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34.ちょっとヤバいかも
しおりを挟む俺の攻撃に尻餅を付いた奴を見ると、目に涙を浮かべていた。こいつの事は見た事はあるけど名前は知らない。同じクラスじゃないのは確かだな。
そして隣にいる羽賀を見る。羽賀はさっきと体勢を変えずに、鉄パイプを前に向けたままブルブル震えながらそこにいた。もう立ってるのがやっとって感じだな。
羽賀の後ろにいる城之内は今の光景を見て呆れたように言う。
「あーあ、早くやらねぇからこうなるんだ。おら羽賀ぁ!お前はそれ持ってんだからやられんなよ!」
「羽賀、それを使うのは辞めとけ。お前ならまだまともにやっていけるから。今ここで俺には殴られるけどな」
「…………」
城之内と俺の言葉を聞いて羽賀の顔色がどんどん悪くなるのが分かった。
慣れてねぇのにこう言う事に首突っ込むからこうなるんだ。俺はクラスメイトだからって助けたりそんな優しい事はしねぇ。今はここにいる全員、いや、ここにいなくても恋のいじめに加担した奴らはみんな殺るもりだ。
「……えで」
「ん?なんか言ったか?」
隣から小さな声が聞こえたから耳を傾ける。なんて言ったのか分からないぐらい小さくて震えた声だった。羽賀が泣いていた。さすがにギョッとして話を聞いてやる事にした。
「楓、ごめんっ……でも、俺、本気だったんだっ……恋の事っ」
「それなら何で虐めたりしたんだよ?アホか」
「だってっ……楓に冷たくされてたからっ見てられなくて俺が側にいてやりてぇって思って……そしたら恋もその気があるような感じだったしっ……でも、大晦日の日……お前から電話来て、そのままお前のとこに行っちまった……俺は、許せなくて……だからっ」
「あー、全部俺のせいじゃん」
何となく分かってた理由に、俺はため息をつく。だからって好きな奴を苦しめるような事するのは間違ってんだろ。って、俺も恋には同じような事したしこれは言えなかったけどな。
とにかく鼻水まで垂らしながらボロボロ泣く羽賀には鉄パイプを振って欲しくないと思った。そのままならまだ羽賀は普通に高校を出てやって行けるからだ。ここで鉄パイプを振って俺を殴りでもしたらそれこそ人生が変わるだろう。それでも何とも思わずに変わらないって言う奴は頭おかしい奴ぐらいだ。
「そうだよっ!お前が恋を苦しめるから悪いんだ!」
「じゃあお互い苦しめた者同士遊ぶか?俺はいいけど、お前じゃ勝てないよ」
「……やる!」
「へー、まぁいいけど」
泣きじゃくりながら本音を俺にぶつけた羽賀に確認をすると、俺をキッと睨んで鉄パイプを握り直した。その心意気は認めるけど、まだ武器を使おうとしてる所がダセェな。
そのまま俺は羽賀が動くのを待ってると、真後ろから雄叫びのような大きな声がした。そしてその直後に後頭部に重い衝撃があり、一瞬何が起こったのか脳が働かなかった。
すぐに顔だけ振り向くとそこには今にも泣き出しそうな怯えた顔の他の一年が羽賀同様ブルブル震える手で鉄パイプを握って立っていた。
あ、それで俺を殴ったのか。
何が起きたのか理解したけど、すぐに頭がクラっとして地面に膝を付いてしまった。
不意打ちで鉄パイプで頭を殴られて、意識があるのは幸いと思うべきか。でもビビったのか中途半端な力加減だったな。これで相手が城之内だったら何が起こったのかも分からずぶっ倒れてたんじゃないか。
あ、そんな事考えてる場合じゃねぇか。
今の俺ちょっとヤバいかも。
「ひゃはは!ザマァみろだぜ!おい羽賀!そのままトドメ刺しちまえ!」
「ひっ!!」
地面に膝を付いて頭をクラクラさせてる俺を見て怖気づく羽賀。これで羽賀や他の奴にもう一撃食らったらさすがにアウトだな。
でも、こんな事を考えていられるんだからまだやれるか……
俺はとにかく不利な体勢のままではまずいと無理矢理立ち上がり、今度は目の前の羽賀だけじゃなくて周りの奴らにも警戒する。二人は鉄パイプ、もう一人は素手。城之内は羽賀の奥にいて鉄パイプを持っている。
さぁどう切り抜ける俺。
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