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第一部
63
「エリオット様っ!!」
それは突然の出来事。授業が終わり帰路を歩いている最中、突如アリスティアに呼び止められる。
何か面倒事を押し付けられるのではないか、それとも巻き込まれるのではないのか。なんて懸念を抱きながらエリオットは振り返る。
「あれ、アリスティアどうしたの?」
エリオットが口を開く前に、フレディは不思議そうに首を傾げ言葉を発した。
するとアリスティアは少々恥じらいをみせながら、柔らかく微笑を浮かべる。
普段のアリスティアのイメージとは異なるその表情を見て、思わず心臓が跳ねたーーそんな気がした。
いや、普通に気の所為だ。気の所為。
「実はエリオット様にお礼を言いたくて」
「え、エルに?」
フレディはエリオットへ顔を向ける。
しかしエリオットは何かお礼を言われるようなことをした覚えはなく、呆然と二人で顔を見合わせた。
アリスティアは二人の様子を見てくすくすと笑うと胸に手を当て「セドリック様から聞きました。エリオット様がセドリック様に知らせてくれたお陰で、私は制裁を受けることがなく怪我一つせずにいられました」と再度笑った。
その言葉に「あ」言葉を漏らす。空き教室で隠れている時のことを思い出し、その時セドリックはアリスティアにそんな会話をしていたと。
……正直あの騒動の後で完全に忘れていた。
「それだけですわ。ではわたくしは失礼します」
上機嫌な様子でアリスティアは女子寮へ続く道を歩いていった。
二人残されたこの場で横にいるフレディは笑った。
「エル、アリスティアのこと苦手って言ってたけど優しいね」
なんて、笑うフレディを見てエリオットは不可抗力だと唇を尖らせる。
「別に、あれはたまたまセドリックに会ったから言っただけだよ」
「でも、不審なことを伝えることは優しさだと思うよ」
……確かにフレディの言う通りかもしれないと、無意識にエリオットは目を伏せた。
現代はこれといって争いもなく平和な日常が流れているが、昔は違った。
一つでも不審な芽を摘む事が出来なければ、それが次第に国を揺るがす大事件に発展ーーなんていう事件もあったのだ。……まぁ、それは事前に防いだのだが、件の呪具は辺境の村に蔓延したのは今や歴史上から消えているに等しい。
「でもアリスティア……元気そうで良かったね」
憂いを帯びた表情は夕焼けに溶ける。
エリオットは特に言葉という言葉を述べずに「……そうだな」と短く返事をした。
実際のところ魔力の暴走の原因は不明であり、恐らくアリスティアの不手際として処理されるであろう。
転校生は入学試験よりも遥かに難易度が高いとされる編入試験を受け、そうしてこの学園の門をくぐることが出来るのだ。
それに加えて希少と言われる光属性の持ち主。当人のプレッシャーも、周りからの重圧も計り知れない。そんな最中起こった事件。
ーーーー何も起こらなければいいんだが。
エリオットは無意識に女子寮の方へ視線を向けた。
◇◇◇
夜の帳が落ちた頃、夜食として簡単にレトルトカレーを作っている最中ーーふと校舎の方へと目をやる。
ここからでは校舎はよく見えないが、あの違和感の正体とアリスティアの魔力の暴走に因果関係がある様な気がしてならなかった。
それは思考を巡らす度に深まっていく、が。答えは導き出せずにいる。
だが答えはきっとあの違和感にある。黙示録の異変とーーーー微かに感じた魔力の残滓。それは何処かで感じたことのある魔力だった。
茹で上がったレトルトカレーを白米を乗せた皿へよそうと、歴史本を手に取る。
この世界の表向きの歴史では、シグルドが魔神王を倒し世界に平和をもたらした結果自然も蘇り、あの時代と比べると災厄の予兆も事件もない平和そのもの。
魔法もあの頃に比べたら扱える人も増え、貧富の差も埋まってきている。が、何処か腑に落ちない。
何かを忘れているような気がしてならないのだ。
黙示録についてーー何か、重要なことをーーーーそれは忘れてはいけなかったはずなのに。
◇◇◇
「……今日は一体どうしたのかしら、突然魔力が暴走するなんて」
部屋で一人、アリスティアは自分の両手を正視していた。
今まで魔力が暴走することなんてなかった。それは魔力が覚醒した幼少期でさえ。だからこそ魔力操作も意図も簡単に操作出来た。
