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「俺と飯食ってる時にFGOの周回しないでよ」(3)
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「あれ、椿ちゃんに……おや、知らない子供まで。いつの間に?」
目の前のおじさん、もとい隣の部屋の相楽さんはいつも通り気だるげな顔でボクたちを見つめていた。
ボクが言えることではないが、このおじさんは普段何をして生きているのか、隣人ながら全くわからない。
……いやボクは一応ネットにイラストをアップしたりリクエストに答えてお金貰ったりしてるけどね?
「オレ、メメメって言うんだ! おじさん隣に住んでるんでしょ? よろしく!」
「おうおう、いい子ちゃんじゃないの。そうだ、たけのこの里あげちゃおうね」
そうしてボクが心の中で虚空に向かって反論してみせている間に、しれっとメメメは相楽さんと仲良くなっていた。
ぐわ、社会に出てもコイツはボクの上を行くというのか……!
いやいや、やめよう。
ガキと自分を比較するのは何も良いことに結びつかないと、この5分ほどでよくよく学んだはずじゃないか。
ここはひとまず落ち着いて「いやぁ~~最近よく会いますね! じゃ、そういうことで!」の二言会話終了プランでいこう。うん、それがいい。
「ところで朝陽ちゃんは? 一緒じゃないの?」
「ミ゜」
……終わった。
「いやいや。コイツさぁ、よりによって朝陽と喧嘩してんだよ。そんで今から追いかけに行くところ」
「ええっ!? 喧嘩!? 二人とも仲良さそうだったのに……」
メメメによる追撃が加わり、ボクの恥は相楽さんにまで晒され、きっとこの後噂となってこの街中を駆け巡り、最後は千の風となってボクの墓場に吹き荒れることだろう。
「あ、あの……すみません、本当に、生きていて恥ずかしい人間で……」
俯きながらボソボソ呟くボクの声など聞こえていないような相楽さんは、普段の気だるげな印象のまま話を続けた。
「……朝陽ちゃんとさ、ついさっき会ったんだよね。夕方くらいに」
「えっ?」
ボクの知らない朝陽とのエピソードに、思わず顔が上がった。
そこで今日初めてまともに見た相楽さんの顔つきはちょっとだけ、ボクらのことを心配してくれているようにも見えた。
「『今日はコロッケ作るんです!』って笑顔で話してくれるから、そんなに料理頑張ってて偉いねって俺ちゃん言ったわけ」
「…………」
「そしたらさ、朝陽ちゃん満面の笑顔で『だって、椿と一緒に元気でいたいですから!』って言うんだよ」
………………そんなことを、言っていたのか。
「俺ちゃん、ちょっと泣きそうになっちゃって」
相楽さんの感想は今はどうでもいいので無視しておこう。
「どんな喧嘩か知らないけど……俺ちゃんもお隣さんが元気に笑ってる方が嬉しいからさ。上手く仲直りできるといいな」
そう言うと、相楽さんはボクにもたけのこの里(小さな袋で個包装されているやつだ)を渡してくれた。
「ありがとう、ございます。頑張ります」
相変わらず俯きながら、しかし当社比3割増しでボクは顔を上げて返事をした。
そうして話を終えて隣の部屋に帰っていく相楽さんの背中に、思い切って言葉を投げかけてみる。
「…………あの、相楽さん」
「ん、どうした?」
「ピカチュウに対して食欲って、湧きます?」
「うーん……俺ちゃんはシビビールが限度かな」
相楽さんはそうして部屋のドアを閉めた。
シビビールがどういうラインなのかは1ミリもわからないが、彼なりに真面目に答えてくれたのだと思いたかった。
× × ×
「……なぁ、これどこ向かってんだ?」
相楽さんとの遭遇を終え、ボクとメメメは5分ほど住宅街を歩いていた。
無論、向かっているのは朝陽がいる場所……もとい、いそうな場所へである。
……しかし、なんとなく朝陽がいる場所の見当はついていた。
しばらく歩くと、駅が近くなったせいか明るい光と品の無い喧噪がにわかに増え始める。
ボクの嫌いな、夜の街の喧噪だ。
そんな騒がしさからは少し道を外れたところにある、少し薄暗い路地に入った先。
ぼんやりと、けれども優しい光が、そのマンションの入り口を照らしていた。
「────やっぱりここにいたか、朝陽」
「…………うん」
マンションの入り口、自動ドアで区切られたエントランスホールの隅っこに、朝陽は丸く縮こまっていた。
ボクら二人が初めて出会った小学1年生の時、朝陽は両親と共にこのマンションに住んでいた。
ボクは度々このマンションに遊びに来ては、朝陽を呼び出していたわけだ。
そこで一緒に集まってはポケモンをしたり、川島教授の脳トレクイズをしたり、マリオカートをしたりしていたわけなのだが……ボクはゲーム以外の娯楽を知らなかったので、このエントランスホールに二人で身を寄せ合って過ごしていた。
今でもこのマンションは変わらない。だから、朝陽が何かあって身を寄せるとしたら……それはここなんじゃないかという直感があった。
逆に言えば、それしかなかったとも言えるけど。
「その、遅くなってごめん。途中このガキがクローゼットにいたり、相楽さんと会ったりして時間かかっちゃって……」
────いやいやいやいやそうじゃない! なんで言い訳から入るんだボクという愚か者は!
「え、だ、大丈夫……?」
自己否定のために頭をブンブン振っていたら被害者のはずの朝陽に心配された。ごめん、でもそうじゃないんだ。
自分の身の回りにある色んなしがらみやタスクを一旦振りほどく。
今は、ちゃんとしなきゃいけない時だ。
「……その、改めて、ちゃんと言わなきゃいけないなって思ってることがあって」
「……………………」
周りはもう見えない。後ろにいるであろうメメメのことも、これからこのエントランスを通るであろうここの住人のことも、今は考えない。
ただ、自分の言うべきことに真摯であれ。
そうじゃなけりゃ、ボクじゃない。
「朝陽にさっきのこと、謝らせてほしい────」
目の前のおじさん、もとい隣の部屋の相楽さんはいつも通り気だるげな顔でボクたちを見つめていた。
ボクが言えることではないが、このおじさんは普段何をして生きているのか、隣人ながら全くわからない。
……いやボクは一応ネットにイラストをアップしたりリクエストに答えてお金貰ったりしてるけどね?
「オレ、メメメって言うんだ! おじさん隣に住んでるんでしょ? よろしく!」
「おうおう、いい子ちゃんじゃないの。そうだ、たけのこの里あげちゃおうね」
そうしてボクが心の中で虚空に向かって反論してみせている間に、しれっとメメメは相楽さんと仲良くなっていた。
ぐわ、社会に出てもコイツはボクの上を行くというのか……!
いやいや、やめよう。
ガキと自分を比較するのは何も良いことに結びつかないと、この5分ほどでよくよく学んだはずじゃないか。
ここはひとまず落ち着いて「いやぁ~~最近よく会いますね! じゃ、そういうことで!」の二言会話終了プランでいこう。うん、それがいい。
「ところで朝陽ちゃんは? 一緒じゃないの?」
「ミ゜」
……終わった。
「いやいや。コイツさぁ、よりによって朝陽と喧嘩してんだよ。そんで今から追いかけに行くところ」
「ええっ!? 喧嘩!? 二人とも仲良さそうだったのに……」
メメメによる追撃が加わり、ボクの恥は相楽さんにまで晒され、きっとこの後噂となってこの街中を駆け巡り、最後は千の風となってボクの墓場に吹き荒れることだろう。
「あ、あの……すみません、本当に、生きていて恥ずかしい人間で……」
俯きながらボソボソ呟くボクの声など聞こえていないような相楽さんは、普段の気だるげな印象のまま話を続けた。
「……朝陽ちゃんとさ、ついさっき会ったんだよね。夕方くらいに」
「えっ?」
ボクの知らない朝陽とのエピソードに、思わず顔が上がった。
そこで今日初めてまともに見た相楽さんの顔つきはちょっとだけ、ボクらのことを心配してくれているようにも見えた。
「『今日はコロッケ作るんです!』って笑顔で話してくれるから、そんなに料理頑張ってて偉いねって俺ちゃん言ったわけ」
「…………」
「そしたらさ、朝陽ちゃん満面の笑顔で『だって、椿と一緒に元気でいたいですから!』って言うんだよ」
………………そんなことを、言っていたのか。
「俺ちゃん、ちょっと泣きそうになっちゃって」
相楽さんの感想は今はどうでもいいので無視しておこう。
「どんな喧嘩か知らないけど……俺ちゃんもお隣さんが元気に笑ってる方が嬉しいからさ。上手く仲直りできるといいな」
そう言うと、相楽さんはボクにもたけのこの里(小さな袋で個包装されているやつだ)を渡してくれた。
「ありがとう、ございます。頑張ります」
相変わらず俯きながら、しかし当社比3割増しでボクは顔を上げて返事をした。
そうして話を終えて隣の部屋に帰っていく相楽さんの背中に、思い切って言葉を投げかけてみる。
「…………あの、相楽さん」
「ん、どうした?」
「ピカチュウに対して食欲って、湧きます?」
「うーん……俺ちゃんはシビビールが限度かな」
相楽さんはそうして部屋のドアを閉めた。
シビビールがどういうラインなのかは1ミリもわからないが、彼なりに真面目に答えてくれたのだと思いたかった。
× × ×
「……なぁ、これどこ向かってんだ?」
相楽さんとの遭遇を終え、ボクとメメメは5分ほど住宅街を歩いていた。
無論、向かっているのは朝陽がいる場所……もとい、いそうな場所へである。
……しかし、なんとなく朝陽がいる場所の見当はついていた。
しばらく歩くと、駅が近くなったせいか明るい光と品の無い喧噪がにわかに増え始める。
ボクの嫌いな、夜の街の喧噪だ。
そんな騒がしさからは少し道を外れたところにある、少し薄暗い路地に入った先。
ぼんやりと、けれども優しい光が、そのマンションの入り口を照らしていた。
「────やっぱりここにいたか、朝陽」
「…………うん」
マンションの入り口、自動ドアで区切られたエントランスホールの隅っこに、朝陽は丸く縮こまっていた。
ボクら二人が初めて出会った小学1年生の時、朝陽は両親と共にこのマンションに住んでいた。
ボクは度々このマンションに遊びに来ては、朝陽を呼び出していたわけだ。
そこで一緒に集まってはポケモンをしたり、川島教授の脳トレクイズをしたり、マリオカートをしたりしていたわけなのだが……ボクはゲーム以外の娯楽を知らなかったので、このエントランスホールに二人で身を寄せ合って過ごしていた。
今でもこのマンションは変わらない。だから、朝陽が何かあって身を寄せるとしたら……それはここなんじゃないかという直感があった。
逆に言えば、それしかなかったとも言えるけど。
「その、遅くなってごめん。途中このガキがクローゼットにいたり、相楽さんと会ったりして時間かかっちゃって……」
────いやいやいやいやそうじゃない! なんで言い訳から入るんだボクという愚か者は!
「え、だ、大丈夫……?」
自己否定のために頭をブンブン振っていたら被害者のはずの朝陽に心配された。ごめん、でもそうじゃないんだ。
自分の身の回りにある色んなしがらみやタスクを一旦振りほどく。
今は、ちゃんとしなきゃいけない時だ。
「……その、改めて、ちゃんと言わなきゃいけないなって思ってることがあって」
「……………………」
周りはもう見えない。後ろにいるであろうメメメのことも、これからこのエントランスを通るであろうここの住人のことも、今は考えない。
ただ、自分の言うべきことに真摯であれ。
そうじゃなけりゃ、ボクじゃない。
「朝陽にさっきのこと、謝らせてほしい────」
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