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第一部
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──2日後。
フレディとセドリックは委員会の仕事があると、一足早く教室を後にしていた。
だから──
「そういえば、エリオット様とこうして二人っきりなるのも初めてかもしれないですね」
だからこうしてアリスティアと二人になってしまうのは最早必然的だ。
「そうだな」
少し前のエリオットならばこの事態に辟易していただろう。しかしアリスティアに対しての耐性が付きつつある現在は奇行さえ走らなければ脅威ではない。
あの数々の奇行に火に油を注いで喜ぶような性格でなければ……きっとこの学園でも絶世の美女として称えられていただろうに。なんて、何度思ったことやら。
……だとしてもフレはやらないが。セドリックは喜んで渡そう。
「あ、エリオット様っ! セドリック様から伝言を預かっていまして」
「……伝言?」
「はい。勉強会は今度の日曜日にしないかって」
そういえばそんなようなこと言っていたな。
正直言って面倒臭いから断りたいが……断ったら断ったでそれこそ面倒臭いし──
「……いや、これは確かめるのに良い機会では……」
「え?」
「何でもない。フレの予定がなければ俺もその日で大丈夫」
「じゃあ明日にでもフレディ様にお訊ねしてみますっ!」
溢れんばかりの花を咲かすような笑顔。アリスティアは嬉しそうに携帯電話を取り出す。
「……ん?」
覗き見なんてするつもりなんて微塵もなかった。だが、ふと待ち受け画面が視界に入る。
アリスティアと……誰だ?
笑顔のアリスティアと、その隣で同じく笑っている黒髪の少女。アリスティアより年齢は幾許下に見える。
エリオットの視線に気が付いたアリスティアは「あ、この子は妹なんです」はにかんだ。
「妹さん? へぇ……アリスティアには妹さんいたんだ」
どちらかというと一人っ子か、甘やかされた末っ子だと勝手に思っていたから意外だ。
プラチナブロンドの髪の毛のアリスティアと、漆黒の髪の妹。顔立ちもあまり似ておらず、アリスティアに比べれば素朴な印象。
「そういえばお話したことなかったですね。この子はダリアと言って、わたくしにもとっても優しく接してくれて──」
「エルくん、ちょっといいかにゃ?」
後ろを振り返ると、リルが手をひらひらと振っていた。
「リル委員長、委員会の仕事は大丈夫なんですか……」
正直生徒会と風紀委員会の次に関わりたくない人物であるリル・ロンズデール。
何かやらかしたかと一瞬考えたが、心当たりというものがないエリオットは少しだけ後退りする。
リルは「うん、それは大丈夫。だから少し付き合ってほしいんだ。と~っても大事なことなんだにゃ」と笑っているが──笑ってない。
心から笑っていないんだ。表面上を繕ってるだけの笑顔。
面倒事の気配しかしない。
どう返事を返そうかと口をもごもごさせるエリオットの前に出るようにして、アリスティアは立ち塞がった。
「ごめんなさい、リル様。エリオット様は今──」
「…………分かってる。だから騒ぐな」
声は聞こえなかった。リルは何かを呟いていた声は。
微かに明後日の方向へと向いていた瞳を此方へと向ける。そして笑った。
「やあ、アリスティア。あの時振りだね」
その笑顔はエリオットではなく、アリスティアに。
「えぇ、あの時は本当にご迷惑をお掛けして……」
「ううん、気にしないで大丈夫だにゃ」
二人の様子をそっと眺める。
用事があると言っていたわりにはアリスティアと談笑を始め、この隙に逃げてしまおうかと一瞬考えてしまうが……何だか別の視線を感じる。
しかし此処にはこの場にいる三人のみ。他の人間なんていないのだ。
気の所為かと、肩を竦めたその時────
「そうそう、妹さん。とっても凄い人なんだってね」
リルが突如そう言い放った。
「────え?」
「僕もよく耳にするよ。妹さんはとても凄い発明家だと。貴族ではなく、庶民の娯楽に貢献していると」
…………話の意図が掴めない。
何故突如として娯楽の話になるのか。それを聞いて顔面蒼白のアリスティアのことも、エリオットには何一つ分からなかった。
「……り、リル……様…………それ、は────」
「確か、トランプとオセロだっけ? 僕も画期的な発明だと思うよ」
「────っ!!」
アリスティアの顔色が一気に悪化する。歯をカチカチと鳴らし、眦には涙を溜め俯いてる。それを畳み掛けるかのように「なのに──君は────」リルは────
「リル委員長っ!!」
リルの言葉をこれ以上出させまいと、エリオットは声を張った。
三人だけの廊下。声がやけに反響する。
「アリスティア、大丈夫か?」
肩に優しく手を乗せる。小さく、細い身体がビクッと反応したかと思えば──「ごめんなさい、エリオット様」
顔を俯かせたまま、独白のようにぽつりと言葉を言う。
「……わたくし、先に帰りますね」
エリオットの手を振り払うように、アリスティアはその場から立ち去った。
「アリス──」
「エルくん」
追い掛けようとするエリオットの腕を、リルは掴む。
エリオットはそれを振り払い、
「一体何の理由でアリスティアを傷付けるようなことを──」
「僕だって……」
問いただそうとした言葉を、リルは遮った。
「……僕だって、別に言いたかったわけじゃない」
「……は?」
意味が分からない。先程の二人の会話も、今のリルの言葉も。
「…………リル委員長、用事なら今度にしてください」
アリスティアを追おうと踵を返すが、またしても腕を掴まれる。
「っ! いい加減に──」
「ごめん、エルくん。僕はどうしても君に来てもらわなくてはいけない」
「その理由が分からないんだっ。アリスティアを泣かせた理由もっ!!」
「あれはっイレギュラーな事態だったんだ。まさか君が彼女と一緒にいるなんて──」
「それ、俺がいなかったら一方的に問い詰めていたってことか?」
「…………」
「俺、委員長は善悪の境界線を持っていると思ってた。それは俺が勝手に思ってただけだったのかよ……」
「…………幻滅、したかい」
「そうかもなっ」
振り払うこともなく離れた腕。エリオットはアリスティアの元へと足を踏み出した────はずだった。
────は?
──体が動かない。釘を打たれたかのように。足だけではなく、手も動かすことが出来なくなっていた。
「ごめんね、エルくん」
コツ、コツ、と足音を鳴らす。
「どうか僕のことを恨んでくれ。抗うことも出来なかった、愚かなリル・ロンズデールを」
ゆったりとした動作で眼鏡を外す。露になる宝石眼。
一体何を言いたいんだ。
声に出したい。けれど言葉が出ずに、口だけがはくはくとするだけ。
この束縛術は解除することは不可能ではないはず。だが、今解呪してしまえば……リルに実力が知られてしまう。エリオット・オズヴェルグは炎属性しか使えない──その事実が覆ってしまう。
「そして君は今から断頭台に上がるのだから」
リルが後ろから抱きつく。
数瞬景色が変わる。今までいた廊下とは別の場所に。
目の前には一つの扉。その頭上に掲げられているプレートには『会議室』
「さぁ、エルくん」
呆然と事態が飲み込めずに見上げているエリオットの腕を引き、
「観衆が待ち構えている断頭台へと、上がろうじゃないか」
そのまま誘われるかのように、扉の向こう側へと足を踏み入れた。
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