妖界四丁目不思議警察所

水守兎都

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第一章 ~所長と陰陽師~

第一話 所長との出会い (修正しました)

「…相変わらずだな。ここは…」
そう言って、男は妖界特有の血溜まりのような、
真っ赤な空を仰ぎ見る。
目に、怒りと、悔しさと、哀しみの色を
堪えながら……。

💧 💧 💧 💧 💧 💧 💧 💧 💧 💧 💧 💧

「真琴ーーー!!」
「っ、すみませんでしたー!!(泣)」

私、門界真琴(かどかいまこと)は今、
もの凄くどうでもいい理由で職場の先輩に怒られている。
しかし、ミスはミスだし、新人ということもあって、こういう時は素直に謝罪するのが一番だ。
自分で自分を慰めながら、まだまだ小言の尽きない怒り狂う人外の先輩を見つめる。
(はあぁ。何でこうなったんだろ…)
私は、四日前に起こった、今でも信じ難い出来事について思い出していた。

事の始まりは、高校時代の友人の結婚式の帰りだった。
私は酔い潰れて、足取りも危うく、今歩いている場所すら理解出来ていなかった。
だからこそ、驚いた。
本当に、突然だったのだ。
驚きすぎて、体内に溜まっていたアルコールの
全てが霧散してしまったのかというくらい、
酔いが吹き飛んでいってしまった。
この時の衝撃程、私に強烈なダメージを与えられる事はないだろう。
だって違うのだ。
目の前に広がる光景が。  ・・
私の前や後、隣を通り過ぎるモノ達が。
この大地を包み込むように広がる、血のように
真っ赤な空、その下でどんよりと漂う真っ黒な雲が。
私の住む世界と、何もかもが違う。
そう改めて認識した瞬間、今更のように体が震え出し、脳は警鐘を鳴らし始める。
恐怖に打ち拉しがれていると、
「大丈夫ですか?」
と、非常に優しげな、耳に心地良い低音の声が私の耳に届いた。
(か、神様ですかっ?)
本気でそう思った。
助けてくれるかもしれないという希望を胸に抱きながら振り返ると、
「……へっ?」
つい間抜けな声が出てしまった。
それもそうだろう。
見たこともないくらい綺麗な顔をしたイケメンが、私のすぐ後ろで心配そうな顔をしているのだ。
「う、嘘…」
思わず呟いてしまった。
「何が嘘なんですか?」
不思議そうに目を瞬きながら、彼がそう尋ねてきた。
「あっ、いえ、その…一人言なので、気にしないでくださると有難いんですが…」
と返しながら、ふと思った。
(誰だこの人…?)
そんな疑問が顔に出ていたのか、彼は、ああ、と
思い出したように自己紹介を始めた。
「いきなり申し訳ありません。
私、この世界に存在する、不思議警察所という
役所に勤めている者なのですが、何かお困りのようでしたので…」
(…よ、良かったぁ。とりあえず、警察所で働いてるっていうし、信用できるかな…)
なんて思ったのも束の間、私はその人の言葉に違和感を覚え、すぐにその原因に気付いた。
(…この世界…って、えっ、はぁ⁉どういうことっ⁉
…それに…。
警察所、じゃなくて不思議警察所…?
不思議ってなにっ⁉ふしぎって⁉)
心の中で叫んでいると、クスクスと笑い声が
聞こえた。
ハッとして前に目をやると、口元を手で覆いながら俯いている彼の姿があった。
すると、こちらの視線に気付いたのか、笑うのを止め、少し顔を上げた。しかし、目尻が下がっており、まだ、心の中では笑い声を上げていることが容易に分かった。
私はムッとして、彼を睨みながら棘のある口調で
「…何なんですか、一体。人の顔見て笑ったりして」
と、言い放つと、彼はうっと言葉に詰まって
申し訳なさそうに弁明を始めた。
「すみません。少し申し上げにくいのですが、
一人で百面相していたので、つい…。
あっ、別にそれをけなしているわけではないんですよ⁉ただ、きっと素直な方なんだろうなとも思いまして…」
おどおどしている彼を、私は半ば呆れた目で見つめつつ、観察してみた。
年の頃は、二十代後半くらいだろうか。