同じ歳の子が苦戦している最中、一発で成功してしまったのだから少々周りの目が痛かったけれど。
だから魔力が暴走する予兆……とは言えないかもだけど、突然誰かに杖を握られ魔法の主導権を乗っ取られたーーーーそんな気がしてならない。
だけど、そんなことが可能なのだろうか。魔法陣の主導権を取られることは実際昔あったようだけど、杖を握られるだけで主導権が第三者に移るーーなんて。
魔法陣に関しては式を書き換えたから成し得た技である。だからこそ式などが存在しないーー否可視化されていない杖を媒介としてーーーー
「あ~もうっ! 分からないわよ!!」
アリスティアは希少である光属性の魔法が扱えるとはいえ、その威力は現時点では高くない。乗っ取るとしてもメリットは無いに等しいのだ。
もし乗っ取るのならアラン様やディラン様、或いは他の特待生を選択すべきだ。
例え何かしらの制限があったとしても、条件に合う者が一人くらいいるだろう。
だけどもし乗っ取って何かをする、というよりーーーー
「……騒動を起こし、場を混乱させるため……とか?」
核心に迫った気がしたが、違うと頭を振る。
もしそうだとしても学園内では不審者どころか、監視カメラには何一つ不審な者は映り込んでいなかったと先生たちが言っていた。
見えないーーという代名詞はお化けーー所謂幽霊だが。実態を持たない幽霊に乗っ取られるなんて、そんなの聞いたこともない。
いくら考えに耽っても何一つ分からないじまい。
でもーーーー
「セドリック様、かっこよかったなぁ」
拳で攻撃するキャラは昔から好きで、ゲームの戦闘では一番爽快感が感じられてよく使用していた。
軽い身のこなしに加えて、丈が長めの衣装や、装飾があしらわれていると眼福極まりない。
勿論、この世界は剣と魔法のファンタジーだから剣を振るうアラン様もかっこいいけど!!
でも肝心の乙女ゲームのイベントの進捗は芳しくない。
このままでは誰のルートにも入らずに頓挫してしまいそうだ。
……やっぱり、あの二人に会いに行くべきかしら。
アリスティアは頭の中でそう考えると、まるで幼い子供が見せるような愛嬌に満ち溢れた笑みを見せたのであった。
それは突然の出来事。授業が終わり帰路を歩いている最中、突如アリスティアに呼び止められる。
何か面倒事を押し付けられるのではないか、それとも巻き込まれるのではないのか。なんて懸念を抱きながらエリオットは振り返る。
「あれ、アリスティアどうしたの?」
エリオットが口を開く前に、フレディは不思議そうに首を傾げ言葉を発した。
するとアリスティアは少々恥じらいをみせながら、柔らかく微笑を浮かべる。
普段のアリスティアのイメージとは異なるその表情を見て、思わず心臓が跳ねたーーそんな気がした。
いや、普通に気の所為だ。気の所為。
「実はエリオット様にお礼を言いたくて」
「え、エルに?」
フレディはエリオットへ顔を向ける。
しかしエリオットは何かお礼を言われるようなことをした覚えはなく、呆然と二人で顔を見合わせた。
アリスティアは二人の様子を見てくすくすと笑うと胸に手を当て「セドリック様から聞きました。エリオット様がセドリック様に知らせてくれたお陰で、私は制裁を受けることがなく怪我一つせずにいられました」と再度笑った。
その言葉に「あ」言葉を漏らす。空き教室で隠れている時のことを思い出し、その時セドリックはアリスティアにそんな会話をしていたと。
……正直あの騒動の後で完全に忘れていた。
「それだけですわ。ではわたくしは失礼します」
上機嫌な様子でアリスティアは女子寮へ続く道を歩いていった。
二人残されたこの場で横にいるフレディは笑った。
「エル、アリスティアのこと苦手って言ってたけど優しいね」
なんて、笑うフレディを見てエリオットは不可抗力だと唇を尖らせる。
「別に、あれはたまたまセドリックに会ったから言っただけだよ」
「でも、不審なことを伝えることは優しさだと思うよ」
……確かにフレディの言う通りかもしれないと、無意識にエリオットは目を伏せた。
現代はこれといって争いもなく平和な日常が流れているが、昔は違った。
一つでも不審な芽を摘む事が出来なければ、それが次第に国を揺るがす大事件に発展ーーなんていう事件もあったのだ。……まぁ、それは事前に防いだのだが、件の呪具は辺境の村に蔓延したのは今や歴史上から消えているに等しい。
