57 / 178
1章 写真ばら撒き事件
※神凪葵という人物を
しおりを挟む※詩音side
葵くんと廊下を歩くといつも以上に見られているって分かる。
僕と葵くんが有名なのはお互い分かっているけど、葵くんと歩く時は別格だなー。
なんか、憧れの眼差しの他にもあるんだよね。恐怖とか恐れみたいな目も。
葵くんは気にしてないみたいだけど、僕には慣れない視線だから少し居心地が悪かった。
そしてそんな僕らが辿り着いた場所は職員室。
教頭先生に会いに来たんだ。
「失礼します」
葵くんはいつも通りに中に入って行く。僕も後を追うように入る。
中には次の授業へ向かった先生達が多いのか数人の先生しかいなかった。
そして僕達に気付いた教頭先生が声を掛けてくれた。
「やあ神凪くんに薗田くん。どうしたのかな?もうすぐ授業始まるぞー?」
相変わらずな細目でニッコリ笑っている陽気なおじさん。教頭先生は良い人で僕が演劇部にいた頃も良く覗きに来てくれていた。
さっきの僕達の生放送を聞いていた筈なのにこの対応とはさすが教頭先生だと言うべきか。
「折り入って話があるのですが、お時間頂けますでしょうか?」
「神凪くんの話なら聞かない訳には行かないね!二人共こちらへどうぞ」
葵くんの言う事をすんなり受け入れる教頭先生は、僕達を職員室の奥の部屋に連れて行った。
ここは校長室の筈だが、校長先生は不在らしく誰もいなかった。
そして教頭先生は僕達二人をソファに並んで座らせて、自分は対面側に座った。
終始ニコニコ細い目で笑っていた。
白髪混じりのふさふさの髪にキチンと着こなしたスーツ姿は誰がどう見ても好印象。中年よりやや上ぐらいに見えるが、実際の年齢は誰も知らない。
教頭先生は物分かりの良い先生で、いつも僕達の話を親身に聞いていた。
ここで午後の授業が始まる鐘が鳴った。
もちろん教頭先生にも聞こえている。
生徒会長の葵くんは特別なんだ。だから一緒にいる僕もこうして何も言われずにここにいられる訳だ。
「教頭先生は、先程の私達の演説を聞いてどう思われましたか?」
「いや~、さすがと言うべきか、相変わらず神凪くんは面白いなぁと思いましたよ」
あははとまるで友達と話すかのように笑っている教頭先生。いや、声をあげなくてもずっとニコニコ笑ってるんだこの人は。
「具体的な感想をお聞きしたいのですが、答えてもらえますか?」
「そうだね、まずは薗田くんの演説についての感想だが、僕としてはこの学校の文化祭の名物にもなっている演劇部には是非とも成功させてもらいたい。だけど、薗田くん本人がああ言うなら仕方ないんじゃないかな。僕は部活に関してはそれぞれの顧問の先生達に任せているから、どうするかは部活内で話し合ってもらいたいと思っているよ」
「ありがとうございます。僕も後輩達に少し意地悪をし過ぎたと感じる部分もありますので、今一度話し合ってみます」
「うん。引退したのに悪いね」
「では、私の提案についてはどうですか?」
僕の方のは予想通りの答えが返って来たかな。
教頭先生からしたら演劇部の内輪揉め程度にしか思ってないんだろうけど。
今度は葵くんの番だった。
これは僕も気になる。
教頭先生は変わらない様子で話し始めた。
「神凪くんの言ってた提案は、前にも聞いた内容だったね。でもこればかりは僕の一存では決められないから今は何も言えないかな」
「なら、教頭先生自身の意見をお聞きしても?」
「僕の意見ね……いいんじゃないかな。高校生だろうと生きていれば必ずどこかで人を好きになる事はあるしね。その時の立場や場所などを考えて二人が行動していれば特に処罰する必要はないと僕は思うけどね。けど、さっきも言った通り僕一人の意見で変えられる物じゃないんだ。これは分かってくれるよね?」
「勿論です。答えて頂いてありがとうございます。では、次に教頭先生にお願いがあるのですが聞いてもらえますか?」
教頭先生の答えに葵くんは素直に頷いて、更に言葉を繋げた。
ぐいぐい行くね~。全く動じずいつもの葵くんに僕は隣でワクワクしていたよ。
「なんだい?神凪くん」
「今現在二人が謹慎処分を受けていると思いますが、もしまた登校してくる事になった時、二人の為に教頭先生が直々に授業をしていただきたいのです。空いた時間、数分でもいいんです。私の中で一番心に響く言葉を持っているのは教頭先生だと思っています。どうか前向きに考えてもらえませんでしょうか」
「これは驚いたな!まさかそんなお願いをされるなんてね。あはは!神凪くんはやっぱり面白いね!うん、分かった。ちゃんと考えてみるよ。そうそう、二人のこの後なんだけど昨日の会議で決まったんだ。今日中に二人には担任の先生から連絡が入ると思うんだけど、これはもう決まった事だから文句言うのは無しだよ?」
「はい。その件については私からは何も言えません。教頭先生、お忙しい中お話しを聞いて下さりありがとうございました」
「僕も、久しぶりに教頭先生とお話しが出来て嬉しかったです。これからも演劇部の様子見に行ってあげてくださいね」
それぞれ挨拶を済ませて校長室から廊下に出る。
葵くんの最後に言ったお願いには驚いたな。
まさかそんな事を考えていたなんて。まぁ二人の為になるならいいと思うけど、まったく何を考えているのか親友の僕でも分からなくなる事があるよ。
「さっきのは二人の為を思ってなのかな?」
「好きに捉えてくれて構わない。特に秋山は私の指導対象だ。これから先私は生徒会長の名も取れて本格的に受験モードに入るからな。出来る事が限られてしまう前に先手を打っておこうと思っただけだ」
「ふふ、なんだかんだ優しいんだよね葵くんて♪もっと普通に話したらいいのに、葵くんの良さって分かりにくいからみんなに誤解されるんじゃないか」
「それでも私は不自由していない。ならこのままでも問題ないだろう」
「僕達は良いけど、もっとみんなにも知ってもらいたいなって思うよ。神凪葵という人物を」
「そんな必要は無い。詩音や梓に分かってもらえていればそれで十分だ」
僕達の知る葵くんはきっとみんなが知ってる葵くんとは違う。
本当はとても優しくて面倒見の良い男なんだ。
それを知ってもらえたらきっとこの学校の誰よりも人気者になれるのに。
僕は葵くんと久しぶりにこうしていられる事が嬉しくていた。ここに梓もいたら良かったのに……
でもそれは言わない。
諦める第一歩だ。
10
あなたにおすすめの小説
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は未定
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
・本格的に嫌われ始めるのは2章から
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる