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1章
連絡先
しおりを挟む高校生活初日が無事に終わった。夕飯を食べて風呂に入って、部屋のベッドに倒れ込む。
特に何かした訳じゃないけど、疲れた。慣れないバスのせいか?中学の時は全部徒歩だったからバスの方が楽かと思ったけど、待ちの時間や、混んだ時とかはバスの方が疲れるな。
そんな事を考えながらゴロゴロしてると、スマホが鳴った。見てみると澪からのメッセージだった。
『◯◯のファミレスに電話したら面接してくれる事になったよ!明日面接行ってくる!』
開いてみるとそんな報告だった。どうやら学校の近くを選んだらしい。
文面だけ見るといつもの澪だ。あの後もいつもの澪じゃなかったから心配だったけど、バイト始めたら変わるかもな。
『頑張れ。もし受かったら遊びに行ってやる』
澪の事だから上手くやるだろう。
ふとスマホをいじっていて思い出した。そう言えば和久井から連絡先貰ってたんだ。和久井が俺の鞄に入れてたのを思い出して取り出すと、綺麗な字で電話番号とメッセージのIDが書かれていた。さて、何て送ろう?
『こんばんは』
考えた結果これになった。名前は苗字で登録してあるから分かるだろう。すると、すぐに既読が付いて返事が返ってきた。
『こんばんは。連絡してくれてありがとう。改めてこれからもよろしくね』
当たり障りのない文面。もちろん俺も。
『こちらこそよろしく』
それだけかと思って画面を閉じようとしたらまた返事が来た。
『今何してる?』
『部屋でゴロゴロしてる』
『電話してもいい?』
え、何で?と思ったけど、用があるのかと思ってすぐにかけてみた。
「もしもし?和久井か?」
『あ、俺から掛け直すよ!』
「いや、いいよ。無料通話だし。で、どうした?」
『ちょっと話したいなぁと思って。ダメかな?』
「大丈夫だよ。で、話って?」
『んー、特にないんだけど』
「は?なんだそれ」
『怒らないで?夏樹と仲良くなりたくて、もっとたくさんいろいろな話がしたいんだ』
何か用があると思っていたから、拍子抜けした声を出したら怒ってると間違われてしまった。確かに昼間も仲良くなりたいとか言ってたな。まぁ暇だしいいか。
「怒ってねーよ。いいよ話そうぜ」
『やった。夏樹ってさ、話すと見た目の印象と違うよね』
「どんな奴だと思ってたのよ?」
『第一印象はね、綺麗だなって思ったんだ。きっと話し方とかも静かで品があるのかなって』
「ほう、話したら汚かったと」
『そうは言ってないよ。見た目より男らしくて面白かったよ』
電話越しに和久井が笑ってるのが分かる。この話題は良くされて来たから慣れてる。みんな俺の見た目に騙されるけど、俺は立派な男だ。
「そりゃ良かった。和久井は見た目通りだな。見た目も中身も明るい」
『夏樹にはそう見えるんだね。本当の俺を知ったら嫌われちゃうかもな』
「本当の俺ってどんな?嫌いになるか判断してやるから言ってみて」
『んー、まず俺自身、明るいとは思ってないんだ。むしろ暗いなーって思う』
「嘘つけ。誰にでもニコニコしてて明るいじゃん」
『あ、じゃあ俺の中身が暗いのかな』
「なんか良くわかんねーけど、今のところ嫌いにはならないよ」
『ふふ、嫌われないように努力するよ』
あ、ちょっと澪の事話してみるか?てかそもそも和久井の恋愛対象が女だったらアウトだけど、澪の話する前に探ってみるか。
「和久井はさ、モテて仕方ないと思うけど、男とかにも言い寄られた事あるの?」
『……あるよ。夏樹もあるでしょ?』
「俺の話はいいんだよ。そんでさ、言い寄られてどうした?付き合ったりしたの?」
『中には付き合った人もいたけど、どうしてそんな事聞くの?』
おっと、あまり聞き過ぎるのも良くないか。デリケートな話題だしな。男も大丈夫って知れたし、この辺にしておくか。
「悪い、変な事聞いたよな。気にしないでくれ」
『ううん。どうして夏樹がその事を気にしてるのか気になるんだ』
「どうしてって、お互いモテ男同士いろんな苦労して来た事を分かり合えるんじゃないかなーって思ってさ」
ちょっと苦し紛れすぎたか?適当に言い訳してみたけど、和久井の声は真剣だった。
『夏樹は、男性に告白とかされて嫌な気持ちになるの?』
「嫌ではないけど、困るかな。ほら、ふざけてなら適当にできるけど、相手が本気だったらちゃんと向き合わなきゃじゃん?」
『夏樹は優しいんだね。付き合った事あるの?』
「男とはない」
『女性とならあるんだ』
「いや、あるけど、無いに近いかな」
『どういう事?』
正直、今日会ったばかりの相手にここまで話すのはどうかと思ったけど、何故か話そうと思ってしまった。和久井の物腰の柔らかさで話しやすくなってしまったのか、澪以外にここまで打ちあけるのは初めてだった。
「中学の時にさ、告られて付き合う事になった女がいたんだよ。でもその女の事、好きになれなかったんだ。多分俺は、周りでそういう話題とか増えて経験してみたかっただけなんだと思う」
『うん』
「結局何が楽しいのか分からなくてすぐに別れたんだけど、それからは誰とも付き合ってない。誰かを好きになる事もなかった」
『そうだったんだね。話してくれてありがとう。夏樹はキチンと相手の人と向き合える優しい人なんだね』
「優しくない。優しかったらそんな理由で付き合わないだろ」
『でも、付き合わなかったらその子とは合うか合わないか分からないよね?だから、理由は何でもいいと思うよ。そしてすぐに気付いてキチンと別れたんだから何も悪い事はしてないでしょ』
「……まじかよ」
実はこの事は俺自身後悔していたんだ。誰にでも言える話じゃないし、忘れようにもどうにも頭から離れないでいた出来事だったんだ。それを澪以外の誰かに話せて理解してもらえた開放感が、俺にはとても安心できて嬉しかった。
「やべ、少し泣きそう」
『えー、泣くなら俺が側に居る時にして?じゃないと何もしてあげられないよー』
「あは、和久井って面白いな」
『夏樹も面白いよ。でも隣の席になれて本当に良かった。じゃなかったらここまで仲良くなれてなかったよね』
「確かになー、朝一瞬目が合っただけだもんな」
『運命かもね♪』
「お前、それは付き合ったやつに言うやつだろ」
その後も和久井と遅い時間まで電話で話した。まさか会ったばかりのやつとこんなに盛り上がるとは思わなくて自分でも驚いた。
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