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第一部
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生徒会室を飛び出したリルは目的の人物ーーエリオットを探していた。
特待生で尚且つ一年生の中で類まれなる頭脳の持ち主。そんなエリオットはどの委員会にも属していないイレギュラー中のイレギュラー。
彼ならば条件に当てはまる。アランと同等ーーいやそれを上回る頭脳を持ち、他の委員会に属してはいない。エリオット以外の適任者なんて考えられない。
教室へと赴いたが、どうやら今は昼時のようで姿は見当たらなかった。
セドリックとアリスティアの姿を見えないことを踏まえると、恐らく今日は食堂にて共に食事を摂っているのだろう。
「本当、あの四人は仲がいいなぁ……」
あの四人は一年生の中では特殊な部類。普段の様子では全くそうには見えない、しかし遠回しに距離を置かれている四人だ。
元いじめられっ子であるエリオットと転校生のアリスティアの二人は全く気が付いていないだろうが。後の二人はそこはかとなく感じ取っているはずだ。特にフレディは。
さて、食堂にいるのなら好機と捉えていいと思う。あの場ならば僕が彼と顔を合わせたとしても、変に警戒されることはない。ーーーーフレディ以外は。
「……どうしても、フレくんが邪魔かにゃ」
エリオットこと、エルくんを大事に大事に閉まっておきたいフレディの目の前でこの話を切り出すのは……考えなくても結果は言わずもがな。
できることならば一人でいる時に話を切り出したいが……果たしてそんなタイミングはあるのだろうか。
『そんな難しい顔してどうしたのさ。顔がしわくちゃになっちゃうよ?』
突如後方から響く声。リルは呆れを隠さずため息を漏らす。
「今は忙しいんだ。用事がないのならどっかに行ってくれ」
姿形が見えない彼に向かって言葉を吐く。
傍から見れば僕は一人でぶつぶつ喋ってる異常者だ。幸い周辺に生徒はいないが。
一先ず食堂での様子を見てからエリオットとの接触を考えようと再度脚を動かしたーー刹那ーー
『いいの? アレ放っておいて』
ーーーーアレ?
後ろから伸ばされた透き通った腕の指先が指す方向へ顔を向ける。
食堂へと続く廊下。それをじっと凝視すると、形容し難い何者かの気配がこちらまで吹き込んでくる。
「……まさかっ!!」
もう動き出したのか!?
リルは背後から聞こえる笑い声に耳を傾けることも無く、ただひたすら走る。何事かと此方を伺う生徒の様子を気にも止めずに。ただひたすら一直線を描くようにして食堂へと走る。
「何処だっ……!」
食堂の入口へと辿り着くと、肩で呼吸をしながら眼鏡を外す。煌めく宝石眼で辺りを凝視する。
あの日、アリスティアの魔力を暴走させた元凶と思われる気配に魔力。リルは確かにそれを感じ取っていた。
だが……。
『あーあ、逃げられちゃったね』
相手の方が上手のようだ。魔力の残滓は綺麗さっぱり無くなってしまっている。
残念残念と、彼は笑う。今この場で小突いてやりたいが彼の姿はリル以外見えていない。そもそもリルでさえ、今は身体に触れることも不可能だ。
そんなに笑っている余裕があるのならば手伝ってほしいくらいだ。けれど彼は絶対に手を貸さない。彼はそういう存在だからだ。
「……本当に逃げ足の早いやつだな」
早急にどうにかしたいが、ラディーくんという手札を切るには依然として早い。
あれは諸刃の剣。もし取り逃した場合のことを考えると、確実に仕留められる決定的瞬間に切るべきだ。
「それまでに僕がどうにかしなくちゃな……」
「……そんな所で何しているんだ?」
「オスカー先生?」
『おや? 彼は確か……』
彼は生徒会の顧問で、確かエリオットのクラスの担任だ。
この学園に所属する教師は野望を……あばよくばお零れを……なんて考える者がいるが、オスカーはそういうことには全く興味のない教師だ。もちろん権力だって。それもあって生徒会顧問を担当している。
「また何か取材でもしているのか?」
「いいやぁ、今日の僕は完全オフでいるつもりにゃ」
『……にゃって、相変わらず痛い子だね』
うるさい、黙ってろ。思わず口から零れ落ちそうになる。
「オスカー先生。僕、先生に頼みごとをしたいんだ」
「お前さんがか? どうした、なにか悩みごとでも……」
オスカーの言葉に首を振る。
「悩みごとと言えば悩みごとになるかもしれない。でもこれはこの学園を……いやその中核を担っている生徒会長を助けることが出来るんだ」
リルの言葉に思い当たることがあるようで、オスカーの顔は一瞬暗くなる。
「オスカー先生だって、今の現状を打破したいと思っているはずだ。あの頑固者の自己犠牲の塊の生徒会長様を救うための手札が存在している。そのためにはオスカー先生、貴方の力が必要なんだ」
「……その手札というのは」
掛かった。釣り針に魚が食い付いた。後は言葉巧みに引き上げるだけ。
「手札は……特待生でありながら委員会に属していないオスカー先生のクラスの生徒、と言えば分かるよね」
「だが、彼はーー」
「理解っている。言いたいことは全て。彼を今から生徒会に所属させますなんて言ったら、親衛隊たちが暴徒を起こす可能性が否定出来ない。ならばそれを公にしなければいい。隠し通せばいい。なんなら表向きは人員不足のさいの助っ人という立場にさせればいい」
「…………」
「そもそも、教師も生徒も彼の特別優遇に苦言を呈している者だっているはずだ。だからといって今更特定の委員会に所属させるのもリスクがある。助っ人という形ならば、多少の期間は苦言を呈している彼らも黙るはずだ」
『へぇ、でもそれただの時間稼ぎじゃん』
うるさい、黙って聞いてろ。彼を尻目に睨み付けるとオスカーへと顔を再度向ける。
「……もし、次第に機密情報云々の関係で助っ人という形でも難しいとなったら……僕が矢面に立って事態を終息させる」
「……そんなこと、一生徒である君にやらせることなんかじゃない」
「……オスカー先生は優しいにゃぁ。僕なら大丈夫、だから先生は彼をーーエリオットをこちら側へと誘い込んでほしい。日時や場所は僕が指定するから」
リルの言葉に、そして今の現状からエリオットという手札を切るしかない。そうオスカーは理解っていた。けれど彼は……いじめという名の犯罪行為を受け休学まで追い込まれてしまった身。そうそう頷けることは出来ない。
だとしてもーー
「分かった。俺もできる限りのことはしよう」
オスカーは理解っている。
今生徒会が崩壊してしまったら、学園が揺らいでしまうことも。本来ならそんな重荷を生徒たちに背負わせるわけにはいかないことも。
だとしても、これがこの学園の当たり前。
魚は釣れた。今度はこの釣り上げた魚を使って、大物を釣り上げるだけだ。
『まぁ、そんな上手くいくわけないと思うけど』
「……そんなの、やってみないと分からないじゃないか……」
決行日は2日後。それまでに舞台と観客を用意させよう。
きっと他の委員長だって、生徒会役員たちだって、アーくんのことを心配しているのだから。
例え直ぐ了承しなかったとしても、どんな手を使ってでも僕はこの議題を決議させてみようじゃないか。
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