「でもアリスティア……元気そうで良かったね」
憂いを帯びた表情は夕焼けに溶ける。
エリオットは特に言葉という言葉を述べずに「……そうだな」と短く返事をした。
実際のところ魔力の暴走の原因は不明であり、恐らくアリスティアの不手際として処理されるであろう。
転校生は入学試験よりも遥かに難易度が高いとされる編入試験を受け、そうしてこの学園の門をくぐることが出来るのだ。
それに加えて希少と言われる光属性の持ち主。当人のプレッシャーも、周りからの重圧も計り知れない。そんな最中起こった事件。
ーーーー何も起こらなければいいんだが。
エリオットは無意識に女子寮の方へ視線を向けた。
◇◇◇
夜の帳が落ちた頃、夜食として簡単にレトルトカレーを作っている最中ーーふと校舎の方へと目をやる。
ここからでは校舎はよく見えないが、あの違和感の正体とアリスティアの魔力の暴走に因果関係がある様な気がしてならなかった。
それは思考を巡らす度に深まっていく、が。答えは導き出せずにいる。
だが答えはきっとあの違和感にある。黙示録の異変とーーーー微かに感じた魔力の残滓。それは何処かで感じたことのある魔力だった。
茹で上がったレトルトカレーを白米を乗せた皿へよそうと、歴史本を手に取る。
この世界の表向きの歴史では、シグルドが魔神王を倒し世界に平和をもたらした結果自然も蘇り、あの時代と比べると災厄の予兆も事件もない平和そのもの。
魔法もあの頃に比べたら扱える人も増え、貧富の差も埋まってきている。が、何処か腑に落ちない。
何かを忘れているような気がしてならないのだ。
黙示録についてーー何か、重要なことをーーーーそれは忘れてはいけなかったはずなのに。
◇◇◇
「……今日は一体どうしたのかしら、突然魔力が暴走するなんて」
部屋で一人、アリスティアは自分の両手を正視していた。
今まで魔力が暴走することなんてなかった。それは魔力が覚醒した幼少期でさえ。だからこそ魔力操作も意図も簡単に操作出来た。
同じ歳の子が苦戦している最中、一発で成功してしまったのだから少々周りの目が痛かったけれど。
だから魔力が暴走する予兆……とは言えないかもだけど、突然誰かに杖を握られ魔法の主導権を乗っ取られたーーーーそんな気がしてならない。
だけど、そんなことが可能なのだろうか。魔法陣の主導権を取られることは実際昔あったようだけど、杖を握られるだけで主導権が第三者に移るーーなんて。
魔法陣に関しては式を書き換えたから成し得た技である。だからこそ式などが存在しないーー否可視化されていない杖を媒介としてーーーー
「あ~もうっ! 分からないわよ!!」
アリスティアは希少である光属性の魔法が扱えるとはいえ、その威力は現時点では高くない。乗っ取るとしてもメリットは無いに等しいのだ。
もし乗っ取るのならアラン様やディラン様、或いは他の特待生を選択すべきだ。
例え何かしらの制限があったとしても、条件に合う者が一人くらいいるだろう。
だけどもし乗っ取って何かをする、というよりーーーー
「……騒動を起こし、場を混乱させるため……とか?」
核心に迫った気がしたが、違うと頭を振る。
もしそうだとしても学園内では不審者どころか、監視カメラには何一つ不審な者は映り込んでいなかったと先生たちが言っていた。
見えないーーという代名詞はお化けーー所謂幽霊だが。実態を持たない幽霊に乗っ取られるなんて、そんなの聞いたこともない。
いくら考えに耽っても何一つ分からないじまい。
でもーーーー
「セドリック様、かっこよかったなぁ」
拳で攻撃するキャラは昔から好きで、ゲームの戦闘では一番爽快感が感じられてよく使用していた。
軽い身のこなしに加えて、丈が長めの衣装や、装飾があしらわれていると眼福極まりない。
勿論、この世界は剣と魔法のファンタジーだから剣を振るうアラン様もかっこいいけど!!
でも肝心の乙女ゲームのイベントの進捗は芳しくない。
このままでは誰のルートにも入らずに頓挫してしまいそうだ。
……やっぱり、あの二人に会いに行くべきかしら。
アリスティアは頭の中でそう考えると、まるで幼い子供が見せるような愛嬌に満ち溢れた笑みを見せたのであった。
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