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1章 写真ばら撒き事件
知らなかった伊織を知れて嬉しい
しおりを挟む空から送られて来た動画での紘夢の謝罪を聞いて俺はすぐに紘夢に電話を掛けるけど、出なかった。
紘夢の奴、ちゃんと謝れてたけど、最後のは何だよ!俺には学校を辞めるなんて言ってなかったぞ!
「くそ!あいつ出ねぇじゃん!」
「…………」
「伊織!俺ちょっと紘夢んとこ行ってくる!」
「やめとけよ。貴哉が行っても追い返されるだけだ」
「だって、あいつ学校辞めるって言ってんだぞ!」
「確かに、さっきの謝罪は本当っぽいよな。紘夢があんな事言うなんて思わなかった」
俺と一緒に聞いていた伊織はずっと黙って大人しくしていた。
今も落ち着いていて、飛び出そうとしている俺を止めた。
そうだ!他の奴に電話して紘夢の奴を止めてもらおう!
戸塚がいいか!?
すると、伊織は俺の腕を引いて俺を自分の方へ引き寄せた。
「おい何だよ伊織」
「学校の事は学校の奴らに任せりゃいい。俺らが何か言っても何も変わらねぇよ」
「そんなの分かんねぇじゃん!てか伊織は紘夢と友達じゃねぇのかよ!助けたいと思わねぇのかよ!」
「友達なのかは分からねぇ。でも、助けたいとは思わないかな。だってあいつ誰かの助けとか必要ねぇだろ」
「お前分かってねぇな!」
「分かってねぇのは貴哉の方だ。もっと紘夢を信じろよ。あいつは大丈夫だ。俺はそう信じてる」
「……伊織」
俺を見る伊織の目は真っ直ぐで、何も言い返せなかった。
そりゃ俺が行った所でってのは分かる!
でも心配じゃんか!
やっとみんなに謝れて普通に過ごせるかと思ってたのに!
俺はいたたまれなくなって、伊織の腕を振り払った。
「貴哉、それよりもさっきの続きだけど」
「悪ぃ、今その話したくねぇ」
「…………」
「てか帰れよ。一人になりてぇんだ」
そう言うと、伊織は大きな溜息をついた。
そして悲しそうに笑った。
「紘夢の心配はするのに、俺の心配はしないんだな」
「お前は大丈夫だろ。強いから。周りにもたくさん仲間がいるし」
「何それ?俺は大丈夫?強い?たくさん仲間がいる?俺の事分かってねぇからんな事言えんだ」
「あ?何だよその言い方?喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩売ってんのは貴哉の方だ!好きな奴に振られて大丈夫な訳ねぇだろ!好きな奴も守れねぇぐらい弱ぇし、仲間なんかいない!」
伊織は俺に向かって怒鳴った。
こんな伊織は初めてで、少し驚いてると、ハッとして下を向いた。
何だよそれ、俺が伊織の事何も知らないみたいな……
「……怜ちんとなっちがいるだろ」
「本当に仲の良い奴は二人だけだ」
「…………」
「俺は強くなんかない。強がってるだけだ。仲間を増やさないのも、もう失いたくないからだ」
「なぁ、その失うとかって何?前も守れなかったとか言ってたけど、それ話してくれねぇと俺もお前の事分からねぇよ」
夏休みにみんなが家に泊まった時、伊織が「今度こそ守る」って言ってたのを思い出した。
そん時は落ち着いて話聞けなかったからうやむやになったけど、第一伊織は自分の事を話そうとしねぇ。
いつも誤魔化してヘラヘラしてんだ。
それなのに、今更俺の事分かってねぇとか勝手過ぎんだろ。
俺はベッドに座る伊織の隣に座って話を聞き出そうとした。
話してくれるか分からねぇ。
またはぐらかされるかもな。
伊織は下を向いたままボーっとしてるように見えた。
「伊織ぃ、話さねぇんならもう俺に偉そうな口きくなよ。何も分かってないって言ったけど、そうだよ。知らねーもん伊織の事。教えてくれねぇからな」
「……俺は」
「お?」
「中学の時に一人だけ付き合った奴がいた。そいつとはガキの頃から一緒で、怜ちんとなっちも知ってる奴だった。お互い好きだってなって付き合ったんだけど、俺と付き合ったせいで周りに目を付けられていじめられたんだ。もちろん俺や怜ちん達で助けてたけど、そいつは相当来ちまってたらしくて、とうとう……」
「伊織……」
話し始めた伊織の言葉をずっと聞いていると、伊織が震えてるのが分かった。
顔色まで悪くなって、一体そいつに何があったんだ?
言葉に詰まる伊織の背中をさするとポロッと涙を流した。
「そいつはビルの屋上から飛び降りたんだ……」
「まじかよ……」
「幸い命は助かったけど、その後俺達を避けるように転校して行った……俺はそいつが苦しんでたのに、何も出来なかったんだ……それっから人を好きになるのも好かれるのも怖くなった……」
衝撃的な話に俺は言葉が出なかった。
伊織の過去を知りたかった筈なのに、俺は何も……
俺は震える伊織を抱き締めて頭を撫でてあげていた。
驚いたけど、何だろうこの気持ちは。
知らない伊織だけど、話を聞いて伊織と言う人間が俺の中で変わった訳じゃねぇ。
だって俺が知ってるのは今の伊織だから。
「貴哉に惹かれていってるのに気付いてダメだって思ったけど、止められなかった。好きになって自分の物にしたいって思っちまって……はは、今度は嫌われるのが怖いなんてな。やっぱり誰かを好きになるのなんて辞めておけば良かったんだ……」
「……話してくれてありがとな。知らなかった伊織を知れて嬉しい。でもさ、伊織の事だから全力で守ってやったんだろ?俺がバスで襲われそうになった時みてぇに。それでもそいつは気の毒だったけどよ、生きてるんならいつかはまた笑えるだろ。俺は今の伊織ならそれでいいやって思う」
「……貴哉ぁ」
「俺がそいつならぜってー選ばねぇ選択肢だけどよ、そいつは自分で選んだんだ。伊織が自分を責めるのは違くねぇか?まぁ、お前自身にもっと方法があったって言うんなら力不足だったのかもしれねぇけどよ」
俺は思った事を言っていた。
残念だが、俺はこう言う時に気を使えるような人間じゃねぇ。
自分から命を捨てるのは間違ってると思ってるからな。だってそんな事したら母ちゃんにぶっ殺されるだろ。
伊織は俺にしがみ付くように抱き付いて来た。
どんなに完璧だと思われる人間にも弱点ってあるもんなんだな。
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