頭を下げる度に揺れる髪は黒く艶があり、さらさらとしている。
仁王立ちした私を映す濃紺の瞳は、彼のその白い肌に映え、とても綺麗だった。
その二重の切れ長の瞳には、
見る人に柔和な印象を与えそうな、優しい色が宿っていた。
鼻梁も整っており、よく言う「モデル顔負けのイケメン」という感じだった。
(うわー…この人絶対に女性に困った事なんてないでしょ…)
なんて、今度は恨みがましく見つめていると、
「…どうかされましたか?」
彼が困ったように言った。
「いえ、別に何でもないですよ」
「なら良かったです。少し、怖い顔をされていたものですから...」
「はい?何か言いましたか?」
聞き捨てならなかったので、にっこり笑んでそう返すと、
「すみません。何でもないです」
即、謝られた。
拍子抜けしてしまったが、私はそういえばと思い、
「あの、話は変わるんですけど、私たちお互いの
名前、知りませんよね?」
と質問を投げかけると、彼はあっという風に
そうでしたね、と微笑んだ。
この時の彼の微笑みに、ほんの少し影が落ちていたとも露知らず、私は
「はいっ、ではあなたからどうぞっ!」
と言った。
彼は少し驚いたようにして口を開いた。
「私から、ですか?」
「ん?ああ、すみません。思わず…。私から名乗るべきでしたか?」
「あっ、いえ。大丈夫です。私からで構いませんよ」
彼はわざとらしく、こほんと一つ咳払いして、再度口を開いた。
「周りの方からは『所長』と呼ばれています」
「...しょちょう...ですか?」
予想外の名前すぎね一瞬フリーズしてしまった。
というか、『しょちょう』って名前なのかという疑問まで頭を過ぎった。
んん?と首を捻っていると、
「ほら、警察所とか役所とかの『所長』ですよ」
「いや、そっちかよ!?」
思わずツッコミを入れてしまったことに、
とりあえず、すみませんと謝罪をした後、
「本名ですか?その『所長』って」
と尋ねると、所長さんは少し複雑そうな顔を
したので、
「やっぱりいいですよ、言わなくて」
と言い直した。
所長さんは、ほっとした表情で
「…ありがとうございます…」
所長さんはほっとした表情で呟いた。
「大丈夫ですよ。私、そこまで失礼な人じゃないので。気にしないでください。
あっ!そういえば、私の名前、門界(かどかい)です。門界真琴」
そう言うと、所長さんは目を瞠り、じっと私を
見つめてきた。
(…な、何…?)
イケメンに見つめられて、冷静でいられる私ではない。
(う~‼はやく目逸らしてよ‼)
心の中で叫んでいると、いきなり、肩をガシッと掴まれた。
「うわぁ⁉」
びっくりして顔を上げると、所長さんが真剣な目でこちらを見ていた。
次の瞬間、とんでもないことを口にした。
「真琴さんっ‼うちの警察所で働いてください!」
「はっ⁉」
「お願いします。本当に、今、人員不足なんです!お願いします!」
「はいっ⁉」
(いや、意味分かんないし!何この人⁉)
いきなり言われたことに、脳内処理が追いつかず、惚けていると、
「いいですよね!大丈夫ですよね⁉」
所長さんが強引に話を進めようとしたのに
危機感を感じて、
「ス、ストップ!!ちょっと待ってください!」
一度黙ってもらい、う~んと転職について考えてみた。
実は今、たった一年しか勤めていない職場で同僚からはぶられていて
仕事が一向に進まないのだ。
何が原因かは知らないが、このままじゃ困る。
しかし、手続きやら面接やら色々な問題があるので、簡単には転職できない。
「…どうしよう…」
ぼそっと呟くと、そこに漬け込むように、所長さんが
「こちらへ転職する際のことは全て私がやっておきますから!ね⁉」
私は、あまりの気迫に思わずこくんと頷いてしまった。
それから、私の平凡だった人生は、所長という
イケメンさんによって幕を閉じられ、摩訶不思議な妖の世界、妖界へと就職し、
新たな人生が幕を開けたのだった。
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