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第一部
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時刻は少し遡る。
エリオットと別れた後、フレディは寮とは反対方向へ歩き出した。
目的地は決まっている。
けれど、エリオットを連れていこうとは思えなかった。
彼が関わっているというのに。
きっと蝕んでいくこの憎悪を感じ取らせたくはなかったんだ。
……大丈夫。まだ、抑えられる。
ゆっくり深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。
エルには害虫駆除をしてくると言った。
それは比喩表現だが、どうせならゴミクズの方が良かったかもしれない。
でも、エルは気付いてしまっただろうか。
今から僕は、何をしようとしているのかを。
……いや、委員会の仕事だと勘違いしてくれた。
だからエリオットは、僕が緑化委員会に所属していると思っているだろう。
まぁ、本当は違う委員会だけどね。
気持ちを紛らわせようと考えに耽るが、一歩一歩進む度に憎悪が膨れ上がっていく。
何度もまだ耐えれると、心の中で唱える。
そして、フレディはとある場所へ到着する。
この時間帯には人気がなく、寮とは正反対に位置する緑化委員会が管理している倉庫の前。
そこに、三人の男女が待っていた。
その内の一人、金髪の男子生徒はフレディに気が付くと口を開く。
「お前か? 俺らのことを呼び出したのは」
「うん。そうだよ」
ニコッと微笑を浮かべる、が──
あーあ、こんなやつに笑いかけたくないんだけどな。
腹の中は真っ黒であった。
ニコニコと笑うフレディのことが癪に障ったのか、男子生徒の表情からは苛立ちが窺え、次第に口調も荒くなる。
「で? 何の用だよ。俺ら呼び出される様なことしてねぇし、そもそもお前誰だよ」
……あぁ、可哀想に。自分たちが犯した罪さえ自覚がない頭なんて……今までどうやって生きてきたんだろう。
哀れみの眼差しを向けながら、フレディは口を開く。
「……僕のことは一先ず置いておいて、君たち本当に心当たりないの?」
「ねぇよ。なぁ?」
男子生徒の問い掛けに、後ろで突っ立っていた男女二人は頷いた。
……本当に可哀想な頭なんだなぁ。
まさかここまで理解力が無いとは……仕方ない。僕は優しいからヒント……というか、答えを教えてあげよう。
「今日、ある男子生徒が風属性の魔法によって崖下に転落したことって知ってる?」
何気ないフレディの言葉に、三人は微かに反応を見せる。
「……知らねぇよ」
「そうなの? おかしいなぁ……。あの場に見合わせた会長は犯人の顔を見ていないようだけど、僕はしっかり顔を見たんだよ?」
「その犯人が私たちだというの!? 酷いっ!! 濡れ衣を着せるなんてっ!!」
まるで猿の様にキーキーキーキーと甲高い声を上げ、フレディは五月蝿いなぁと顔を顰めた。
そもそも僕は顔を見たと言っただけで、まだ犯人が誰なのか言っていない。
目の前で騒いでいる女の言動を見ていると、犯人は私たちですと言っているように思えてならない。
その時、一人黙っていた青色の髪の男子生徒が突然あっと声を出した。
「お前、確か……ヴァーミリオン家の三男だよな」
突然、思っていなかった言葉に息を飲んだ。
その言葉が引き金となり、次々に言葉の銃弾を打ち込んでくる。
「ヴァーミリオン家の三男って……そうか、お前、あのヴァーミリオン家の落ちこぼれと言われているやつか」
五月蝿い。話の論点をすり替えるな。
「お兄さんたちは優秀な方なのに、可哀想ね」
そんなの、とうに思い知らさせれいる。
自分は兄たちに敵わないことなんて。
次第に胸中で抑え込んでいた黒い感情が吹き出してくる。
ボコボコと泡を吹き、箱から溢れ出てくる。
駄目だ……まだ……まだ耐えなくては。
ギリッと歯軋りする。
落ちこぼれや出来損ないなんて言われ慣れている。
だから、まだ耐えられるはずだ。
しかし、トドメの一発が心臓に狙いを定めた。
「落ちこぼれのお前といい、あのエリオットとお似合いだなぁ。駄目人間同士で」
────ぷつんっ。
切れた。正常な思考回路が千切れてしまった。
もう感情を抑える術もなく、コンマ数秒でそれは胸中を……精神を覆いつくし、黒いモヤが溢れかえる。
……僕のことだけならまだしも……エルを侮辱するなんて。
暗闇から引き上げてくれた、たった一人の親友を……自らの意思で鳥籠から飛び出した彼を悪く言う者は……この手で……。
「はははははは」
嗤う。フレディはただ嗤っていた。
突然の出来事に、三人は唖然とする。
頭がおかしくなっただとか気持ち悪いとか、彼ら三人の言葉はフレディには届かなかった。
「……もう、いいや。自ら罪を認めたら許してあげようと思ったけど……もういいよ」
フレディはネクタイを緩め、胸元のボタンを外すとコンっと叩く。
「幻想に囚われた虚ろなる闇の剣を取り、暗黒を支配するに相応しき存在を解き放つ」
淡々と誓願を述べると、夜闇のような光が溢れ、丁度鎖骨の下からゆっくりと柄が体内から出現する。
「それは──不滅の歌《デュランダル》となる」
体内から引き抜いた漆黒の剣。
それは、フレディが普段から授業で使用している剣であった。
授業がある際は腰に差しているが、自分の弱点をさらけ出している現在の状態では何だか落ち着かない。
ここには兄たちがいないから、破壊される心配はないというのに……もしかしたら軽くトラウマになってしまっているのだろうか。
だとしても、今やるべきことは……目の前にいる者たちの抹殺だ。
ビュンッと剣身を三人に向ける。
「……な……なに、を」
「ん? なにって」
やだなぁと、フレディは嗤う。
「今から、君たちを殺すんだよ」
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