしてエドワードがそんなことを言ったのか理解出来なかった。
 そんなアランの耳許で、クライヴが言葉を発する。

「そんなことより、どうしますか。……今回の新入生歓迎会は中止致しますか?」
「……いや、続行する」

 一瞬迷ったが、今中止にしてしまうと事が大きくなってしまう。
 きっと、事件の犯人も証拠隠滅という形で何か行動を起こしてしまう可能性も否めない。
 だから水面下でどうにか対処をしなくてはいけない。

「……そんなことをして、大丈夫なんですか?」
「事を大きくさせないためには、そうするしかない。もちろん、全ての責任は俺様が背負う」

 そう言うと、クライヴはため息をついた。

「仕方ないですね。……でも、私は貴方一人に全責任は負わせないですからね」

 フンっと顔を背けたクライヴに対して、アランは笑った。

「そうか、それは頼もしいな」

 会話を終えると、アランはエリオットとフレディに言葉を掛ける。

「お前ら、念のため保健室へ行くか?」

 その言葉に、エリオットは首を振った。

「いや、俺は大丈夫」
「え? で、でも……念のため行った方が……」
「俺は大丈夫だよ。でも、戻る気はないし、立食パーティーまでは此処で待機していようかな」

 食堂の料理一年間無料は消えるが、あの場に戻るとまた面倒事に巻き込まれる可能性も少なからず残っている。
 俺ならまだしも、フレに矛先が向いてしまうのであれば此処で待機していた方が賢明だ。

「そうか。なら終わるまでの間、この場で待っていろ」

 アランそう言葉を吐くと、再度見回りのためこの場を後にした。





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